政治とカネの調べ方 政治資金・後編

政治とカネの調べ方「政治資金」(後編)

議会は最高の権力機関です。だから、議員の行動をチェックすることは、調査報道の基本中の基本とも言えます。その「キホンのキ」とは? フロントラインプレスの本間誠也さんに尋ねる「How to 調査報道 政治とカネの調べ方」の「政治資金編」は今回、後編をお届けします。

◆政治資金の調査に欠かせない「突合」とは?

――政治資金収支報告書について、本間さんは普段、どこに着目してチェックしていますか?

本間 ケースバイケースですね。例えば、全国的に耳目を集める贈収賄事件などが立件されたとしましょう。そしたら、贈賄企業がどの政治家に献金していたかを調べますし、自民党の資金管理団体「国民政治協会」への献金についても調べます。

各地の医師会をはじめ、介護福祉や郵便局、電力など多くの業界はそれぞれ政治団体をつくっています。それらの政治資金を調べると、どの業界からどの議員にいくら資金が流れているのか、だいたい分かります。そうしたチェックも毎年、手掛けています。ある業界が今はどの議員を頼りにしているのか、誰の政治力を当てにしているのか。そういった構図も献金額などからある程度推し量ることができます。

――政治資金を調べる際は「突合」が大事だと言われます。それはどういう意味でしょうか? 何と何を突き合わせるのですか?

本間 政治資金収支報告書を調べていると分かるのですが、総務省も都道府県選管も報告書を受け付ける際は原則、内容そのものをチェックしていません。固有名詞や数字、計算の明らかな誤記載は指摘するようですが、内容には立ち入らないんですね。だから、政治団体側の会計処理は正確さも杜撰(ずさん)さも含めてそのまま通ってしまうことが少なくありません。

NHKが2020年12月、「政治資金の収入不記載 3年で94件5704万円」というニュースを報じました。総務省に提出された約3000の全政治団体から国会議員の政治団体への支出を調べたところ、議員65人の政治団体の収入について、多数・巨額の未記載があった、と。それが94件、計5704万円という数字です。すごい金額ですよね。94件の内訳は、自らが所属する党や派閥の政治団体から受けた寄付を掲載していなかった、ある業界の政治団体から受けた寄付を記載しなかった……。そんな内容だったそうです。

この報道が可能になったのは、寄付を行う側と受け取る側の収支報告書を突き合わる作業を行ったからです。NHKは潤沢な資金と人材、最新のコンピュータなどを抱えていますから、膨大な資料の分析も比較的短時間にできたのではないかと思われます。

それから、大事な点を一つ。

――はい。何でしょう?

本間 党本部から所属議員に「政党交付金」として支出される資金は、すべて税金が原資です。政治資金のチェックは、税金の使途を調べることだとも言えます。国レベルで言えば、国会は日本の最高権力機関ですから、その構成員についての調査は疎かにできません。

――政治資金収支報告書を調べていて、疑問点が出てきたらどうしたらいいですか?

本間 制度上の疑問点は総務省選挙資金課か、都道府県の選管に問い合わせればよいと思います。収支報告書の内容に関する具体的な疑問については、その政治団体と関係する政治家の事務所に問い合わせるのが一番です。収支報告書は公開書類ですし、さっきも言ったように政治資金には税金が少なからず含まれています。ジャーナリストであるなしにかかわらず、誰もが質問する権利を持っています。


◆「私の経験、披露します」

――政治資金の収支報告書を端緒にして、どんな調査報道記事を書いてきましたか。具体例を教えてください。

本間 新聞記者時代も含めて、いくつもありますが、最近の事例を2つ。いずれもフロントラインプレスとしてネット上で公開した記事です。

1つは、国会議員の選挙「余剰金」の調査報道です。すべての国会議員を対象にして、選挙運動費用収支報告書をひっくり返し、選挙運動でお金をいくら余したかを調べました。「選挙にはお金がかかる」「資金が足りない」といった話はよく聞こえてきますが、実は多くの議員が選挙でお金を余らせているんですね。その余剰金(残金)の実態を明らかにし、さらに残金をどうしたのかを調べました。ポスター印刷代などが公費で賄われるなど、候補者には税金が流れます。余ったお金をポッケに入れたのか、どこかに寄付したのか、あるいは行方不明なのか。問題の所在は小さくないと思いました。

フロントラインプレスの仲間の協力を得て、記事は2019年に東洋経済オンラインで公開しました。

国会議員の選挙資金を調べるフロントラインプレスのメンバー(2019年)

一般に国会議員の選挙運動費用は、その候補者が代表を務める政党支部などからの寄付を中心に賄われています。政党支部の資金には税金である政党交付金が含まれているわけですから、選挙後に余った現金は寄付元である自分の政党支部などに返却するのが正しい処理方法と考えられています。ところが、です。調査を進めると、これが……。

――ひどい実態だった?

