「銀の匙」中勘助が暮らした百年前の平塚の自然 市博物館で景観たどる企画展

中勘助が住んでいた当時の平塚の景観などを紹介する企画展「作家中勘助の詩を詠む日々と平塚の自然」=平塚市博物館

 小説「銀の匙(さじ)」で知られる作家・中(なか)勘助(1885~1965年)が暮らしていた頃の神奈川県・平塚の自然を紹介する企画展が、平塚市博物館(同市浅間町)で開かれている。詩や随筆に登場する景観をたどることで、平塚の魅力と作品の奥深さを再発見することができる展示となっている。11月3日まで。入館無料。

 中は24(大正13)年から32(昭和7)年にかけて、母らの保養のために平塚の西海岸(現在の同市龍城ケ丘)に居を構えた。代表作の一つ「しづかな流(ながれ)」は、平塚での暮らしぶりを活写した日記体の随筆だ。

 企画展「作家中勘助の詩を詠む日々と平塚の自然」では、この時期の中が好んで散歩し、「しづかな流」で取り上げた平塚の景観や植生を展示。中の功績を後世に伝えようと2013年に発足した「平塚ゆかりの作家 中勘助を知る会」(大蔵律子会長)と同博物館の学芸員が実際に散歩道を歩き、1世紀近く前の平塚の姿をたどった。

 作中に登場するハマボウフウやハマエンドウといった植物、コサギやオオルリなどの鳥を写真や剥製などで紹介。現在は見られなくなったカワラナデシコなども展示している。お気に入りの散歩道をたどれる大型地図も作成し、平塚海岸通りや花水川河口などを執筆と同時期に撮影された写真と現在の写真で比較できるようにしている。

 「中が暮らしていた当時の平塚海岸では桃が栽培され、今では幻のキノコといわれる松露が黒松林で採れた」と大蔵会長。「発展前の平塚の豊かな自然を知ってもらうとともに、中勘助の作品をより深く理解し、平塚の魅力を再発見してもらえたら」と話している。

 午前9時~午後5時。月曜休館。隣接する市中央図書館でも期間中、所蔵する「しづかな流」などを展示している。

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