128人中128番目での指名 鷹育成14位・仲田慶介、恐怖との戦いだった3時間

ソフトバンクから育成14位で指名を受けた福岡大・仲田慶介【写真:小林靖】

ドラフトが始まってから3時間超を経過して指名された福岡大・仲田慶介

11日に行われた「プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD」。支配下で77人、育成で51人が指名されたこのドラフトで最後、128人中128番目で指名されたのが福岡大・仲田慶介外野手だった。午後5時に始まった会議で仲田の名前が指名されたのは3時間超が経過した午後8時過ぎ。自分の名前が呼ばれるのか、呼ばれないのか……。期待と不安の中にあった仲田の心中はどう揺れ動いていたのだろう。

自分の運命が変わる日、10月11日。ドラフト当日を迎えた心境を仲田は「楽しみというよりかは、不安な気持ちが大きかったです。ずっとソワソワしていました」と明かす。昼頃から練習に汗を流していたものの、気もそぞろで終始落ち着かなかったという。ドラフト会議が始まり、1人、また1人と名前が呼ばれていくが、自分の名前は呼ばれない。言い知れぬ不安が膨らんでいく。

日本ハムが最多の9人を指名し、支配下でのドラフトは終了。77人の中に仲田の名前はなかった。休憩を挟んで行われた11球団による育成ドラフト。オリックス、楽天、DeNA……。1球団、1球団と指名を終えていき、巨人も10人を指名したところで選択を終えた。残すはソフトバンクのみ。ここまで10人の育成指名を行なっており、いつ「選択終了」のアナウンスが流れてもおかしくなかった。

不安と恐怖と戦った3時間「次で“選択終了”ってなるんじゃないかって」

ソフトバンクが3軍制の拡大に伴い、このドラフトで多くの育成選手を指名することは仲田自身の耳にも入っていた。とはいえ、予想されていた指名人数は10人前後。「次で“選択終了”ってなるんじゃないかって怖かったです」。“選択終了”の文字に怯えながら待った。名前は呼ばれない。仲田の緊張は続いた。

そして、やってきた育成14位。ついに、その瞬間は訪れた。

「福岡ソフトバンク 仲田慶介」

夢が叶った瞬間だった。一気に押し寄せてくる安堵感。その直後に、仲田が怯えていた「選択終了」のアナウンスが響く。最後の最後、128人中128人目で滑り込んだ。

待ちに待ったからこそ、込み上げてきた歓喜と安堵。と同時に、仲田には周囲への感謝の気持ちが溢れてきた。「自分だけの力ではここまで来られなかったので、その思いが1番でした」。家族、トレーナー、一緒に汗を流してきた野球部の仲間達。今まで自分の人生で関わってきた沢山の人の顔が仲田の脳裏に浮かんできた。

同じくプロ志望だったチームメート井上絢登は指名されず「井上には1番感謝している」

その中でも、仲田は1人の選手に名指しで感謝の気持ちを伝えた。その相手とは、同じくプロ志望届を提出していた井上絢登外野手。フルスイングが持ち味で“福大のギータ”と言われ、1年の頃からリーグ戦全試合に出場するなどチームを牽引してきたスラッガーだが、仲田とは対照的に最後まで名前を呼ばれることはなかった。

仲田と井上は同じ外野手で、大学1年の頃からずっと一緒に練習をしてきた。グラウンドを離れても、共にトレーニングするなど切磋琢磨してきた仲間だった。「井上には1番感謝している。来年一緒にプロになりたいからお互い頑張ろう」。野球部のチームメートたちの前で、指名の報告を行う中で仲田はこう感謝を伝えた。少し照れた様子だったという井上も「仲田がプロに行ったので、負けられない」と刺激を受けていた。

NPBからの指名がなかった井上は独立リーグに進むことを希望しており、1年後のNPB入りを目指す。ドラフト前と変わらず、共に次のステージへ向けてトレーニングを続ける。仲田は「これからも井上と一緒に練習します。練習メニューも大体同じなので。カップルとかいる中で、砂浜ダッシュもしていますよ(笑)」。ドラフトでは明暗が分かれてしまったが、2人の深い絆と先の目標はこれからも変わらない。(上杉あずさ / Azusa Uesugi)

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