【コラム】マカオで次期カジノ経営権契約に向けたカジノ法改正準備がスタート(WEB版)/勝部悠人 世界最大のゲーミング都市「マカオ」の現況

本コラムでも何度か触れたが、マカオ政府とカジノ事業者6陣営との間のコンセッション(カジノ経営権契約)の契約満期日が2022年6月26日に迫りつつある。満期を迎えるにあたり、マカオ政府はかねてより既存契約の延長ではなく再入札を実施するという方針を一貫して示してきた。2019年12月に新たな行政長官が就任し、新政権下で再入札実施に向けた本格的な準備がスタートしたものの、想定外のコロナ禍によって作業に遅延が生じたとされる。現行コンセッション満期まで1年を切る中、(2021年)9月に入り、ようやく具体的な動きがあった。

マカオ政府は9月14日、娯楽場幸運博彩経営法律制度(通称「カジノ法」)の改正に関するパブリックコメント(意見公募手続き)実施について記者会見を開き、李偉農(レイ・ワイノン)経済財政長官が中心となって概要説明を行った。

パブリックコメントの実施期間は9月15日から10月29日までの45日間。期間中に5回(うち1回はカジノ業界向け)の公聴会が開かれる。政府はパブリックコメント及び公聴会を終えた後、速やかに総括報告をまとめるとしている。

改正準備が進むカジノ法は、現行コンセッションのスタート時期にあたる2001年に制定されたものだ。施行からすでに約20年が経過し、マカオのカジノ業界及び、それを取り巻く経済・社会状況についても大きく変化したことを踏まえ、マカオ政府は今回のパブリックコメント実施にあたり、重点ポイントとして下記の9項目を挙げた。

具体的には、①いわゆるカジノ運営ライセンスの発給数、②コンセッション締結期間、③契約事業者監督のための法的要件強化、④従業員保護、⑤契約事業者、カジノ仲介及びパートナーに対する審査メカニズムの強化、⑥政府代表の派遣、⑦ノンゲーミング要素を含むプロジェクトの推進、⑧社会的責任、⑨刑事責任及び行政処分制度の明確化だ。

なお、最大の関心事となるカジノライセンスの発給数、今セッション期間、再入札実施スケジュール等について、具体的な数値への言及はなかった。ライセンス発給数について、李長官は質疑応答の中で、(21世紀初頭の)カジノ経営権の開放後、カジノ税収による社会発展、経済成長、民生福祉への一定規模の効果はあったが、無限の膨張は不可能であり、適切な上限について考慮すべきであるとした。また、今後もマカオカジノ業界が十分な競争力を持ち、持続的な税収をもたらすため、適切な規模を維持することが重要との考えも示した。よって、少なくとも現状の6陣営体制を縮小する可能性はないものとして受け止められた。
なお、日本の主要メディアを含め、「政府による管理強化」(政府代表の派遣や利益処分にあたり政府の承認を必要とするとしたことなど)をネガティブに捉える報道も目立った。同様の理由で香港市場に上場する6陣営の株価も大幅下落し、およそ1000億香港ドル、日本円にして約1.4兆円が吹き飛んだ。中でも、米国系事業者の株価下落が目立った。ただし、過剰反応だとする見方もあり、株価はその後持ち直した。

当のカジノ運営事業6陣営は、落ち着いた対応をみせていることにも注目したい。9月20日、カジノ業界向けの公聴会が行われ、6陣営及びカジノ仲介業者の代表者らが出席した。6陣営はいずれも政府が示した重点ポイントについて、基本的に受け入れられるものとしている。カジノ運営企業のマカオ経済・社会におけるプレゼンスが極めて大きくなる中、相応の社会的責任を求められることは当然であるということになろう。マカオの歳入に占めるカジノ税収の割合は約8割、カジノ・カジノ仲介業従事者の数は就業人口の17%に上り、間接的なものも含めれば、多くのビジネスがカジノ産業に依存している。

今後の見通しだが、現行コンセッションの満期まで約9ヶ月を残すのみ、さらには新型コロナの世界的流行が長期化するという情勢を受けて、一旦現行ライセンスを延長することで、再入札手続きにかかる時間を確保するものと予想される。法律上、政府は満期日の遅くとも6ヶ月前までに延長(最長5年)認可ができるのだ。すでにSJMとMGMが2年分の延長枠を使っているため、残りは3年分となるが、十分といえるだろう。カジノ法改正の動きを含め、これからしばらくの間、再入札に至る過程から目が離せない。

カジノのイメージ=筆者撮影

■プロフィール
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。

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