ICTを活用しサステナビリティを推進する国は何が違うか

bankkgraphy

地球規模で持続可能な世界を実現するには、ICT(情報通信技術)の最適な活用やテクノロジー産業による貢献が不可欠だ。ロジャー・ストルコフ氏は、各国のIT(情報技術)開発やITエコシステム、社会経済環境について国際的な研究を行う米国の非営利団体「タウ・インスティテュート(Tau Institute)」の創設者兼エクゼクティブ・ディレクターだ。ストルコフ氏の手がける事業の一つにタウ・インデックス(タウ指標)がある。指標は144カ国のICTインフラとICTエコシステムをランク付けし、各国がより持続可能な経済を実現するためにICTをどの程度活用しているかを示したものだ。米サステナブル・ブランドは、タウ・インデックスとポジティブな変化を起こすためにICTが果たす役割、テクノロジーを十分に活用するためになぜ人間が重要なカギとなるのかについてストルコフ氏に聞いた。(翻訳=梅原洋陽)

――タウ・インスティテュートを設立したきっかけはなんでしょうか。

ロジャー・ストルコフ氏 (以下、ストルコフ氏):フィリピンに数年間住んでいた2011年に、パートナーと共にタウ・インスティテュートを設立しました。貧困や汚職の印象が強くあるフィリピンで、多くのダイナミズムやイノベーションを目の当たりにしました。それ以来、フィリピンのような発展途上国が、このエネルギーやイノベーションをデータを使って表現することで、より豊かな先進国と同じフィールドで戦える方法を探しています。

――持続可能な世界を実現する上で、ICTはなぜ重要なのでしょうか。

ストルコフ氏:ICTの最適な活用とテクノロジー業界からの最大限の支援がなければ、持続可能な世界は実現できません。ICTはイノベーションを加速するだけでなく、大規模なシステムをデザインし、管理し、改善してくれます。そして、人間が何を行っているかを理解するための明確で説得力のある方法を提供してくれるのです。

――より良い未来を築く上で、世界が抱える最大のICT課題というとどのようなものがありますか。

ストルコフ氏:技術的な課題よりも、教育的そして社会的課題の方が大きいです。未だ世界最大で最も影響力のある米国でも、致命的なパンデミックに対処することに国民の半数の同意を得ることさえできていません。そんな中でも、カーボン・ゼロ、そしてそれ以上のことを私たちは目指していかなければなりません。そのために、私は電力の発電に必要なコストを示すインデックスを開発しましたが、輸送、食料生産、水の浄化と疾病との戦いの継続そして建設に使用する素材など膨大な課題があります。つまり、どのような課題を取り上げても、サステナビリティに関連するICTの課題がつきまとうのです。

――それらの課題の解決策はどのようなところから生まれると思いますか。

ストルコフ氏:やはり、人間が導いていくことになるでしょう。私たちが持っている機械やソフトウェアが、私たちのためにやってくれるということはありません。少しでも多くの政府が同じ視点から物事を考えるようにし、NGO、そして特に大企業がサステナビリティへの取り組みを後押しし、取り組みを持続しながら、世界の人々にこの緊急性を理解するように働きかけることを促していく必要があります。

――タウ・インデックスの成果からどのようなことが分かっていますか。

ストルコフ氏:144カ国を調べ、残りの40カ国ほどの信頼できるデータを探し続けることで、世界のどこにいても人間には共通するものがあるということを知りました。似たような目標、願望、才能、無知、嫉妬、鈍感さ、きらめきを持っているのです。つまり同じ人類だということです。私たちは人や国を見たままに受けれ、それぞれを自らの兄弟や姉妹、両親や子どもであるかのように向き合わないといけないのです。実際にそのような関係です。

――ICTとサステナビリティで他国をリードしている国は何が異なるのでしょうか。

ストルコフ氏:目の前の扉の向こう側を、進んで考えようとする気持ちがあるのではないでしょうか。このような国のほとんどは小さな国です。豊かな国もあれば、そうでない国もあります。しかし、全てのICTとサステナビリティの先進的な国には、世界全体を見ながら、自国の利益のためだけではなく、世界全体のためになる政策を実行するリーダーが存在しています。現在、私が考えるトップ20カ国は、ジョージア、デンマーク、オランダ、ルワンダ、ポルトガル、ベトナム、ウルグアイ、コスタリカ、そして韓国などです。いくつかの先進国もこの20カ国に入っています。例えば、ポルトガル、スイス、そして英国です。米国はほぼ最下位です。途方もなく困難な課題に直面しているにもかかわらず、解決するために必要な政治的な意思を示していません。(20カ国に日本が入っているかについては問い合わせたが未回答)

――未来のICTスター企業はどこの国から誕生すると思いますか。注目すべき候補はありますか。

ストルコフ氏:「エッジ・ネーション(周縁の国)」と呼んでいる国々です。発展途上国ではないものの、先進国の生活水準にはまだ達していない国です。旧ソ連のバルト諸国、東欧にあるブルガリアなどの国々、南米にあるウルグアイ、コスタリカ、チリなど、そしてアジアではマレーシアなどの国が含まれています。また、アフリカではルワンダ、ナイジェリア、タンザニア、アフリカ大湖沼地域で新たな発展を遂げている場所があります。西アフリカの中で、グーグルのような企業がガーナに投資(AIラボを開設)しているのは素晴らしいことです。資金調達ができ、強力なマネージメントの仕組みと顧客へのアクセスがあれば、ICT分野のスター企業はどこからでも誕生します。

© 株式会社博展