引退試合でヘッスラ&悔しさ露わ 鷹・長谷川勇也、最後まで“らしさ”溢れる

引退セレモニーでナインから胴上げされるソフトバンク・長谷川勇也【写真:藤浦一都】

「このゲームの重要性、投手戦の中での代打という方が重要だなと思った」

■ソフトバンク 2ー2 日本ハム(21日・PayPayドーム)

最後の最後まで“らしさ”が溢れていた。今季で現役を引退するソフトバンクの長谷川勇也外野手が21日、本拠地PayPayドームでの日本ハム戦で引退試合を迎えた。7回1死二塁で代打で登場し一ゴロに凡退すると、執念のヘッドスラディング。どんな時でも諦めない、勝負に徹する長谷川勇也としての生き様が凝縮されていた。

出番はここ一番でやってきた。両チーム無得点で迎えた7回。先頭のデスパイネが右前安打で出塁し、続く中村晃が犠打を決め、1死二塁のチャンスとなった。「彼の力を信じていいところで使いたいというのはあった。得点圏に走者がいったら使おうと思っていた」と工藤公康監督は言う。ベンチは迷うことなく、長谷川を代打の切り札として打席に送った。

本人の意向もあり、チーム状況によっては出場しない可能性もあったこの試合。勝負どころでの登場にスタンドは沸いた。現役最後の打席。だが、感傷に浸るどころではなかった。「投手戦の中で痺れる場面での代打だったので、最後の打席にはなると思ったんですけど、このゲームの重要性、投手戦の中での代打という方が重要だなと思ったので、気持ちの整理をつけてから打席に入るようにしました」。時間をかけて打席へ。勝負に徹する。その思いだけで打席に立った。

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一ゴロに倒れてヘッドスライディング「やっぱり悔しかったな…」

「伊藤投手が素晴らしいボールで。初球来て『うわ、ヤバ』と思った。最後まで対応できなかったので、力なくなったと思いました。本当にいいボール、気合の入ったボールを投げてくれて良かった」。初球の149キロを見逃し、3球目の150キロで追い込まれた。そして、1ボール2ストライクからの4球目。日本ハム伊藤のチェンジアップを引っ掛けた。

力のない一ゴロ。それでも、長谷川は執念を体現した。身を投げてヘッドスライディング。アウトにはなったが、その姿にスタンドのファンからは大きな拍手が起こった。「やっぱり悔しかったな……。得点圏という重要な場面なので、最後の打席でヒットを打とうというよりは、このゲームにケリをつけないといけないから、そのヒットを打ちたかった。それができなかったので悔しさもあり、最後だったんだな、というのもありました」。アウトがコールされると悔しさをあらわにし、ベンチでもレガースを投げつけて感情を表に出した。

この長谷川の姿に、甲斐が応えた。「あの長谷川さんの姿を見てとにかく結果で応えたいと打席に入りました。長谷川さんの生き様、気迫、気持ちが乗り移ったんじゃないかなと思います」。低めのボールを捉えると、打球は左翼スタンドへ。先制点を生み出す12号2ラン。この一発をベンチで見ていた長谷川は号泣。ベンチへ戻ってきた甲斐も目を潤ませ、栗原も涙を流していた。

帽子を取りファンに感謝を伝えるソフトバンク・長谷川勇也【写真:藤浦一都】

チームメートにもゲキ「勝たなくていい試合なんてないと思います」

試合後、涙を流した引退セレモニーを終えた長谷川は「厳しい展開の中でキッカケになったんだろうし、伊藤投手も難しかったと思うんですよ。普通ではなかったと思うんですけど、そういったところもあって、拓也が甘いボールを仕留めてくれたと思います」と、引退試合の自分に真剣勝負に徹した伊藤にも感謝した。「最後、真剣にやって、僕も出し尽くしました」と語る表情は晴れやかだった。

わずかながら、クライマックスシリーズ進出の可能性が残る中で迎えた引退試合、そして現役最後の打席。15年間、誰よりも勝利への執念を示してきた長谷川は「試合が続く限りは勝たないといけないし、勝たなくていい試合なんてないと思いますので、残り3試合しっかり戦ってほしいと思います」とも語った。

奇跡の逆転CSの可能性を信じ、残り3試合を戦う後輩たちへのエール。常にチームのため、勝利のため、全力を尽くしてきた長谷川勇也の生き様が凝縮された現役最後の打席だった。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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