急激に高まるインフレ懸念、背後にある原油高騰を抑えるために必要な2つのこと

10月も後半に差し掛かる世界の株式市場では、相場が回復傾向を示すものの、先行きの不透明感が完全に払拭されたとは言いがたい状況にあります。懸念材料として注目されているのは、インフレ加速とその背後にあるエネルギー価格の上昇です。


WTI原油価格が7年ぶり1バレル=80ドル台に

WTI原油価格は、直近でついに80ドルの大台に乗せました。北米の天然ガス価格も一時は単位あたり6ドルを超え、いずれも2014年以来の高値を付けています。コロナ下での供給制約によって、思うように生産量が伸びず、需給のミスマッチが価格高騰を引き起こしていると考えられます。

過度のインフレ抑制には原油価格の安定が不可欠

経済再開に向かう中国で、発電燃料としての石炭が不足し、代替燃料として天然ガスや原油に価格上昇圧力が飛び火しているとの解説も聞かれます。株式市場が警戒する米国やその他の国々でのインフレ加速は、結局のところ原油価格の動向に影響を受ける部分が大きいように感じられます。

そのため、少なくとも原油価格の高騰が一服しない限りは、市場のインフレ懸念を抑え込むことは難しいと言えるでしょう。果たして、原油価格の上昇はどこまで続くのでしょうか。

注目は11月のOPECプラス会合

現時点でそれに対する明確な答えは見出せないものの、一つのきっかけとなり得るのは、OPEC産油国による増産ペースの加速であると指摘できます。10月のOPECプラスの会合では、計画に見合ったかたちでの減産規模縮小(増産)の決定にとどまりました。

11月の同会合で計画以上の増産姿勢が示されれば、原油市場には需給ひっ迫の緩和というメッセージとして伝わると見られます。短期的にはこれが原油価格高騰をクールダウンさせる、もっとも効果的な方法といえるかもしれません。

シェール革命の米国では原油生産の回復に遅れ

もう一つの選択肢としては、米国での原油生産の回復が挙げられます。コロナショック後の米国では、原油の生産量が大幅に縮小し、未だにコロナ前の正常な状態を取り戻していません。

米国での原油生産がままならないのは、石油会社による開発費削減という側面が大きいのは事実ですが、それとともにサプライチェーンの混乱による部分も大きいと推察されます。具体的には、上流開発の現場で従事する労働力の絶対的な不足です。

米国ではワクチン未接種が労働市場のボトルネックに?

今の米国は企業の求人数が過去最高レベルに達しながらも、それが必ずしも雇用の拡大につながっていません。新型コロナの感染への不安から、職場復帰を果たせないケースもあると言われますが、それ以外の要因で足かせとなっているのが、企業が従業員に求めるワクチン接種です。

米国ではワクチン肯定派と否定派で、接種の取り組みが二分された状態にあり、国全体ではワクチンの接種比率が伸び悩んでいます。開発の現場に労働力が供給されないのは、そうした事情も大いに関係しているようです。

とはいえ、これまでバイデン政権の下で労働者(失業者)を保護してきたパンデミック対応の救済策(失業手当の上乗せ等)は、すでに期限切れとなっています。しばらくの間はこれまでの給付で食いつなげるかもしれませんが、いずれそうした蓄えも尽きるでしょう。

必要に迫られて職場復帰を目指す人は、ワクチン接種が条件となれば、消極的ながらも応じずにはいられないであろう。そうして、雇用のスラックが解消され、生産現場に労働力が戻れば、一定レベルで米国の原油生産量は回復に向かうと考えられます。

原油価格の高騰が、そう遠くない将来に沈静化してくれば、株式市場の不透明感を高めているインフレ懸念もある程度、落ち着いてくるのではないかと期待しています。

<文:チーフグローバルストラテジスト 壁谷洋和>

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