松田聖子「SEIKO MATSUDA 2021」80年代初期の2曲をオリジナルキーでリメイク!  2021年10月20日 松田聖子のアルバム「SEIKO MATSUDA 2021」がリリース

「赤いスイートピー」に並んだ!松田聖子の特別な曲「青い珊瑚礁」

なんかやっぱり私にとって「青い珊瑚礁」って、すごく特別な曲なんですよね。2曲めなんですけどね。

―― 松田聖子のこの発言に不覚にも目頭が熱くなってしまった。10月14日、TBSテレビで放送された『櫻井・有吉THE 夜会』での櫻井翔によるインタビューでのことである。

その後改めて大切な曲を聞かれた聖子は、「青い珊瑚礁」「赤いスイートピー」「SWEET MEMORIES」「あなたに逢いたくて~Missing You~」の4曲を挙げて、どれとは決められないと語った。

今までこの手の質問では、自分が知る限り「赤いスイートピー」が鉄板だった。オールドファンの僕の心を撃ち抜いた、別稿で書いた4月に発表されたセルフカヴァー「青い珊瑚礁~Blue Lagoon~」といい、やはり何かが変わったのかと思わざるを得なかった。

“松田聖子初期原理主義者”の極私的ファン史

昨年から今年にかけてリマインダーで松田聖子の40周年を迎えたアルバムやシングルについて何回か書かせて頂いたが(※1)、「白いパラソル」で一旦終わらせて頂いたのは、40年前に僕がファンであることを一時休止したからであった。

「風立ちぬ」「赤いスイートピー」の頃、僕は松田聖子から距離を置いた。彼女がアーティスト然と持ち上げられるようになってきたのに抵抗があったのだ。僕が好きだったのは歌の上手いアイドルの聖子ちゃんであって、アーティストの彼女ではなかった。

「女性のファンが増えた大切な曲です」という聖子の「赤いスイートピー」評にも、この曲が好きではなかった男性ファンとしては、疎外感を抱かずにはいられなかった。

1982年の「渚のバルコニー」でファンに戻ったのだが、結局この年いっぱいで、「野ばらのエチュード」が紅白で歌われた中、僕は松田聖子のファンを辞めた。最後に買った聖子の新譜はこの12月に出た企画アルバム『金色のリボン』であった。

とある著名な音楽評論家の方には “松田聖子初期原理主義者” というありがたい呼称を頂戴している。

「SEIKO MATSUDA 2021」初回限定盤ジャケットは聖子ちゃんカット!

昨年2020年、松田聖子がデビュー40周年でリリースした『SEIKO MATSUDA 2020』。自分がファンだった頃に聖子に曲を提供していた財津和夫が実に36年振りに「風に向かう一輪の花」を書き、ジャケットにはデビュー当時の聖子の写真も使われた。しかし4曲のセルフカヴァーは全て自分がファンを辞めた後の曲だったこともあり、サブスクで聴くに留まった。

今年、その続編となる『SEIKO MATSUDA 2021』がリリースされる。そのDVD付き初回限定盤のジャケットを見て僕は息を呑んだ。そこにはこの春「青い珊瑚礁~Blue Lagoon~」のMVで40年振りに復活した聖子ちゃんカットの、今の松田聖子が堂々と写っていたのだ。

「青い珊瑚礁~Blue Lagoon~」も初めてフィジカルで収められる… 気持ちが大いにグラつき始めた…。

『THE 夜会』の翌日10月15日、テレビ朝日の『MUSIC STATION』に松田聖子が出演し、新譜に収められるセルフカヴァーから「瞳はダイアモンド~Diamond Eyes~」を歌った。

緊急事態宣言が解除された10月なので僕は呑みに出ていて、帰宅後録画で視聴した。ファンを辞めた後のシングルで一番好きな曲を、聖子はオリジナルキーで、比較的クセも出さず素直に歌っていた。酔っていたせいもあったが、落涙した。

しかし翌朝サブスクで聴いたアルバムでの音源はややクセがあり、好みが分かれそうだった。CDを購入するか否か、僕はあの曲のセルフカヴァーを聴くまではペンディングにすることにした。

