米国からバスケットボールが消えた衝撃 本紙評論KJが語った喪失感

NBAも中断(ロイター=USA TODAY Sports)

新型コロナウイルス感染拡大に伴って米プロバスケットボールNBAはシーズンを中断している。当初は無観客開催の方針だったが、検査で陽性の選手が出たために急きょストップ。その真っただ中にいる選手の心境はどんなものなのか。実際にシーズン中断と無観客での試合再開を経験した本紙バスケット評論のBリーグ京都ハンナリーズ、松井啓十郎(34)が心境と、米国でバスケットボールが“消滅”した意味の大きさを語った。

Bリーグは14、15日に無観客で試合を開催。京都もホームで名古屋と連戦しましたが、正直、練習試合のような雰囲気でやりづらかったです。公式戦なので集中しなければいけないのですが、直前にNBAが中断となったこともあって「試合していいの?」「健康は大丈夫?」といった気持ちも交じって、両チームとも集中力がなかった感じでした。

歓声もブーイングもない。いつも見るお客さんの顔もない。大きい体育館でゴール裏に人がいないと「奥行き」を広く感じて、シュートの距離感が違ったのではないでしょうか。これがNBAの2万人前後入るアリーナだと、無観客の違和感は相当なもの。人前で試合をするのが普通なので、無観客となると「誰のためにやるの?」と…。

アリーナにファンが来てくれてこそのエンターテインメント。その方たちに非日常を味わわせたり、夢を与えるのが選手の仕事です。何も心配事がなくなり、お客さんも揃ってやるのがベスト。そうでないと、いつものパフォーマンスを見せることは無理だと思います。

NBAとMLB、NFL、NHLを米国の「4大スポーツ」と呼びますが、帽子や防具を着用する他競技とは違い、バスケットは素顔で、ユニホームを着ていても露出が多いので体形がわかるぐらい。試合でのベンチ入りは12人だけで、コートサイドのお客さんの目の前でプレーしますから選手の顔と名前が一致しやすい。他の3種目は距離が遠くて顔もよく見えず、さらに選手が何十人といます。

NBAの平均年棒(約770万ドル=約8億2000万円)は世界のプロリーグの中でトップ。こうしたことから、いかにバスケットの存在が米国では大きなものかをイメージしていただけるかと思います。

さらに3月の米国は「マーチ・マッドネス」と呼ばれる、大学バスケット一色の雰囲気になります。これは各地区上位などの68チームが出られるシーズン最後の大会で学生にとっては最大の目標。八村塁選手(22=ウィザーズ、ゴンザガ大出身)が日本人で初めて出場しました。

大会はまず「ファースト4」と呼ばれる4試合を行い、勝者と残りの計64チームでトーナメントを本格的に開始。この組み合わせが決まるとESPN(スポーツ専門局)で「トーナメント・チャレンジ」というイベントが行われます。これは1回戦から決勝までの全63試合の勝敗を、どこが勝ち上がっていくのかを含めて予想するもので、米国在住の18歳以上なら無料で参加可能です。この「正解」をポイント化し、最も多く獲得した人は1万8000ドル(約192万円)分のギフトカードなどがもらえます。

選手にとっては一発勝負のトーナメントのプレッシャーの中でどれだけのパフォーマンスができるか。6月のNBAドラフトに向けたアピールの場です。強豪ではないチームが勝ち進んで、あまり注目されていなかった選手が一気にドラフトで上位指名されることもあります。近年の代表例がステフィン・カリー(32=ウォリアーズ)です。

これだけのビッグイベントがなくなるのは日本では甲子園の高校野球が中止となったのと同じようなイメージです。学生ですから選手の安全を守ることが優先とはいえ、NBAと合わせて、3月の米国からバスケットがなくなった衝撃はかなりのものだったのです。

☆まつい・けいじゅうろう 1985年10月16日、東京都出身。バルセロナ五輪の「ドリームチーム」を見た父親の勧めで小学1年からバスケットを始め、6年時にはイベントでマイケル・ジョーダンと1対1で対戦した。高校から米国に渡り、コロンビア大学では日本人男子で初めてNCAA1部でプレー。卒業後は帰国し、今季から京都に加入。3点シュート成功率は現在日本人でトップ。ニックネームの「KJ」は、米国で「けいじゅうろう」を覚えてもらいにくいために使い始めた。188センチ、83キロ。

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