選挙「余剰金」の使途不明、山際・牧島の両閣僚も さらに野党にも

岸田文雄内閣に経済再生相として初入閣した山際大志郎氏(衆院・神奈川18区)が2009年から直近の2017年までの4回の衆院選で、選挙費用として余ったお金(余剰金)計約2962万円の全額が使途不明になっている。このほかに、閣僚ではIT担当相の牧島かれん氏(衆院・神奈川17区)も同様に、過去の選挙で620万円の余剰金を出しながら、その行方がわかっていない。

選挙の際に、公金も含まれる選挙運動費用を余らせ、その行方がわからない実態については、与野党を問わず、構造的な問題として政界に広く横たわっているようだ。

◆山際・経済再生相、選挙費用の残金2962万円 全額の行方が不明

山際氏については、資料で調査が可能な2009年以降から直近2017年までの4回の衆院選を調査対象とした。

選挙運動費用収支報告書(要旨)によると、山際氏は2009年選挙の際、420万5177円の資金を余らせた。ところが、自らが代表を務める政治団体「自由民主党神奈川県第十八選挙区支部」などにはこの余剰金が戻された記載がなく、約420万円の使途はわからない状態になっている。一方、収入の7割近くは「〜第十八選挙区支部」からの寄付金だった。

お金に色は付いていないとはいえ、政党支部には党本部を経由して毎年、巨額の交付金(公金)が渡されている。また選挙では、ポスター代なども公費負担されており、山際氏が選挙で使った資金も公的性格を帯びていると言える。その残金の行方が分からない状態だ。

山際氏については、同様に2012年選挙では451万9034円、2014年選挙では308万8837円、2017年選挙では1781万5294円の選挙費用をそれぞれ余らせ、いずれも全額の行方がわかっていない。過去4回の選挙で行方のわからない余剰金の総額は2962万8342円に達している。

山際大志郎氏のHPから

フロントラインプレスは山際氏の事務所に3点を質問した。その趣旨は以下の通り。

①なぜ、過去4回の選挙の余剰金を自らが代表を務める政党支部などに返却しないのでしょうか?
②これまでに出た選挙の余剰金は何に使ったのでしょうか?
③今度の選挙時で余剰金が出た場合、どのように処理されるのでしょうか?

山際事務所からの回答は次の通りだった。

「公選法189条に基づいて収支報告されている選挙運動費用の残余財産の使途については、公選法は特に規制を設けていません。政治団体の手引きに選挙運動費用の残金を選挙後の公職の候補者の政治活動に支出した際の課税関係について説明していることに照らせば、残金を個人の政治活動に費消することも是認されており、法令に従って適正に処理しているところです」


◆牧島IT担当相は623万円不明、ポスター業者から投票直後に献金も

岸田政権の下で初入閣を果たした牧島氏も、初当選した2012年の選挙で537万4398円、2014年選挙で52万1372円、2017年選挙で33万8151円の資金を余らせた。牧島氏が代表を務める政治団体「自由民主党神奈川県第十七選挙区支部」などには資金の返却がされておらず、過去3回の選挙で余った総額623万3921円の行方が分かっていない。

牧島氏の選挙資金をめぐっては別の問題もある。

「〜第十七選挙区支部」は2017年選挙の際、公費で賄われる選挙ポスターの印刷を受注した業者から、投票日の2日後に5万円の寄付を受けていたこともわかった。同支部の政治資金収支報告書によると、支部はこの業者から毎月5000円の「会費」を受け取っているが、選挙のあった同年10月に限って、これとは別に5万円を受領している。
同氏の選挙運動費用収支報告書によると、この印刷業者は牧島氏との契約に基づき、いずれも制度上限額の100%に当たる支払いを神奈川県選管に請求。ポスター代として119万1552円、ビラ代として47万6000円を受領した。

牧島かれん氏のHPから

フロントラインプレスは牧島氏の事務所に対し、「選挙の余剰金は何に使ったのか」「印刷業者からの政治献金は業者からのキックバックのように見えるが、実態はどうか」などを質問した。回答は以下の通りだった。

