政治とカネの調べ方 政治資金・前編

政治とカネの調べ方 「政治資金」(前編)

調査報道の考え方は多種多様です。

ニクソン米大統領を辞任に追い込んだ「ウォーターゲート事件」報道(1972年)、竹下登政権を崩壊させた「リクルート事件」報道(1988年)などは、調査報道の威力をまざまざと見せつけました。もちろん、すべての調査報道が「権力監視型」である必要はありません。日常の身近な疑問から出発し、埋もれた問題を可視化し、少しずつ改善を求める報道も極めて重要です。キャンペーンやインタビューにも多数の調査報道があります。

そうした調査報道の取材手法も多種多様です。

ここでは、まず、政治家のお金をどう調べるかについて、フロントラインプレスの本間誠也さんに分かりやすく解説してもらいます。言うまでもなく、議会は最高の権力機関です。したがって、議員の行動をチェックすることは、調査報道の基本中の基本とも言えます。

給与に当たる議員歳費などを除くと、政治家のお金は大きく言って2つに区分できます。

1つは、政治資金規正法に基づく「政治資金」。各議員は自らが関係する政治団体を1つ、あるいは複数持っています。そこで扱われる資金が選挙資金であり、年に一度、法令に基づいて「政治資金収支報告書」を都道府県選挙管理委員会、または総務省に届け出する必要があります。

もう1つは、選挙の際の収支を示す「選挙資金」。根拠法は公職選挙法です。選挙の候補者は(たとえ落選しても)選挙から14日以内に「選挙運動費用収支報告書」を当の選挙管理委員会に提出する必要があります(国政選挙の場合は都道府県選挙管理委員会)。

では、それぞれ、どう読み解けばいいのか。イロハのイから本間さんに尋ねていきましょう。まずは「政治資金」から。


◆政治資金の報告書を見たい!

――政治資金収支報告書を見たい。どういう方法がありますか?

本間 政治資金収支報告書は、二つ以上の都道府県で活動する団体の報告書は総務省に、活動が一つの都道府県に限られる場合はその都道府県の選挙管理委員会に、毎年提出することが義務付けられています。

総務省がインターネット上での収支報告書の公開を都道府県の選挙管理委員会に呼び掛けていることもあって、今では新潟、石川、福井、兵庫、広島、福岡県の6県を除いてネットで収支報告書の原本の写しを見ることができます。ネット公開していない6県のうち、福井県は2021年度中には公開する予定とのことです。ただ、現時点で公開していない6県についても収支報告書の要旨はネット上で公開しています。ただし、原本と要旨には大きな違いがあります。要旨には、収入に関して政治献金が行われた月日が記載されず、支出についても細目が全く記されていません。

公開していない6県で収支報告書の原本の写しが見たい人は選管の窓口で閲覧できますし、原本の写しを入手したい人は交付請求すれば手に入ります。

――情報開示請求しないと見ることができないものはあるんでしょうか?

本間 あります。これだけネットが発達し、これだけ情報公開の必要性が言われているのに、いちいち請求しないと閲覧できないものがあるんですね。最たるものは「領収書」です。政治団体はその資金を何に使ったか。それは支払先からの領収書で判断するわけです。政治団体側も、政治資金収支報告書を総務省や都道府県選管に提出する際、領収書を添付する義務があります(ただし、一定要件を満たさないものは不要)。

これらの領収書については、情報公開請求しないと見ることができません。高額なホテル代など国会議員の不可解な政治活動費をめぐって、これまで多くの調査報道が行われてきました。「おそらく」ですが、そうした取材では漏れなく、領収書の情報開示請求が行われているはずです。

――初心者には、情報開示請求のハードルは高そうです。

本間 開示請求は簡単です。図書館のカウンターで、読みたい本を閉架書庫から出してもらうようなイメージですね。大半の都道府県選管がネットでの請求を受け付けています。今どき利用する人はほとんどいないでしょうが、ファクスでも受け付けています。

「本間誠也後援会」という政治団体があったとします。請求の際は、請求の書面に「本間誠也後援会の2020年中の支出に関する領収書すべて」といった内容を記入して申し込めばOKです。費用はコピー1枚につき10円。郵送を希望する際には切手代も負担します。


◆報告書、どこに目をつければ?〜鳩山由紀夫・元首相のケース

――政治資金収支報告書を手に入れたとします。まず、何を見ていけばいいでしょうか。この書類のどの部分で何がわかりますか?

