海賊版サイト「漫画村」追い詰めた中島博之弁護士の凄い漫画愛

中島博之弁護士(東スポWeb)

【直撃!エモPeople】海賊版漫画サイト「漫画村」の運営者を特定した弁護士が漫画原作者としてデビューし、話題になっている。中島博之弁護士は海賊版漫画サイトなど、ネット上で著作権を侵害し、収入を得る輩に対し「絶対に許せない」という信念で闘い続けている。コロナ禍の巣ごもり需要で違法漫画サイトに加え、映画を無断で編集して見せる「ファスト映画」問題も浮上。その実態と対抗策、自身の使命を聞いた。

2019年、7万冊の漫画を違法掲載し、推定約3200億円の損害が出た海賊版サイト「漫画村」の元運営者(27=当時)が潜伏先のフィリピンから強制送還され逮捕された。運営者の特定を執念でやったのが中島氏だ。

「放置したら出版、漫画文化が崩壊してしまう。なんとかできないかと思ったのが最初でした」

18年に発信者情報開示請求を提訴。米国のサーバー会社への情報開示請求など約4か月をかけて運営者を特定した。費用の100万円超は自腹だった。

「被害者の漫画家からさらに弁護費用を取れば二次被害になるのでお金はもらわなかった。ビジネスではなく、単純に漫画が好きというのもありました。出版社の顧問や漫画の法律設定などにも協力していたので、作品を作るのにお金と時間がかかるのは知っていた。それを違法にアップロードして、楽してお金を稼ぐのは許せないという気持ちが強かった」

「漫画村」摘発後、海賊版サイトへのアクセスはいったん落ち着いていたが、コロナ禍の巣ごもり需要で再び増加。その被害額は昨年1月~今年3月で3649億円(ABJ調べ)に上る。

加えて最近では、映画を無断で10分ほどの動画に編集し、字幕やナレーションをつけて結末まで分かるようにした「ファスト映画」なる“ネタバレ動画”が出ている。

中島氏が今年6月「コンテンツ海外流通促進機構(CODA)」とともに調査をすると、違法アカウントは55、推定956億円の被害が判明。

ここでも米国の裁判所を通じて情報開示請求などを行い、違法投稿者を特定。計5人の逮捕や送検につなげ、アカウントは現在9つに減った。

「うち書類送検となった1人から話を聞くと、オンラインゲームで知り合った男からナレーションだけ頼まれ、70本に出演し、報酬は計10万円。映画会社とは和解しましたが、賠償金は1000万円以上。起訴された主犯格の男は450万円以上を稼いでいました」

中島氏の経験は法改正にも生きた。昨年8月、総務省令が改正され、開示対象となる権利侵害者の主要な情報はそれまでの住所・氏名やIP、メールアドレスまでだったのが、電話番号まで開示できるようになった。これも中島氏が国会議員や総務省に訴え続けた結果、法改正の土壌ができた。うその住所・氏名で登録し、摘発されないと踏んでいた権利侵害者にとっては脅威となる。

子供のころから手塚治虫「ブッダ」「ブラック・ジャック」を全巻揃えるほどの漫画好きだった中島氏。このほど自らも漫画制作の当事者となった。

ゆうきまひろのペンネームで漫画原作者として「弁護士・亜蘭陸法は漫画家になりたい」(画‥武村勇治/小学館コミックアプリ「マンガワン」)の連載が今年8月からスタート。12月17日に第1巻が発売される。

「一度は漫画制作をやってみたいと思ったのと、代理人の弁護士ではなく、自分も権利者になって違法サイトと直接闘いたいという思いもありました。漫画村事件をモデルにした物語などを通して、クリエーターに敬意を持ってほしい。違法アップロードは漫画文化の破壊につながること、それを見ることは権利侵害者に広告収益を与え、間接的に犯罪に手を貸すことになるという警鐘の意味も入れています」

漫画村の出費に加え、ファスト映画でも約70万円の自腹出費をしたというが「作品の印税収入が入ったら、すべて海賊版対策に使いたい」とも。

自らを奮い立たせる時も漫画の名セリフが頭に浮かぶという。

映画化された「寄生獣」で主人公がボロボロになってラスボスに最後の反撃を試みるか、このまま諦めるかで迷った時に出た言葉だ。

「主人公は『でもやらなきゃ確実な0だ』と言うんですが、その言葉から行動することが大事と学びました。これからもライフワークは海賊版サイトの撲滅。いたちごっこと諦めないで、地道に法的手続きを積み重ね、一件ずつ摘発につなげ、抑止効果としたい。違法サイトがなくなるような社会を目指したい」

温和な外見からは想像がつかないような闘争心、正義感を秘めている。

☆なかじま・ひろゆき 奈良県出身。2007年中央大法学部卒。10年、神戸大法科大学院修了。衆院議員秘書、政策秘書資格取得。司法試験合格。11年、弁護士登録。専門は企業法務、知的財産法、インターネット上の権利侵害対策、サイバー犯罪対策など。19年に摘発された海賊版サイト「漫画村」の元運営者を特定。今年6月に摘発された「ファスト映画」違法アップロード投稿者の特定にも寄与。今年8月から、ゆうきまひろ名で「弁護士・亜蘭陸法は漫画家になりたい」で漫画原作者デビュー。

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