〈じょうえつレポート〉上越妙高駅前に局所整備 ローカル5G拠点 技術革新、企業誘致へ 全国でも珍しい屋外実証フィールドも

 人工知能(AI)時代の情報インフラ基盤として注目される通信規格「5G」を局所的に整備し、技術開発や企業誘致につなげようという動きが、上越妙高駅前で始まっている。全国でも珍しい屋外実証フィールドもあり、関係者は「技術革新(イノベーション)やIT関連企業の誘致につながる」と期待している。(報道部・上原雅樹記者)

 通信規格「5G」は最高伝送速度が10ギガビット/秒という超高速に加え、タイムラグ(遅延)が少なく、スマートフォンやパソコン、センサーなどの多数同時接続に耐えられるのが特長。それを地域企業などがビルや敷地内でスポット的に構築できるようにしたものを「ローカル5G」と呼ぶ。

 上越妙高駅前では、西口の商業ビルに設けた拠点「JM―DAWN」(ジェーエム・ドーン、DAWNは夜明けの意)と釜蓋遺跡公園にネットワークを構築。オフィスでは超高速・低遅延を生かしたダンスのオンラインレッスン、回線トラブルによる中断が許されない会議、大容量のデータをやりとりするIT企業のサテライトオフィス開設などを見込む。屋外では産業機械のIoT化やロボットなどの実証実験場としての需要を想定する。

新潟市のローカル5G拠点とを結んだチアダンスのオンラインレッスン。高精細で遅延のない映像は、」複雑な動作の解説にも耐えられる

産官学金連携プロジェクト

 事業主体は、システム構築や保守を手掛ける丸互(上越市)。昨年、県の「アフターコロナを見据えたイノベーション創出支援事業」に採択され、NTT東日本や上越市、拠点を貸し出した飛田観光開発(上越市)、起業支援を手掛ける北信越地域資源研究所(同)など、産官学に金融機関を加えてプロジェクトを進めてきた。丸互の前川秀樹社長は「上越市が(全国の自治体との競争で)生き残るには、インフラが必要。ローカル5Gはその一つとなり得る」と自信を見せる。

 「JM―DAWN」は約240平方メートル。オンラインの会議やレッスンで使うスタジオと約30席のコワーキングスペース、サテライトや起業の際の拠点となるオフィススペースで構成。オフィスはすでに1社が内定し、残るスペースへの誘致を進める他、一つのスペースを複数人でシェア(共有)できるようにし、コストを最小化したい起業中の人を受け入れることにしている。関係者は「起業の際はここ(JM―DAWN)で登記することもできる。ここを拠点に大きく羽ばたいてほしい」と期待を寄せる。丸互などは各スペースの利用条件設定などを急ぎ、11月からプレオープンさせる予定だ。

未来志向の実践的な開発

 ローカル5Gの活用により農業や防災、ものづくりをはじめとする、地場産業の振興に向けた新技術開発が見込まれるものの、「ローカル5G」はまだ一般的に認知されたとは言いがたい。通信事業の関係者によると、首都圏でもローカル5G環境を整備した企業は少ない。

 前川社長は「地元企業や農業関係者が、自分たちも(ローカル5Gを)使える、と思ってもらえるように取り組んでいく」、NTT東日本新潟支店の徳山隆太郎支店長は「例えば農業、工業の実験など、できることを模索している」と話す。

農業用ロボットのデモンストレーション。ローカル5G環境により、操作の安全性などが高まる

 上越市内の経済関係者は「新しい開発拠点の誕生により、机上のミーティングでは生まれない、実践的なトライアルが可能となり、未来に向けたユニークな開発案件が生まれてくることを期待したい」として、今後の取り組みに注目する。IT企業の誘致や起業支援は全国各地で行われており、上越ならではの独自性も必要だ。

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