128人中128番目の指名で「良かった」 鷹育成14位・仲田慶介の“這い上がり人生”

ソフトバンクから育成14巡目で指名を受けた福岡大・仲田慶介【写真:小林靖】

福岡大大濠高には一般入試、福岡大には野球ではなく学力推薦で入学

11日に行われた2021年の「プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD」では、支配下77人、育成51人、総勢128人の選手が指名を受けた。その128人のうち、128番目。ドラフト会議が始まってから3時間以上が経過し、最後の最後に名前を呼ばれたのが福岡大の仲田慶介だった。遠投120メートルの強肩が最大の魅力で、右投両打の三拍子そろった外野手。地元球団であるソフトバンクから育成14巡目で指名を受けると、安堵の涙を流した。

「最後というのも逆に良かったというか、もう這い上がるだけなので。絶対這い上がってやるぞっていう気持ちです」。指名を受けて、こう語った仲田には「支配下が良かった」「もっと上の順位で指名されたかった」といった色気は全くなし。子どもの頃から夢見てきたプロ野球選手という夢を叶えられた喜びと決意に満ち溢れていた。

「這い上がる」という言葉がこんなにも似合う選手は他にいないだろう。その野球人生は“這い上がり”の連続。中学、高校、大学……。ドラフトを前にしても「いつも下から這い上がるタイプなので、もし次のステージに行くことが出来ても、今までの経験を生かして這い上がりたいです」と屈託のない笑みを浮かべていたのが印象的だ。

小中学生の頃から決して目立つ選手ではなかったものの、プロ野球選手の夢が揺らいだことはない。高校は名門への進学を志していたものの、当時の仲田には推薦や特待生といった話はなかった。猛勉強の末に、一般受験で甲子園出場経験もある福岡大大濠高に合格。今度は、推薦で入ってきた選手たちとの実力差を痛感する日々にぶち当たった。

仲田のモットーは「とにかく人より練習する。人が寝ている時に練習する。人の倍練習する」

同学年には、このドラフトで西武から3位指名された古賀悠斗捕手、DeNAから4位指名された三浦銀二投手を中心に有望な選手が揃っていた。3年春に出場した選抜で仲田は控えながらベンチ入りを果たし、準々決勝では甲子園の土も踏んだ。高校最後の夏は甲子園まであと一歩のところで敗退したが、一般入学からレギュラーに。見事に這い上がってみせた。

とはいえ、プロ野球選手に手が届くほどではなく、今度は大学4年間でプロを目指すことにした。福岡大にも野球推薦ではなく、高校時代の成績が優秀だったことから、勉学面での推薦で入学した。大学入学後も、なかなか試合に絡めないところからのスタート。それでも「とにかく人より練習する。人が寝ている時に練習する。人の倍練習する。それを継続してやること。(誇れるのは)練習量、それだけです」と黙々と汗を流してきた。

2年秋にようやくリーグ戦デビューを掴んだが、3年春はコロナ禍で大会が中止。困難は続いたが、3年秋にはリーグ戦でフル出場を果たし、4年春には初めてベストナインにも輝いた。全日本大学選手権で福岡大は史上初のベスト4と大躍進。仲田も全4試合に1番打者として出場して、チームを牽引した。

大事にしてきた「克己心」という言葉「自分に負けない」

高校時代も大学時代も地道な努力で這い上がり、最後にはチームの中心選手になってきた仲田。「やってすぐに結果が出る人と比べると、僕はこれだけやっても(結果が)出ないかというタイプでした。心が折れそうになったことは何回もありますが、やり続けていたら、最後の最後で出るんだと今も信じてやっています」。プロ野球の世界でも“育成の最下位”からのスタートになった。

今でこそ、遠投は驚異の120メートルを誇るが、高校時代は80メートル程度。何か特別なキッカケがあったわけではなく、トレーニング、食事、体の使い方、投球フォームの見直しなど、コツコツとやってきたことが噛み合ってきた時に、爆発的な成長を実感したのだという。

スイッチヒッターというのもプロを目指す上で“特徴”を作るためだった。小学校は右打ち、中学からは左打ちだったが、大学入学後に両打ちに挑戦。とにかくバットを振り込むと、どちらの打席でも遜色なく打てるようになった。現在は、50メートル6秒1の脚力を、より速くするために専門家のもとでトレーニングを積んでいる。貪欲に努力し続け、自らの手で夢を手繰り寄せるというのが“仲田流”だ。

大事にしてきたのは「克己心」という言葉だ。「自分に負けない。練習でも、今日はこれくらいでいいかなという所で自分に勝つというのを意識してやってきました」。強い思いを持ってやってこられたのは、ある景色が脳裏に焼き付いていたから。福岡市で生まれ育った仲田は生粋のホークスファン。「子どもの頃からドームでずっと野球を見てきたので、自分がそこでプレーしている姿を想像して、それをモチベーションにやってきました」。童心に返ったように澄んだ瞳で話す仲田が、原点ともいえるホークスでプロ野球人生をスタートさせる。(上杉あずさ / Azusa Uesugi)

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