自衛隊「日報隠蔽」開示請求の過程で隠蔽を掴む 「自衛隊日報隠蔽」 布施祐仁氏の報道(2012年)[ 調査報道アーカイブス No.22 ]

(防衛省のHPから)


自衛隊が南スーダンの国際平和維持活動(PKO)に参加していた際、派遣地の周辺で大規模な戦闘があった。そのとき、現地ではいったい何が起きていたのか。それを確かめようと、ジャーナリスト・布施祐仁氏は防衛省に対し、南スーダン派遣施設部隊の「日報(日々報告)」を情報開示請求した。ところが、回答は「文書不存在」だった。これをきっかけにして、防衛省による公文書の組織的な隠蔽が暴かれていく――。一人のジャーナリストが徹底して「文書」にこだわり、最終的には稲田朋美防衛大臣をはじめ、防衛事務次官、陸上自衛隊幕僚長らを辞任に追い込んだ。見事な調査報道だった。

2016年7月初め、南スーダンの首都・ジュバでは政府軍と反政府勢力との戦闘が勃発し、同7日に双方はついに武力衝突した。4日後の11日夜、ようやく双方のトップがそれぞれの兵士たちに停戦命令を出したものの、南スーダン政府はこの戦闘で両軍合わせて300人以上が死亡したと発表した。

こうしたジュバでの戦闘について、中谷元・防衛相(当時)は「両軍の間で衝突が起きていることをもって、(PKOの)参加五原則が崩れたということは考えていない」と繰り返し、撤退しないとの考えを強調していた。ジュバでは当時、約350人の陸上自衛隊の施設部隊が活動していた。

安保関連法の成立で、自衛隊はPKOで新たに「駆け付け警護」と「宿営地の共同防護」が実行可能となった。では、南スーダンPKOはそれらの任務を付与できる状況なのか。布施氏は2016年7月中旬、ジュバでの戦闘発生以降、現地の派遣部隊と日本の司令部とのやり取りを記録したすべての文書を開示請求した。ところが9月半ばに開示された文書には現地での戦闘について何も記されていない。

そうした中、別の開示請求で得ていた陸上自衛隊の教育資料に目を通すうち、布施氏は国際活動教育隊の教訓資料として「派遣部隊の日報等」が使われていることを知った。そこで9月末、今度は「南スーダン派遣施設隊が現地時間で2016年7月7日から12日までに作成した日報」とピンポイントで開示請求した。これが一連の取材を大きく動かすことになる。12月9日に届いた開示請求の決定通知書には、想像すらしていない文言が連なっていたのだ。

「本件開示請求に係る行政文書について存否を確認した結果、既に廃棄しており、保有していなかったことから、文書不存在につき不開示としました」

自衛隊の海外派遣という任務の重要な記録であり、教育資料としても活用されている。そんな「日報」が、作成から半年以内に廃棄されることはあり得ない。陸自の文書管理規則ではPKOの関連文書の標準保存期間は3年間と定められてもいた。


◆「公文書の扱い方あんまりだよ」のツイートが大拡散

どう考えてもおかしい。

強い疑問を持った布施氏は2016年12月10日、以下の内容をツイッターに投稿した。

「今年7月に南スーダンのジュバで大規模戦闘が勃発した時の自衛隊の状況を知りたくて、当時の業務日誌を情報公開請求したら、すでに廃棄したから不存在だって…。まだ半年も経っていないのに。これ、公文書の扱い方あんまりだよ。検証できないじゃん」

ツイートには、防衛大臣名での非開示決定通知書の写真も載せた。ツイートは投稿直後から急速に拡散され、報道機関からの問い合わせも殺到。布施氏の情報開示をめぐる事実関係をベースにして、神奈川新聞は1面で「戦闘発生時の日報廃棄 南スーダンのPKO陸自 3カ月未満で」と報じ、東京新聞・中日新聞も1面トップで大々的に報道した。さらに、共同通信、毎日新聞、NHKなども続いた。

このとき、衆院議員の河野太郎氏は神奈川新聞の取材に答え、「日報は明らかに重要な『公文書』であって短期間に廃棄していいようなものではない」「南スーダンへのPKO派遣では駆け付け警護という新たな武器使用任務が付与されている。日報の廃棄はあらぬ疑いをかけられかねない」と指摘している。

その後、日報の存否が再調査されることになり、12月末、統合幕僚監部に電子データとして残っていることが判明した。翌年1月からの通常国会では、組織的な隠蔽だった疑いがあることに加え、文民統制を揺るがしかねないとの見地から野党が追及。特別監察の結果、陸自が日報を意図的に開示せず、組織的な隠蔽を図ったと認定した。公表された日報には、政府が再三否定してきた「戦闘」という言葉が頻繁に使われていた。

さらに、日報の隠蔽は自衛隊イラク派遣でも表面化した。

一件の開示請求をきっかけに、情報公開法や公文書管理法の理念をないがしろにする防衛省の隠ぺい体質に迫った取材。布施氏の仕事は、朝日新聞の三浦英之記者との共著「日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか」(集英社)という1冊になり、「第18回石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」も受賞した。

(フロントラインプレス・本間誠也)

■参考URL
Twitter 布施祐仁 YujinFuse(@yujinfuse)「公文書の扱い方あんまりだよ」
「正しい情報が必要だ」布施祐仁さん 連載企画「憲法 マイストーリー」第5回(47NEWS)
単行本「日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか」(著:布施祐仁、三浦英之/出版:集英社)

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