【客論】 大和総研主席コンサルタント 林正浩

誰一人取り残さない社会を

 SDGsというと、さまざまな目標を表現した17のカラフルな四角いアイコンを思い浮かべる方も多いと思います。私も「こん中でぇ、わが社はどれとどれが当てはまるんだぃ?」。中堅・中小企業の社長に、こんな質問されることも少なくありません。ただ、17の目標以上に大切な考え方、コンセプトがSDGsにはあります。
 一つは「持続可能性を高める」ということ。そしてもう一つは「誰一人取り残さない」ということです。この二つの上位概念が17の領域に因数分解されたのがSDGsである。そう考えても良いでしょう。地球や地域が未来にわたって持続すること、加えて(理想論と言われるかもしれませんが)、さまざまな取り組みを通じて地球上の誰一人も取り残すことなく健康で幸せな世界を実現することこそがSDGsの背骨です。
 こうした視点で宮崎県内の企業を見てみますと、素晴らしい中堅・中小企業がたくさんあります。決してお世辞ではありません(笑)。今回ご紹介するのは、東臼杵郡の日本救急システム(JEMS)。常備消防未設置村における救急救命業務の民間委託や救急救命士育成のための教材開発等も手掛けています。
 2015年、日本で初めて民間企業の救急救命士による自治体救急車の運行を開始した同社ですが、企業理念の一節にはこうあります「命を救うことを優先します」。これこそ二つの上位概念そのものであると考えます。地域の命を平等に救う、その「誰一人取り残さない」行動が地域の持続可能性を高める原動力となる。宮崎の企業でありながら、社名に「日本」を掲げている、その救急空白地帯に挑む志の高さには心を揺さぶられます。
 本業を通じて「誰一人取り残さない」、そして「持続可能性を高める」を実現することが大事なのです。
 前回、この欄で金沢の会宝産業におけるグローバルレベルでの取り組みをご紹介しましたが、同じようにJEMSの事業を世界のスタンダードにすることも夢ではないと思います。ところで、宮崎県という視点ではどうでしょうか。
 次に「地域版SDGs調査」(ブランド総研)という調査の結果をご紹介します。2021年に実施されたこの調査では、住民視点で地域課題を明確化し、その現状や対応などを幸福度や生活満足度、愛着度、定住意欲度の基本4指標に加え、パートナーシップ以外のSDGsのターゲットを参考に、住民の悩みや社会課題をベースとして設問がつくられています。
 「能書きはいいから宮崎県はどうなのよ」。そう言われそうですね。宮崎県は幸福度ではなんと第2位。ちなみに昨年、一昨年は堂々の1位。つまり地域の持続可能性を高めようとするベースとしての「幸福度」は全国トップクラスということです。一方で「都道府県SDGs調査2020」(同)における「悩みのない都道府県ランキング」では宮崎県は47位で最下位。「悩み深き幸福県、みやざき」。うーん、コンサルタントという職業柄、探究心が刺激されます。

 はやし・まさひろ 1969年、新潟市生まれ。「笑顔の連鎖反応をつくる」をモットーに経営人材育成、中小企業支援などに携わる。東京都。

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