北朝鮮の犯罪者がワイロを払って留置場にとどまり続ける訳

北朝鮮北部の両江道(リャンガンド)。山がちで土地も痩せ、鉱業、林業以外の産業もなく非常に貧しい地域で、政府もそんな地方の人々の暮らし向きにさほど関心を示さない。だが、中国と国境を接するというロケーションを生かした密輸が盛んとなり、道庁所在地の恵山(ヘサン)はいつしか、北朝鮮有数の商業都市へと発展した。

ところが北朝鮮当局は、こうした行為に対する取り締まりを強化しており、違法行為を前提に回っていた地域経済、市場は活気を失ってしまった。

一方、それとは裏腹に人で溢れかえっているところがある。両江道安全局(県警本部)の留置場だ。取り締まり強化の結果、逮捕、勾留される人が相次いでいるのだ。そんな現場を、首都・平壌の検察官が視察に訪れた。現地のデイリーNK内部情報筋は、その時の様子を伝えている。

中央検察所(最高検察庁)の検閲員(監察官)4人が今月2日、道安全局の留置実態を調べるとの名目で突然やってきた。1部屋あたりの定員8人のところに20人以上が勾留され、夜も横になって眠れないほどのすし詰めになっている状況を見た彼らは、呆れた表情を浮かべつつ、こう語ったという。

「これは両江道の思想が不健全だという現れだ」
「犯罪都市を彷彿させる」

元はと言えば、中央がこの地域の経済、人々の暮らしに関心を示さないことに端を発しているのに、「思想が不健全」云々するのは、平壌の官僚がいかに地方に無関心であるかを示している。

検閲員は道安全局に、「時間稼ぎをせずに罪人をさっさと処理せよ」と言い渡し、今月中に、罪状の軽い者は軽犯罪者を収監する労働鍛錬隊に送り、予審(起訴前の証拠固めの段階)が3ヶ月以上経っている者は教化所(刑務所)に送って、留置場の収容人数を減らせとの具体的な指示を下したとのことだ。

また、人が溢れかえっていることは道安全局が案件の処理をまともにできていないからだと批判した上で、15日後にまた監査にやってくると言い残し、その場を去ったという。

なぜこんな事態になっているのか。それは道安全局にとって、取り締まりの強化は「カネ儲け」のビッグチャンスだからだ。情報筋は説明する。

「わが国(北朝鮮)では予審期間や留置場にいた期間を刑期に含める。経済的に余裕のある人は、捕まればなんとかして留置場の中で刑期を終えて出るために、安全局にワイロを渡す」

安全局では取り調べの過程で当たり前のように拷問が行われ、まともな食事が提供されないが、それでも社会と完全に切り離されていないため、家族らの差し入れなどでなんとか生き抜くことができる。一方で教化所は山奥にあることも多く、きつい労働を強制され、家族の頻繁な面会も望めない。教化所よりも安全局の留置場の方がまだマシなのだ。

捕まえた側も、捕まった側もそんな事情を知っているため、ワイロを払うまで勾留を続ける、ワイロの支払いを遅らせてできるだけ長く留置場に居座るという、暗黙の了解に基づいたシステムができているということだ。

そんなシステムが中央からの横やりで崩れてしまい、長く居座ろうとしていた人々は焦っているという。だが、まだチャンスはあるかもしれない。地獄の沙汰もカネ次第。裁判での量刑はワイロで減刑できて、教化所行きになったとしても、カネとコネを使えば、強制労働を免除してもらえたり、刑期を大幅に免除してもらえたりするのだ。

中央は、そんな不正を防ぐために監視の強化、システムの変更を行ってはいるものの、その度に新たな手法が編み出される。これが「上に政策あれば下に対策あり」と言われる国の、司法制度の実情だ。

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