「周到」には程遠く

 熟語の〈用意○○〉。空欄には「ドン」という答えも当てはまるかもしれない。「位置について」とくれば、誰でもそう言うから、一つの慣用句だろう▲過去2回は、時の首相がいきなり「用意ドン」と唱えて、総選挙になだれ込んだ。2014年、当時の安倍晋三首相は、アベノミクスをこのまま進めてもよいか、という理由で衆院解散に踏み切る▲経済政策は「道半ば」というのだから、先を急げばいいものを、なぜ是非を問うのだろう? “大義”に首をひねったが、それは17年秋も同じで、税率を引き上げた後の消費税の使い道を教育に振り向けたいから国民の信を問う、と言い出し、衆院選に突入する▲消費税の使途が問題になっていたわけでもない。不意打ち解散に「用意周到」とは誰も言えなかったろう。野党に準備の隙を与えない。勝てると見れば選挙を仕掛け、理由は後で考える。これが安倍流らしく、どちらも自民党が圧勝した▲4年間の任期満了を目の前にして、衆院選がきょう公示される。岸田文雄首相の就任から10日後に解散、その解散から17日後に投開票と、どちらも戦後最短となる▲不意打ちどころか「まだかまだか」といわれてきたのに県内の選挙区の動きは慌ただしい。「周到」とは程遠いまま、短期決戦に「用意ドン」の号砲が鳴る。(徹)

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