感動再び!「チェリーブラッサム2021」大村雅朗の名アレンジをリスペクト

10月18日の20時からニッポン放送で『松田聖子のオールナイトニッポンPremium』が放送され、僕はスポーツジムでスマホのradiko経由で聴いていた。21時10分過ぎ、その曲はかかった。僕はイントロで恐らく声を上げ、ストレッチマットに暫し立ちつくした。またしても目頭は熱くなっていた。

その曲は「チェリーブラッサム2021」であった。何よりもオリジナルキー、そしてオリジナルの故・大村雅朗の名アレンジを尊重した編曲に、40年前この曲が大好きだった僕は素直に心を動かされた。

編曲は近年の松田聖子の曲を数多く手掛ける野崎洋一。オリジナルにプラスした部分や音のバランスについては言いたいことも勿論あるが、オリジナルへのリスペクトと自らのオリジナリティのバランスは悪くないと感じた。

更に番組でかかったのは新譜の最後を飾る曲「私の愛」。財津和夫が作詞作曲をした、実に40年振り4曲めの松田聖子提供曲である。因みにこれまでの3曲とは40年前のアルバム『Silhouette』の「Sailing」と「あ・な・たの手紙」、そして同年のサントラ盤『野菊の墓』に収められた隠れた名曲「野の花にそよ風~サブテーマ「雲」」であった。

この曲だけ恐らくは財津の人脈であろう小泉信彦がアレンジを担当していて、ドラムやベースが前面に出たかなりゴツゴツとしたロック色の強いサウンドになっている。そして財津の詞も、過去の3曲同様、九州男児ならではなのだろうか、武骨さを有している。

その結果、この曲はアルバムで異彩を放ち存在感を誇示し、同時に初期の松田聖子の粗削りさをも彷彿とさせた。“初期原理主義者” としてはたまらなかった。聖子本人も気に入っているのだろう。この曲のMVも制作されている。

このラジオでの2曲が決定打となり、僕は翌19日、昔松田聖子のレコードを買っていた渋谷で、『SEIKO MATSUDA 2021』を発売日前日にフラゲ。実に39年振りの聖子の新譜購入となった。

オリジナルキーには夢がある! 果敢に挑んだ初期の曲のリメイク

アルバムは前半5曲がセルフカヴァー、後半5曲が新曲という構成。LPのAB面を意識したといい、トータルで41分とこれもLPサイズで、聴き易い長さになっている。新曲の4曲は松田聖子が作詞作曲している。

松田聖子は、コロナ禍の中元気を届けられたらという思いからこの続編アルバムを作った。遂には聖子ちゃんカットも復活させ、そして今アルバムでは初期の曲のリメイクにも果敢に挑んだ。

特に初期の曲では聖子のクセも全くと言っていい程出ていない。そしてやはりオリジナルキー。ファルセットを使っている部分もあるのだろうし、コーラスでカヴァーしている部分もあるのだろうが、それも分かりにくい。流石と言う外あるまい。ヴォーカルは細くなってはいるが、オリジナルキーにはやはり夢がある。

39年越しに買った松田聖子の新譜『SEIKO MATSUDA 2021』に僕は確かに元気を貰った。聖子ちゃんに笑顔にさせられる日が再び来るなんて、やはり夢にも思っていなかった。

※編集部注:カタリベ・宮木宣嗣さんの松田聖子関連コラムです。こちらもぜひ参照ください! 『作詞は松本隆、松田聖子の「白いパラソル」って「君は天然色」の兄妹ソング?』 『松田聖子「シルエット」2つの表情をもったチャーミングなアルバム』 『40年振りの聖子ちゃんカット!松田聖子「青い珊瑚礁」あなたが好き!』 『松田聖子の新たなスタート「チェリーブラッサム」に込められた秘かな決意』 『名曲輩出!松田聖子 初の No.1アルバム「ノース・ウィンド」の魅力』 『松田聖子最初のピークは「風は秋色」サードシングルで初のオリコン1位!』 『松田聖子「SQUALL」迫力満点のヴォーカル、デビューアルバムにして規格外!』 『おでこが眩しかったぁ!松田聖子の初主演映画「野菊の墓」舞台挨拶』 『ウィンター・ガーデン、この曲こそ松田聖子初のクリスマスソング』

カタリベ: 宮木宣嗣

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