危険な夕暮れ時

 今では使われないが「大禍時(おおまがとき)」という言葉がある。「逢魔(おうま)が時」とも書く。災いを招く時刻、または魔物に出食わす時という意味で、夕方の薄暗い頃を指す▲民俗学者の柳田国男は「かはたれ時」という一文に書いている。遠い昔、人々は夕べを心細く感じ、恐れてもいたが、やがてそれも薄れていった。〈こわいという感じを忘れたがために、かえって黄昏(たそがれ)の危険は数しげくなっているのである〉(角川ソフィア文庫「新訂 妖怪談義」)▲近頃の夕べにも危険が潜む。10月に入って、県内で交通死亡事故が相次いでいるという。20日時点で亡くなったのは4人、夕暮れ時の死亡・重傷事故は5件に上る▲たそがれ時は視界が危うく、ただでさえドライバーが歩行者に気付きにくい。日没の前後1時間に起きた死亡事故の数は、昼間の1時間当たりの4倍という警察庁のデータもある▲秋が来て日没が早くなると、薄暗い時間帯と帰宅の時間が重なる人が多くなり、その分、事故も起こりやすい。ドライバーは早めの点灯を。道行く人は反射材の着用を。車が危険な魔物に化けないよう、おのおの心掛けるほかない▲たそがれは「誰(た)そ彼」からきているという。人影がぼんやりして「誰だあれは」と怪しむ夕べは、古人に倣って〈こわいという感じ〉を思い起こしたい。(徹)

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