本間 目の付け所はたくさんあります。そうした中では、まず、違法な寄付がないかどうかを調べることから始めると良いでしょう。
法人ではなく個人が行う寄付について、政治資金規正法は「政党(政党支部)」に対するものは総額で年間2000万円以内と定めています。寄付先が「政治団体」の場合、1団体について年間150万円以内などとなっています。これはイロハのイですから、公開される報告書に堂々と法律に違反する内容を書き込む政治団体の会計責任者はまずいないでしょう(会計責任者は政治家の秘書らが担うケースが多いです)。

ところが、私の取材経験で言うと、1人だけ例外がいました。北海道新聞の記者時代に取材した鳩山由紀夫元首相の資金管理団体です。政治資金収支報告書を見ると、会計責任者は、限度額をはるかに超えた寄付金額を記入していました。堂々と。驚きでした。2000年代初めのことです。

総務省に提出されたその資金管理団体の報告書には、鳩山氏の実母など親族2人から限度額以上の多額の献金を受けた事実が記載されていました。私は2年連続してその事実を報道しました。その直後は、特段、おおごとにはなりませんでした。しかし、2年連続して報道されたことが効いたのでしょうか。鳩山氏側はその後、勝手に第三者の名前を使って、その人たちから献金があったことにしたようなんです。実母らからの多額の寄付を、架空の人からの寄付として限度額内にそれぞれ分散したわけです。これ、アウトです。政治資金規正法違反です。

――なるほど……。で、その後はどうなったんでしょうか?

本間 献金主を多人数に分散させた偽装工作は、鳩山氏が首相になる直前の2009年春に発覚してしまうんですね。当時は民主党代表でした。当然、大問題です。政治資金規正法第25条によると、虚偽記載の罰則は「禁錮5年以下、または罰金100万円以下」です。決して軽い罪ではありません。結局、この資金管理団体の会計責任者で鳩山氏の秘書だった男性は、政治資金規正法違反で刑事告発され、執行猶予付きの有罪判決を受けました。会計責任者その人が、政治資金規正法のずぶの“素人”だったのかもしれません。そうだとしたら、そんな人物を会計責任者に据えた鳩山氏の認識もいい加減だったと言えるでしょう。

話がそれてしまいました。元に戻しましょう。

「年間2000万円以内」「150万円以内」といった規制は、政治団体に対する寄付の限度額です。つまり、「量的制限」ですね。量の制限がある以上、当然、「質的制限」もあります。外国人や外国企業は寄付ができない、3年連続して赤字決算の企業は業績が回復するまで寄付ができない……。こうした規制が質的制限に該当します。

質的制限はほかにもあります。国、都道府県、市町村から補助金や負担金などを受けている企業は原則、交付の決定から1年間は衆院選や参院選、各自治体の首長や議員選挙に関して候補者を支援する政治団体に寄附はできません。

これについては誤解もあるようです。例えば、ある県から補助金を受けている企業はその県の首長や議員を支持する団体への寄付が禁止されているけれど、国会議員の政治団体への寄付はオーケーだと理解している人が多いようです。これは誤りですね。「本間誠也後援会」が東京都の首長や議員を選挙で支援していれば、東京都から補助金をもらっている企業は「本間誠也後援会」にも寄付できません。収支報告書をチェックする際は、この点もポイントになります。