(余剰金について)「選挙運動費用の残余財産については、法令に従い、適正に処理しているところであり、今後も適正に処理する所存である」
(印刷業者の献金について)「契約価格は適正である」「ご指摘の収入は政治団体に対する寄附であり、政治資金規正法に則り、適正に処理している」

これらの問題について、公費負担などの公営選挙制度に詳しい日本大学法学部の安野修右・助教は次のように言う。

「ポスター印刷業者の件をひと言でいえば『露骨』だなと。事実を並べれば、ポスター代のキックバックとして献金を受けたとしか見えません。自由に懇意の業者に発注できる仕組みが採用されていることなど、公営選挙の現行制度は不正が入り込む余地がありすぎます。何の手も付けずにこのまま運用し続けるのか。公選法を見直す必要がありますが、自らを縛るような法改正に議員が腰を上げるのか。疑問です」

政治とカネの問題に詳しく、「政治資金オンブズマン」共同代表を務める神戸学院大学法学部教授の上脇博之教授はこう指摘した。

「ポスター印刷を請け負った業者からの献金は、公費負担と言う『公金』が候補者にキックバックのような形で還流していると見えます。それだけでも、政治的・道義的に問題があります。仮に、候補者と業者が寄付額を上乗せした高い価格で契約を交わしていた場合は、詐欺罪に該当する可能性もあります」


◆与野党を問わず、「行方不明」は広がる

公職選挙法には、選挙費用の余剰金処理に関する規定はないものの、各陣営の資金には政党本部からのお金が流れ込んでいる。政党本部の資金の多くは、政党助成制度に基づく巨額の政党交付金(公金)だ。つまり、選挙資金は公的性格を帯びており、専門家はこれまで何度も「理屈の上でも道義的にも選挙の余剰金の使途は明確にすべきだ」といった指摘を続けてきた。

実際、選挙にはカネがかかると言われながら、かなりの候補者が選挙の際に資金を余らせ、その行方が不明になっている実態は、こうした閣僚にとどまらない。
フロントラインプレスは2019年、「政治とカネ」問題のエキスパートである岩井奉信・日本大学法学部教授(現在は日本大学大学院講師)の研究室と共同し、全国会議員を対象として「余剰金」の実態を調査した。それによると、野党の著名議員らにも余剰金不明の実態は広がっていた。当時の取材結果は、検索機能も備えたデータベースとして公開されているので、ぜひ目を通してほしい。

選挙運動余剰金 議員個別の詳細ビジュアルデータ(東洋経済オンライン+フロントラインプレス、協力・スローニュース)

◆「まずは公選法の改正を、ゆくゆくは『政治活動法』制定で資金の透明化を」

選挙資金の「余剰金」問題について、岩井氏は次のように話している。

「余剰金は選挙資金とはいえ、広い意味では政治資金です。選挙資金も政治資金と同じように扱うべきです。余剰金も処理や報告のあり方について、今の法体系でいけば、公選法で何らかの規定を設けるべきでしょう」

——岩井先生は日頃から「政治活動法」が必要だと主張しています。この意味するところは?

「現実問題として、選挙資金と政治資金を区別することは難しい。政治活動の中に選挙活動があるはずで、選挙資金は政治資金の一部です。公選法と政治資金規正法という2つの法律があり、そして扱う法律が違うから資金の処理の仕方が別、というのはどう考えてもおかしい。僕が主張する『政治活動法』は、この2つ、政治活動と選挙活動を一本化すべきというものです。そうすれば、選挙資金の処理の仕方もわかりやすくなり、そもそも余剰金などという問題も起こりません。政治資金の流れも、より透明性が高まると思います」

■参考
フロントラインプレスと日本大学の岩井研究室が2019年に調査した元データは下記のリンク先ですべて公開されています。引用ルールに基づけば、取材記者や研究者に限らず、誰でも自由に利用できます。

「選挙余剰金」データ LinkDate
「選挙余剰金」データ GitHub

© FRONTLINE PRESS合同会社