2025年度からの新課程入試では「文学国語」と「論理国語」の両方が出題範囲に?

来春2022年度に高校1年生になる生徒は、現行課程とは異なる新しい教育課程で学ぶことになります。その生徒たちが大学を受験するのは2025(令和7)年度入試になります。各高校では4年先の大学入試で出題が予想される教科・科目を意識しつつ、新しい学習指導要領に基づいた教育課程を編成します。すでに新1年生向けにホームページで教育課程表を公表している高校も多数見られますが、「情報」とともに注目されていた「国語」は、「文学国語」と「論理国語」の両方を設置する高校が見られます。大学はこうした高校の状況を受け止めて、どのような入試範囲を設定するのでしょうか。

大学入学共通テストの出題範囲は「現代の国語」、「言語文化」

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新しい学習指導要領では国語は<表>の構成となっています。必履修科目は「現代の国語」、「言語文化」となっており、それ以外にどの科目を設置するかは各高校が決めることになります。なお、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の出題範囲は「現代の国語」と「言語文化」であることが今年の3月に大学入試センターから公表されています。

教育課程を編成する際、大学入試を考えると、共通テストでは古文・漢文を必受験とする国公立大学、私立難関大学が多いこともあるため、ほとんどの高校は<表>中の「古典探究」を設置することになります。古文・漢文を出題範囲としない大学が増えているとは言え、やはり必要な科目です。その次に課題となるのは、「論理国語」、「文学国語」、「国語表現」のうち、どの科目を設置するかということです。受験に必要となりそうな科目を全部設置すれば良いと考える向きもあるでしょうが、教育課程全体では単位数(授業時間数)が決まっており、他の教科・科目もあるため、おのずと国語の授業時間数にも限りがあります。そのため、当初は「論理国語」、「文学国語」、「国語表現」のどれか1科目を選んで設置することが標準的だと考えられていました。

ただ、現在公開されている各高校の教育課程を見ると、「論理国語」と「文学国語」の両方を設置する予定の高校が多く見られます。さらに進学校では標準単位数2単位の「言語文化」を3単位あるいは4単位に単位数を増やして設置し、標準単位が各4単位の「論理国語」と「文学国語」をそれぞれ3単位あるいは2単位に減単して設置するケースも見られます。以前は、ほとんどの高校で「論理国語」が設置され、「文学国語」は設置されないのではないかと見られていました。高校教育で文学を学ぶ機会が損なわれることを心配する声も聞かれていましたので、これは教材としての文学作品の価値に重きが置かれていることの現れと見ることもできるでしょう。

<参考>

大学入試センター「平成 30 年告示高等学校学習指導要領に対応した令和7年度大学入学共通テストからの出題教科・科目について(令和3年3月24日)」

https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/shiken_jouhou/r7ikou.html

文部科学省「平成29・30・31年改訂学習指導要領(本文、解説)」

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1384661.htm

→プレテストでの記述問題は「論理国語」寄りの出題だった

プレテストでの記述問題は「論理国語」寄りの出題だった

少し過去を振り返ってみると、2017年、2018年に実施された共通テストの試行調査(プレテスト)では、生徒会部活動規約や著作権法の条文などが問題の素材として使用されていました。この時は、後に実施が見送られることになった記述問題が、まだ共通テストの数学と国語で出題される予定でした。現代の社会生活で必要とされる実用的な文章や図表や写真などの資料が含まれた論理的な文章が問題の題材に使われたことから、共通テストの国語の出題傾向が大きく変わると受け止められ、高校の国語教育に与えたインパクトは小さくはありませんでした。

実際に共通テストの当初の問題作成方針では、国語の記述問題は「実用的な文章を主たる題材とするもの、論理的な文章を主たる題材とするもの又は両方を組み合わせたものとする」とされていましたので、多くの高校の教育課程で「現代の国語」、「言語文化」を必修として、あとは「論理国語」と「古典探究」が設置されるものと見られていました。

ただ、大学入試センター試験でも国語(現代文)の出題フレームは、大問の第1問は、評論などの論理的文章を問題の題材として、第2問で小説などの文学作品を題材にしていました。そのため、「文学国語」を設置しないことで文学作品の学習機会が減り、共通テストの現代文の第2問への対策が十分にできなくなると心配する声もありました。こうした課題をクリアするためでしょうか、多くの高校は「論理国語」と「文学国語」の減単によるダブル設置という教育課程編成に至ったものと思われます。

この「論理国語」と「文学国語」の減単によるダブル設置について、高校側の声を直接聞いてはいませんが、校内でかなりの議論があったものと推察されます。あるいは、真の読解力や思考力を培うのは、実用的な文章ではなく、文学作品こそが相応しいと考えた国語の高校教員の教育者としての矜持だったのかも知れません。

共通テストの現代文は大問3題の出題(?)、個別試験で「文学国語」は出題範囲に入るのか

9月に文部科学省から、教育委員会や大学に対して「令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱の予告(補遺)」(9月29日)が通知されました。ここでは、旧課程生(既卒生)への対応など重要な情報が公表されましたが、気になるのは国語の試験時間が現在の80分から90分に10分増加していることです。試験時間の増加は当然の事ながら問題量の増加とほぼ同義語と言えます。

実は記述問題を含んだプレテストの試験時間は100分でした。プレテストの国語は現代文が3題、古文1題、漢文1題という問題構成で、今年行われた共通テストよりも現代文が1題多く出題されていました。その1題は記述式問題で、前述のように実用的な文章、論理的な文章が問題の題材になっていました。こうしたことから、2025年度入試の共通テストの国語は、大問5題となり、現代文は実用的文章・論理的文章の問題が2題、文学的文章の問題が1題、古文と漢文が各1題となる可能性が非常に高くなりました。

さて、ここで問題となるのは、各大学が個別試験で課す国語の出題範囲です。共通テストと同じ「現代の国語」、「言語文化」だけにしておくという考え方もあります。現行課程で言えば「国語総合」です。ただ、難関大学や歴史のある文学部を有する大学の場合は、その「国語総合」に加えて、現行課程の「現代文B」、「古典B」を出題範囲にしています。こうした大学は、「論理国語」と「文学国語」、「古典探求」を出題範囲にするものと考えられます。

ただ、一部の高校では「論理国語」は設置していても「文学国語」を設置していないところがあります。「文学国語」を出題範囲にすれば、こうした高校からの出願者が減ることも考えられます。難関大学を目指す生徒が多い高校は、共通テスト対策もあり、「論理国語」と「文学国語」の両方が設置されているため、難関大学は両方を出題範囲としてもそれほどの影響はないと考えられます。中堅の大学で、歴史のある文学部を持つ大学はどう対応するのか、文部科学省の定めたルールによると、2025年度入試の入試概要は、来年には発表しなくてはなりません。受験生の立場で言えば、後になって「論理国語」や「文学国語」が出題範囲に加わるのは困りますが、後になって出題範囲から除外される場合はまだ対応がし易いでしょう。ただし、直前期の変更は混乱を招きますので避けて欲しいところです。

<参考>

文部科学省「「令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱の予告(補遺)」について(通知)」

https://www.mext.go.jp/nyushi/#r7yokoku

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