松坂大輔が背負い続けたものとは? 涙あり笑いあり、全てをさらけ出した引退会見

西武・松坂大輔【写真:荒川祐史】

涙で25秒絶句し「だから会見したくなかった」そこからまた30秒沈黙

■日本ハム 6ー2 西武(19日・メットライフ)

西武・松坂大輔投手は19日、本拠地メットライフドームで行われた日本ハム戦に先発し、現役最後の登坂。相手の1番打者・近藤に四球を与えて降板した。試合前、ユニホーム姿で行った約1時間の会見では、涙で声を詰まらせるシーンがあった一方、持ち前の明るさで笑いも誘った。

「家族には引退を発表する以前から、『(現役続行は)難しいかもしれない』という話をしていました」と明かした松坂。「その時のご家族の反応は?」と質問されると、言葉に詰まってうつむき、25秒間絶句した。「だから会見したくなかったんですよね」とつぶやき、そこからまた30秒間沈黙。目に涙をためた顔を上げると、「辞めると決めた時には、妻に電話をしたのですが、ちょうど息子もいて『本当に長い間お疲れ様でした』と言ってもらえましたし、僕の方からも『長い間サポートしてくれてありがとう』と伝えさせてもらいました」と声を震わせた。

松坂はメジャー移籍前の2016年、当時日本テレビのアナウンサーで6歳上の(旧姓・柴田)倫世さんと結婚。1男2女をもうけた。家族は松坂のメジャー移籍当時から米国に住み、日本球界復帰後は単身赴任中だ。

「あまり家族のことは言いたくないですし、言わないようにしてきたんですけど」とした上で、「妻とは結婚する時から、批判の声や叩かれることがあった。『自分が守っていくから』と言って結婚してもらったのですが、それができなくて申し訳なかったと思います。妻は関係のないところで叩かれることもあって、気持ちが強い人ではないので、大変だったと思います」。プロポーズの言葉を必ずしも叶えることができなかったという痛切な思いを明かした。

後ずさりしながら会見場をあとにした理由

さらに「『そろそろ辞めるかもしれない』と話していた段階では、子どもたちは『一緒に遊ぶ時間が増えるから、うれしい』と喜んでいました。実際に『辞める』と報告した時も、『やったー! お疲れ様!』と言われるのかと思っていたのですが……みんな泣いていました」と語りながら、何度か涙で言葉を詰まらせた。

野球選手はこういう時、野球について話す分には我慢できるが、家族に言及した途端、感極まる。東京五輪で侍ジャパンを金メダル獲得に導いた稲葉篤紀前監督も、9月30日の退任会見で、妻と子どもたちに対し「感謝の気持ちを伝えさせて下さい」と言った瞬間、突然声を震わせ、号泣しながら「本当にありがとう!」と叫ぶようにして言った。松坂の場合は妻も著名人で独特の重圧、バッシングにさらされてきただけになおさらだっただろう。

一方、湿っぽくなりすぎたと感じたのか、場を和ませる一幕もあった。松坂の引退セレモニーは改めて、12月4日にメットライフドームで開催されるファン感謝イベント中に行われることが発表された。「ファンの方々には、そこで直接何かを伝えられたらと思います」と語り、「今日はナイターで、観客の皆さんにはたぶん(終電までに)時間がない。僕の気遣いです!」と冗談めかして付け加え、笑いを誘った。

また、会見前から報道陣には、ユニホームの背番号「18」の画像を登板前には掲載しないでほしい、との意向を伝えていた。この日のために背番号を「16」から長年慣れ親しんだ「18」に変更した松坂は、ファンにはグラウンド上で最初に見てほしいと考えていたからだ。実際、終始背中を見せることなく会見を終えた松坂は、いたずらっぽい笑顔を浮かべ、後ずさりしながら退場して笑いを取ったのだった。

プロ1年目から「リベンジします」とのセリフが新語・流行語大賞に輝き、「自信から確信に変わりました」と名言も吐いた松坂。故障に悩まされ続けた現役後半は、言動がメディアを賑わす機会も減っていたが、引退会見で改めて抜群のコメント力と豊かな人間性を示した。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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