王道サスペンス? 凸凹コメディ!? Netflix映画『この世に私の居場所なんてない』サンダンス映画祭審査員グランプリ受賞作

Netflixオリジナル映画『この世に私の居場所なんてない』独占配信中

イライジャ・ウッド出演のNetflixオリジナル映画

『この世に私の居場所なんてない』(2017年)は、俳優として『サンダーロード』(2018年)などにも出演しているメイコン・ブレアによる初監督作品。主人公は看護助手のルースで、メラニー・リンスキー(『ハーパー★ボーイズ』[2003~2007年]ほか)が演じています。

ルースは人とのコミュニケーションが得意ではなく、日頃からなんとなく生活がうまくいかないと感じていて、そのうえ漠然とした不安に苛まれている。ある日、彼女の家に空き巣が入るが、警察が親身になってくれず憤り、自力で捜査のようなことを始めてしまう。

近所に怪しい人物がいないか聞き込みをしていると、以前ルースと犬のフンの放置についてトラブルになった風変わりな男、トニー(イライジャ・ウッド)と再会する。彼に協力してもらい盗まれたPCを取り返すと、空き巣の手がかりを見つけて更に調べを進めていき……というのがあらすじ。

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意味がないことの連続に、本人が意味を見出すかどうかが人生

Netflixのジャンルではヒューマンドラマ/サスペンスとなっているのだが、王道のそういったものからは何かがちょっとずつズレている。しかし、観ている者の予想を裏切る展開や結末などはズレではなく、それこそ王道の一つなのだと言わんばかりに、物語を雄弁に語るための要素をどんどん潰していく、といった妙なズレ方だ。

ほぼ無意味に負傷したり、ストーリー上重要と思われた人物が突然死んだりする。いわば荒唐無稽なギャグの連発になっていて、クライム・サスペンスと思われたスタートから、徐々にコメディ化していく。王道サスペンスへのメタ的な視点を持ったバディもの、とも言えるかもしれない。

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トニーはキャラクター要素が強く、おかしな武装の趣味や、中途半端な知識で虚勢を張るようなところがあったかと思えば、クリスチャンとして信心深い振る舞いをしてみせたりする。彼に関する説明的なシーンは度々挿入されるものの、実際にはほとんど意味がなかったりするのも意味深だ。

ルーシーは漠然とした不安の中で、人間とは意味のないものなのではないかとシリアスに悩んでいるのだが、脈絡のない馬鹿げたことが連発し、妙にドラマチックになっていく人生に対し、段々と意味を感じ始める。そこに「意味がないことの連続に、本人が意味を見出すかどうかが人生」という監督のメッセージを感じた。

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余談だが、比較的早い段階で“これはなんか様子がおかしいな”と気づく作品でも、サスペンスという先入観を持って観ることが良い場合もあれば、そうでない場合もある。本作を観ていて“映画との最適な出逢い方”について考えてしまった。ただ自分はジャンルの狭間にいるような、説明が難しいような作品が好きで、本作もそんな感じがあるなと思いつつ、かつ単純な名作とは言い切れない変な魅力も感じた。『ホットファズ 俺たちスーパーポリスメン!』(2007年)や『ファーゴ』(1996年)、『ゾンビランド』(2009年)のような映画が好きな方にはオススメしたい。

文:川辺素

『この世に私の居場所なんてない』はNetflixで独占配信中

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