女子プロを経て大学進学 1年生のコーチ兼任選手が果たした同級生の主将との約束

大体大・白石美優【写真:本人提供】

白石美優は女子プロ野球で3年間プレー、今春大体大に進学しコーチ兼選手に

9月に和歌山県田辺市で開催された第11回全国大学女子硬式野球選手権大会で、大体大が初優勝した。原動力になったのは、昨季まで女子プロ野球リーグでプレーしていた白石美優外野手(1年)。活躍の裏には、中学時代にチームメートだった戸室知奈美主将(4年)と交わした7年越しの約束があった。【石川加奈子】

左腕におそろいの黄色のリストバンドをつけて臨んだ平成国際大との決勝戦。4-3の逆転勝利が決まると、白石はセンターから快足を飛ばして戸室に抱きついた。「約束を果たそうという個人的な目標があったので、うれしくて泣いてしまいました。最高のプレゼントができました」と笑顔で振り返った。

2人の約束は、中学時代にさかのぼる。女子プロ野球リーグのユースチームとして誕生した大阪のクラブチーム「ピュアエンジェル」の1期生として3年間ともに汗を流した後、白石は福知山成美、戸室は京都両洋と別々の高校に進学することになった。その際「大学でまた一緒にやろう」と再び同じチームで日本一を目指すことを誓った。

だが、高校卒業後すぐには実現しなかった。女子プロ野球リーグのセレクションを突破した白石がプロ入りしたためだ。昨季限りで女子プロ野球リーグが事実上活動休止になったことで事態が動いた。白石は高校時代から志望していた大体大に今春入学。ギリギリのタイミングで約束を果たし、2人は7年ぶりにチームメートになった。4年生の戸室は主将として、1年生の白石は同大初のコーチ兼任選手としてチームをまとめ、2009年の創部以来初めての日本一に導いた。

決勝戦では、3番打者の白石が初回に先制の左中間二塁打、3回に勝ち越し犠飛と勝負強さを発揮。守備でも6回2死一、三塁のピンチで右中間の打球をスライディングキャッチしてチームを救った。「4年生もみんな『優勝したい』と言って練習していましたし、そのためには自分が役割を果たさないといけないという責任感がありました」と胸を張った白石。本来なら同級生にあたる4年生に優勝をプレゼントすると同時に、親友の戸室を“日本一の主将”にした。

第11回全国大学女子硬式野球選手権大会で初優勝した大体大【写真:本人提供】

「最終目標はジャパンに選ばれること。選ばれるまでやりたい」

この試合には、もう一つ白石の闘争心をかき立てる出来事があった。平成国際大の先発投手は、女子プロ野球で同期だった久保夏葵投手。「プロの時も相性の良い投手でした。対戦できると分かった時にスイッチが入り、燃えました」とプロから大学へと舞台を変えた対決を楽しんだ。

コーチ兼任の白石にとって、連覇を重ねることが新たな使命になる。すでに始動している新チームでは、“年下の先輩たち”と積極的にコミュニケーションを取っている。今年22歳になる1年生は「私自身、キャラ的に面倒くさいタイプではないので、(年下の選手の)ため口も全然気にしません。逆にいじられたりしていますよ」と話しやすい雰囲気づくりを心がけ、プロの3年間で学んだことを惜しみなく伝えている。

指導の勉強をしながらも「最終目標はジャパンに選ばれること。選ばれるまでは選手をやりたいと思っています」と侍ジャパン女子代表入りへの熱い思いも口にする。理想の選手は、女子プロ野球リーグで前人未到の500安打を達成し、女子野球ワールドカップに4度出場した三浦伊織外野手(阪神タイガースWomen)だ。

「中学生の時から三浦さんを目標にやってきました。プロで同じチームになり、学んだことがたくさんあります。自信を持って打席に立ってフルスイングすることや、守備のポジショニングなど。今でも球場で会うとすぐに飛んで行って、あいさつしますし、いろいろ相談しています」と走攻守3拍子そろった左の外野手を追いかける。

代表入りするには、その“師匠”を超えなければいけないことも分かっている。「最終的に三浦さんを抜かないといけないですし、そこが大きな壁。トータル的に上げていかないといけないと思っています」と次の目標に向かって走り始めている。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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