――法の基礎的な知識が必要なんですね。そうした「ものさし」が頭の中に入っていないと、いくら報告書を読み込んでも単に「眺めた」だけで終わってしまいそうです。

本間 いやいや。最初は誰もが初心者ですから、臆することは全くありません。少し勉強すれば「見る目」が養われますから、ぜひ解説書を読んでみてください。

次に政治資金規正法の規定ではなく、公職選挙法との関連でも説明しておきましょう。公選法に基づくカネの流れは「選挙運動費用収支報告」に示されています。選挙が終わってから2週間以内に、落選した人も含めて候補者はその報告書を各選管に提出する定めになっています。

公選法の規定では、国と請負契約を結んだ企業は衆院選と参院選に関して候補者の政治団体などへの寄付を禁じられています。都道府県や市町村と請負契約を結んだ企業は、それぞれの自治体の首長選挙や議会議員選挙に絡む寄付をできません。「選挙に関して」に該当するのは、公示や告示前後の寄付だと解釈されています。寄付の問題を洗う際は、政治資金だけでなく、選挙資金にも着したら良いと思いますね。

政治資金収支報告書の様式(東京都選挙管理委員会HPから)。報告書は何ページにも及ぶ。写真のページは収支の全体状況を示したもの。赤線部分が収入。

収支報告書の収入のうち、「寄附の内訳」を示すページ。寄付した者の氏名や住所なども記載されている。


◆献金の「質的制限」も目の付けどころ

――違法な寄付を点検する方法を教えてください。「量的制限」に関するポイントは、鳩山氏のエピソードで見えてきた感じがします。では、「質的制限」のほうはどうでしょうか。政治資金収支報告書のどこをどう見れば良いのでしょうか。

本間 質的制限に違反する寄付をチェックするには、収支報告書の「寄付の内訳」を見てください。その欄に「寄付者の氏名(又は名称)」や献金額の項目があります。何が記載されているか。そこに注目します。寄付をしてはいけない個人や法人からの献金を受け取っていないか。気になった法人や個人があったら、今度はその個人・法人を調べます。国や都道府県の補助金一覧のデータ、信用調査会社のデータ、企業ごとの工事経歴書などを使ってチェックします。

こうした作業自体は、ある意味、単純で単調です。本当に地味です。一生懸命、書類をひっくり返しても何も出てこないことも再三です。何も出なければ、空振りです。でも、徒労ではないと思うんですね。これを繰り返していると、報告書を見る目は確実に鍛えられるし、付随して知識も増えます。それこそがジャーナリストの武器なわけですから。それにこうした地道な作業こそが調査報道の本質であり、権力監視に欠かせないものだと言えるでしょう。

――なるほど。納得です。

本間 もっとも、こうした調査には壁もたくさんあります。国や各自治体との請負契約を持つ企業からの寄付がないかどうか、それをチェックする際などには、「政治資金パーティー」が大きな壁になるんですね。政治資金パーティーについては、政治資金収支報告書に20万円を超える支払者しか記載しなくてもよいことになっています。選挙の数カ前に開催されるパーティーは普通、誰がどう見ても、選挙資金集めが目的ですよね? 国や各自治体の事業を受注している企業も相当数のパー券を買っているはずですが、それが表面化しない仕組みになっているわけです。

いくつかの都道府県知事について、選挙前にどんな企業から献金を受けていたかを調べたのですが、ほとんどの知事が選挙前の数カ月間、どこからも献金を受けていませんでした。代わりに、政治資金パーティーを開き、多額の収入を得ているわけです。政治資金パーティーについても、1社で20万円超のパー券購入があった場合、報告書に記載しなければなりません。しかし、どの知事もそこはゼロでした。

これに限らず、政治資金や選挙資金の仕組みを見ていくと、よくもまあ、これほどの抜け穴をつくったものだと呆然とさせられることがしばしばです。

(後編に続きます。「後編」はこちら

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