本間 衆参の国会議員約700人を調べた結果、268人が余剰金を返却しておらず、余った現金が行方不明になっている実態が明らかになりました。使途不明の最高額は1回の選挙で約2725万円に上りました。たった1回の選挙で3000万円近いお金を余らせ、しかもその行方が分からないんですよ!

政治家の多くは「選挙資金の中には政党交付金が含まれており、余剰金は政党支部に戻すべきもの」と本音の部分では認識しています。

――具体的には、どんな調べ方をしましたか?

本間 選挙に際し、政党支部などから政治家個人(立候補者)にいくら寄付が行われたかを選挙運動費用収支報告書で調べました。その額は、政党支部などの支出(寄付)額と一致していなければなりません。そのために、政治資金収支報告書も使いました。

続いて選挙運動費用の残金が政党支部などの収支報告書に返却されているかどうか、そのチェックです。すべての国会議員を対象に、選挙運動費用収支報告書と政治資金収支報告書を往復しながらチェックしました。都道府県の公報や官報なども使いましたし、取材班で目を通した書類は1万枚を超えたかもしれません。

――最近の事例のうち、もう1つはどんな報道でしたか。

本間 2021年春にスローニュースで公開した国会議員による寄付金還付の実態調査の記事です。国会議員などは自らが代表の政党支部に自ら寄付した場合、なんと寄付額の約3割が確定申告によって戻ってくるのです。耳を疑うような話ですが、租税特別措置法の「抜け道」として今もまかり通っているのです。抜け道の存在だけでも驚きですが、実際にそれを使って還付を受ける議員がいるのですから、「ええっ!」です。

本間 各議員の政党支部の政治資金収支報告書を活用した調査は、次のような手順でした。まず、政治資金収支報告書の寄付者の欄にその政治家自身の名前があるかどうかを調べます。名前があれば次に進みます。

政治家が自身の寄付の3割を還付してもらうには、総務省や都道府県選管が発行する「寄附金(税額)控除のための書類」というタイトルの書類が必要です。その作成を政治家側から依頼しなければなりません。公文書です。そこで、各選管に開示請求し、その政治家が「寄附金〜」の書類を受け取っていたかどうかを確認しました。衆参の全国会議員を対象に調べた結果、39人が「抜け道」を利用して還付を受けていました。


◆政治資金を調べるために“技能”は必要?

――政治資金を調査するためには、どんな能力や技能が必要ですか?

本間 特にありません。強いて言えば、粘り強さというか、執念です。

―― ジャーナリストでなくても、調査はできるわけですね?

本間 もちろんです。問題意識があれば誰でもできます。みんなが関心を持つことで政治家の側の意識も変わる可能性があるし、多くの人の声がなければ現状の制度のゆるさは改まらないと思います。

――政治資金の使途を自らのHPで公開する議員はほとんどいません。どうしてでしょうか?

本間 収支報告書の支出項目である「政治活動費」に、使途に関する規定はありません。しかも、議員にとってメーンの「財布」である政党支部については、5万円以上の支出でなければ記載する必要はありません。したがって、会計責任者がきっちりとルールを厳守する人でない場合は、与野党を問わず、大半の政治団体がおよそ政治活動とは無縁と思われる物品を政治資金で購入しているのが実態です。

自身のHPで政治活動費の内容をすべて公開している議員はほとんどいません。公開できるほどのクリーンさはないと政治家自身が自覚しているからでしょう。実感として、政治団体の収支報告書上の残高と、その政治団体の預金口座の残高が実際に合致するケースは皆無に近いと思っています。

政治家が、どれだけルール厳守を自らに課しているか、自分の秘書である会計責任者にどれだけルールを守るよう言い聞かせているか。議会とはつまるところ、税金の使途を決める場です。そんな重要な役割を有権者から付託された議員が、カネの扱いにいい加減だったら? 与野党を問わず、そんな人物に税金の使途を決めさせていいのでしょうか?

政治家の資金を調べることは、調査報道のキホンのキだと私が言うのは、まさにそうした実態があるからです。これまでに説明したように、政治家の資金を調べること自体はそう難しいことではありません。しかし、一般の人は忙しくて、そんなことやっていられない。そこにジャーナリストの存在意義はあるし、調査報道の意味もあるのだと思います。

=終わり
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