ブルーハーツのファースト、心の扉が開く合言葉はもちろんリンダリンダ!  特集:BOØWYと並走した80年代ニッポンのロックバンド

アルバム「THE BLUE HEARTS」収録、不思議な曲「リンダリンダ」

私はTHE BLUE HEARTS(以下、ブルーハーツ)の「リンダリンダ」という曲が不思議で仕方がない。好き、というより “不思議”。

サビの「リンダリンダー!」がCDの歌詞カードには書かれていない。

また、「ドブネズミ」というアウトローなイメージの言葉から歌が始まるけれど後から「美しくなりたい」「どうか愛の意味を知って下さい」と、ものすごく丁寧で真摯な言葉が怒涛のように降ってくる。いきなり手をにょきっと伸ばしてくるので殴られるのかと思ったらハグされた、的な驚きがあるのだ。

さらに、カラオケでこの曲を歌っている人を何人も見たことがあるが、一人としてじっとしていなかった。「写真には映らない美しさがあるから」くらいまでは着席していても、「♪リンダリンダー! リンダリンダリンダーあああーッ」このサビで理性がバーンと弾け飛んだように、頭を振ったり手脚をばたつかせたりして、叫びながら歌うのである。

「リンダ」。私の中でそれはもはや固有名詞ではなく、心の重りを吹き飛ばす最強の合言葉。私も試しに一度歌ってみたが、確かにじっとできない! 気がつけば自然とヘッドバンキングをして手を振り回しながら歌い、曲が終わったときは肩で息をしていた。

す、すごい爽快感。なんだこの歌は。あまりにも不思議&デンジャラス!

ビブラートなし!日本語ハッキリの“ひらがなパンク”

私がブルーハーツと出会ったのは、1989年に放送された、斉藤由貴主演のドラマ『はいすくーる落書』(TBS系)の主題歌「TRAIN-TRAIN」が最初である。

初めて聴いたとき、学生役の俳優たちが歌っているのかと思った。ビブラートが全然かかっていなくて「歌うことに “こなれていない”」感じがしたのだ。でも音程はしっかり合っているし、声もいいし。そのバランスがすごく新鮮でクレジットを確認し、ブルーハーツを知った。

そこから彼らのヒット曲を調べ「リンダリンダ」にたどり着き、ファーストアルバムの『THE BLUE HEARTS』を手にした。

大きい音が苦手で、パンクロックというジャンルの音楽とは無縁だった私。その固く閉ざしていた扉を勢いよく、しかし “とても紳士的に” 開けて風を通してくれた1枚となった。

一番の理由は、言葉がはっきりと伝わってきたからだ。前述したようにビブラートがかからず、ひたすらまっすぐ。ザラザラと滑舌が良く “野原で一人、頭に浮かんだ言葉に節をつけて、気持ち良さそうに大声で歌っているガキ大将” が見えたのである。

甲本ヒロトさんの歌声は、語尾までトコトン日本語だ。「~を」を「WOW(うぉう)」にするような、日本語を外国語っぽく崩して歌うところがない。

シャウトまで「ななな」「あああ」「おおお」とひらがなで聴こえてくる。

以前本で見て「なんてシンプルで素敵なんだろう」と感動した「あいうえおかきくけこであそんでる」という小学校2年生の女の子の俳句があったが、ブルーハーツの歌はまさにそのイメージである。

収録曲「パンク・ロック」の情熱とやさしさにノックアウト

飾ってないから直で来る。迷いが無いからガツンと響く。それを一番表しているのがアルバム4曲目の「パンク・ロック」。

「僕パンクロックが好きだ」と連呼する歌詞。もう理屈とか関係ないんだよ、好きなんだよ! そんな情熱のストレートパンチを食らっている途中で、ひょいと、

 ああ やさしいから好きなんだ

… と挟まってくる。ノックアウトだ。この感覚、もうタオルを投げるしかない。

このほかにも、「終わらない歌」「少年の詩」など、感情がマッハの風速で吹く楽曲が12曲続く。だから聴くごとに “考えさせられる” ではなく、心にぺたぺた貼り付いた、いろんなレッテルが剥がれていく。そんな感覚になるのである。

甲本ヒロトさんの歌詞、真島昌利さんの歌詞をああだこうだとナントカ分析しようと思ったが、その前に感情の蓋が空く。おまけに、私のそんな気持ちを歌で煽ってくれる。

 誰かが決めた ステップなんて  関係ないんだ でたらめでいいよ  (ダンス・ナンバー)

心と体が勝手に動くんだろ? 意味のないことでコーフンしてもいいんだぜ、と大きな声で肯定してくれるのだ。

写真には映らない “美しさ”、歌詞カードには載らない “想い” が詰まっている。それがひたすら心地よいアルバム『THE BLUE HEARTS』。

さあ、頭を空っぽにしてノンストップ。問答無用のやさしさを浴びよう。

合言葉はもちろん、リンダリンダー!!

カタリベ: 田中稲

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