住民の願い、また届かず 石木ダム差し止め訴訟 「理由教えて」続く抗議

石木ダム建設工事現場で抗議の座り込みを続ける住民=川棚町

 「理由を教えて」「不当判決だ」-。法廷を立ち去る裁判官の背中に傍聴席から不満の声が飛んだ。石木ダム水没予定地の住民らが、長崎県と佐世保市に工事の差し止めを求めた訴訟で、福岡高裁は21日、住民側の控訴を退けた。県が9月に本体工事に踏み切り、ますます混迷を深める中、古里に住み続けたいという住民たちの願いは、またも聞き入れられなかった。
 原告住民13世帯を代表し1人で高裁に乗り込んだ岩下和雄さん(74)は短い判決を聞き終えると、硬い表情で出てきた。厳しい結果を予想していたが「(高裁が)県に話し合いを促してくれるのではないかという期待もあった」。中村法道知事との対話は2年以上実現せず、本体工事着手で県との溝はさらに深まった。
 控訴審では、早期の結審を望む県市側の姿勢が目立った。原告側は6月の結審後、8月中旬に降った大雨のデータを「新証拠」に、弁論再開を求めたが、裁判所から返答はなかった。「結果は最初から決まっていたのでは」との疑問がくすぶる。「腹立たしいが、めげることなく反対を訴え、闘い続けたい」。報告集会で岩下さんが言葉に力を込めると、支援者から拍手が起こった。
 この日も川棚町のダム建設予定地では、住民が抗議の座り込みを続けていた。「判決をみんなで聞きにいきたいがここを離れられない」と岩下すみ子さん(72)。当初は大勢でバスに乗り合わせ、傍聴に出向いていたが、工事が加速。業者が休む日祝日を除き、2カ所で早朝から夕方まで交代で待機する。
 控訴棄却の知らせを受け、「一度くらいは『勝訴』と手を上げて喜びたい。こうやって座り込みながら老い続けていくのかな」と肩を落とした。
 49年前、久保勘一知事は「地元の同意を得た後(工事に)着手する」と約束した。判決はこれが実現していないと指摘し、司法判断として初めて県側の不作為に言及した。口頭弁論で約束の効力を訴えた住民の石丸勇さん(72)は「裁判所が少しは配慮してくれたのだろうが、棄却だから意味がない。いくら裁判所が話し合いを促しても、県はダムの必要性ではなく、生活再建についてしか話さないから、私たちとはかみ合わない」と話した。

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