北朝鮮の密輸業者一家ら5人、逮捕を逃れ脱北

新型コロナウイルスの国内流入を恐れるがあまり、国境の警備をガチガチに固めている北朝鮮。そのすきを突いた脱北が後を絶たない。

先日、一家4人が親しくしていた国境警備隊員を睡眠薬で眠らせ、国境の川を超えて脱北する事件が起きたが、今度は家族と国境警備隊員がグルになって脱北する事件が起きた。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

事件が起きたのは今月13日のこと。道内の会寧(フェリョン)に住んでいた35歳の女性が、夫と8歳の息子を連れて川向うの中国に脱出した。その直後、脱北を幇助した兵士2人も姿をくらました。

脱北のきっかけとなったのは、この地域で強力に進められている取り締まりだ。

平壌から派遣された反社会主義・非社会主義連合指揮部は、「反動的思想・文化排撃法」に基づき、チャイナ・テレコムなどの中国キャリアの携帯電話の使用、密輸、韓流ドラマや映画の視聴・流通などの取り締まりを大々的に行っている。

女性は、中国キャリアの携帯電話を4台所持し、韓国や中国からの送金を北朝鮮国内に届ける送金ブローカー業と密輸と営んでいたが、連合指揮部と保衛部(秘密警察)の監視が強化され、かなりのプレッシャーを感じていた。

保衛部は、女性からワイロを受け取り一連の行為を黙認していたが、上部から取り締まれという命令が矢継ぎ早に下され、女性を逮捕するための準備を進めていた。

普段から物々しい雰囲気に不安感を感じていた女性は、担当保衛員の言葉の端々から異変を感じ取り、もはやこれまでと判断。また、捕まるのは自分だけではなく、家族も捕まって会寧から山奥に追放されることを知り、着々と準備を進めた。そして13日、中国の業者の手引きで、比較的警備の薄い無人地帯を経て中国に脱出した。

事件の発生を知った会寧市保衛部、安全部(警察署)、連合指揮部、そして国境警備隊はカンカンになっているが、中国に逃れた以上、積極的に手は出せない。

また、上述の一家の脱北事件で、北朝鮮側は中国公安当局に協力を要請したものの、非協力的であると伝えられていることから、今回脱北した一家も無事に逃げおおせる可能性が高い。最終的な行き先については伝えられていないが、家族単位の脱北の場合、韓国行きを選択するケースが多い。

保衛部は現地住民にかん口令を敷いた上で、「中国に行けば無条件で生き残れない、南朝鮮(韓国)に拉致され自分も知らないままに祖国(北朝鮮)を裏切ることになるかもしれない」「行けば豊かに暮らせると思っているかもしれないが、利用だけされて死ぬ」などと、脱北防止のための宣伝活動を行っているとのことだが、そんなものをまともに受け入れる市民はいないだろう。

また、国境警備をさらに強化し、無人地帯の警備人員を増強すべきとの声が上がっているとのことだが、5人に逃げられた以上、もはや泥縄だ。取り締まりを強化すればするほど、生き残るために北朝鮮から脱出しようとする人はさらに現れるだろう。

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