金正恩の「豪華住宅」建設指示に、庶民は「まず腹いっぱい食わせろ」

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北朝鮮の首都・平壌で、「平壌市1万世帯住宅」と共に現在進められているメガプロジェクト、「普通江(ポトンガン)川岸段々式住宅区」。

いずれも金正恩総書記が打ち出したものだが、後者には「各部門の労力革新者、功労者、教育者、文筆家などに『贈り物』として与えよ」との指示が出され、多くの幹部が入居するものと見られている。この手の高級住宅は、多くが平壌にあるものだったがこの度、地方都市にも建設せよとの指示が下された。

咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、内閣は今月4日、「党の雄大な5カ年建設計画(国家経済発展5カ年計画)の残りの4年間で、各道も建設に邁進しなければならない」との指示文を出し、その中で「段々式(テラス式)住宅は、(国土の)ほとんどが山地であるわが国(北朝鮮)の地方の実情に合った建設政策の執行で重要な問題」だとして、建物の建っていない傾斜地を確保し、現代的な文化住宅を建設しなければならないと主張した。

指示文はまた、「地方の山地ごとに自然の起伏に合わせた建設工法と建築設計を発展させなければならない」「現代的段々式住宅をうまく建設すれば、景色も一新され、地方人民の不足する住宅問題も解決されるだろう」としている。

このような指示を受けて、咸鏡南道当局はすぐさま準備作業に着手し、今年中に斜面にある敷地を確保し、総合設計総計画案を立案した上で、金正恩氏の批准を受ける方針だとのことだ。

既に設計者、技術者などの募集は完了し、内閣建設建材工業省と国家建設監督省から派遣された人員を合わせて、設計に関する実務チームが立ち上げられた。続いて、敷地の確保、地形の計測や環境の調査、周辺道路の美化事業なども進められる。

平壌にばかり気を使っているという批判を意識したのか、地方にも高級住宅を建設し、「愛民指導者」というイメージを宣伝しようという意図があるものと思われるが、地元住民から聞こえてくるのは、当局の思惑とは裏腹に、冷笑と批判ばかりだという。

「段々式住宅区建設もいいが、多くの農地、段々畑、個人の畑を侵犯しすぎるのではないか」
「穀物を多く育てて腹いっぱい食べられるようにすぐのが先なのに、党はあまりにも建設にばかり執着する」(地元住民)

都市周辺の傾斜地、山地には、ビッシリと畑が造成されている。1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」を生き抜くため、多くの市民が山を切り開いて造成したものだ。収穫された作物は持ち主家族の命をつなぐだけではなく、余剰分は市場で売られるなど、経済の一部に組み込まれている。

私経済(インフォーマルセクター)の肥大化を嫌った当局は、そんな畑を人々の手から奪おうとしているが、今回の住宅建設計画も同じ結果をもたらしかねないということだ。

これらの畑から供給される作物の量は決して少なくなく、多くの畑が没収されることになれば、食糧危機に拍車がかかったり、食糧価格の上昇につながったりするおそれもある。

北朝鮮の政治の基本の一つは、最高指導者が人民に「贈り物」を下賜することで心をつなぎとめる「贈り物政治」だ。また、手っ取り早く最高指導者の実績を示せることもあり、住宅建設はうまみがあるのだ。

しかし、その恩恵に預かれるのはごく一部の人だけ。ほとんどの人にとっては、土地を奪われ、建設への動員という形で労働力を奪われ、労働者支援との名目で金品を奪われるだけのものなのだ。

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