ARTA NSX-GTが雪辱を果たす圧巻の今季初優勝。レース展開は予選順位からまさかの急変【第6戦GT500決勝レポート】

 2年ぶり開催のスーパーGT九州ラウンド。2021年第6戦となるオートポリスでのGT500クラス決勝は、SUGO同様序盤から2年分の波乱やアクシデントの蓄積を吐き出したかのような荒れた展開に。しかし、目まぐるしくポジション変動が起きた集団バトルを尻目に、セカンドスティント以降独走体制を築いた8号車ARTA NSX-GT、野尻智紀/福住仁嶺組が悪い流れを断ち切るシーズン初優勝を手にしている。

 シーズンもいよいよ残すは3戦。タイトル争いに向け天王山とも言える1戦は、2年ぶり上陸の九州決戦となった。舞台となるオートポリスは会期直前に県境のほど近い熊本県阿蘇山麓の噴火により影響が危惧されたものの、サーキット所在地の大分県日田市は幸いにして大きな影響なく10月23日(土)の予選日を完了。決勝日となる24日(日)も前日より若干の雲が漂う空模様ながら、12時10分のウォームアップ走行を迎えた。

 兼ねてから言われるように、富士や鈴鹿など普段からレースカーによる走行機会の多いサーキットに比べ、舗装状況から来る『タイヤ摩耗の厳しさ』という特徴を持つオートポリスは、この週末はさらにサポートレースの開催がないことで、土曜練習走行、予選を経てもラバーインが少ない見積もりと見られ、より一層タイヤのライフマネジメントが勝負の鍵を握ることになると予想された。

 前日予選でコースレコード更新という快挙でポールポジションを獲得した16号車Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT(サクセスウエイト=SW:24kg)を筆頭に、セカンドロウ3番手の64号車Modulo NSX-GT(同10kg)、4番手の8号車ARTA NSX-GT(同30kg)が軽量さを活かした逃げを決めるのか、それとも70kgものSW搭載ながらフロントロウ2番手に飛び込んだ14号車ENEOS X PRIME GR Supraらが戦略面で優位性を生み出し、タイトル戦線でも再び主役の座を取り戻すのか。ランキング上位勢の重量組が見せる逆襲のレースvs軽量組のスパートが決まるかが決勝序盤のポイントと考えられた。

 13時30分に2周のフォーメーションラップが開始されると、気温12度で路面温度は20度と、想定より低めのコンディションで全15台がシグナルグリーンでウィービングしながら1コーナーへ向かっていく。

 すると前日予選でもその動きからソフト側のコンパウンドを選択していそうなENEOS X PRIME山下健太が、第1ヘアピンで先頭のRed Bull MOTUL MUGEN大湯都史樹のインに飛び込み、早々と首位浮上に成功。後方ではその14号車と同じく予選終盤までステイ組だった39号車DENSO KOBELCO SARD GR Supraヘイキ・コバライネン、38号車ZENT CERUMO GR Supra立川祐路もそれぞれポジションを上げてくる。

 すると5周目にまずは14号車を対象に、このラウンドで年間3基のエンジン使用基数により5秒間のピットストップペナルティがレースコントロールから宣告され、7周目突入時点でENEOS山下がピットレーンへ。続く周回には37号車KeePer TOM’S GR Supraも同様にペナルティを消化し、8周目に指示を受けたZENT立川は最終セクターブリッジ手前で17号車Astemo NSX-GTとの接触サイド・バイ・サイドを制すると、続く9周目の1コーナーで39号車DENSOにもアウトから仕掛けてオーバーテイク。ピットを前に少しでもポジションを稼いでおこうという気迫の走りで、GRスープラ勢最後のペナルティ消化へ向かう。

 ここで立川がピットレーン滞在中の10周目に、第2ヘアピンでGT300車両がクラッシュ。破損状況によりフルコースイエロー(FCY)が宣言され、続くラップにはセーフティカー(SC)導入が決定。これにより3基目投入のペナルティ消化を経たトヨタ陣営3台は、ギャップを最小限に留める幸運な展開となる。

 14周目を前にホームストレートでクラス別に隊列を整えたのち、17周突入でレースが再開されると、5番手のDENSOコバライネンが後続にフタをする間に先頭4台が逃げる態勢に入っていく。すると続く18周目のターン1で首位Red Bull MOTUL MUGEN大湯にまさかのアクシデントが襲い、右リヤタイヤがホイールごと脱落しスローダウン。大湯は成す術なくマシンを止めることに。

 すると負の連鎖は続き、20周目には再びGT300クラスでクラッシュが発生。ターン4~5に大破したマシンのパーツ等が散乱したことから、すぐさま2度目のSC導入が宣告される。

 このSCピリオド中にドライバー最低義務周回数のレース距離3分の1を超えるため、リスタート直後にミニマムで飛び込む戦略を採用するチームがピットレーンで準備を始めると、25周突入でのレース再開と同時に、4番手のDENSO以下、トムスの2台、そして1号車STANLEY NSX-GTら6台がドライバー交代に飛び込む。

 続く26周目の周回にはAstemo NSX-GT、その翌ラップにはARTA福住仁嶺や12号車カルソニック IMPUL GT-Rらもピットへ向かい作業エリアの混雑を避けると、以降毎周のようにルーティン作業が続き、29周目には2番手まで上がっていた3号車CRAFTSPORTS MOTUL GT-Rと、同じく3番手のZENT立川、そして30周目に首位のModulo伊沢拓也が最後にピット作業へと入ってくる。

 29.7秒の静止時間でバトンを受けたModulo大津弘樹は、コールドタイヤのアウトラップこそARTA野尻智紀、DENSO中山雄一、そしてアンセーフリリースで審議となりながらも黒白旗の警告で事なきを得た1号車STANLEY NSX-GT山本尚貴に先行を許すものの、タイヤ発動を得た32周目には“オーバーテイク・ラッシュ”を披露。

 まずターン1でチャンピオンの山本を仕留めると、中盤の第2ヘアピンでDENSOに並びかけ立ち上がりでスルスルと前へ出る。勢いそのまま首位ARTAの2021年全日本スーパーフォーミュラ選手権新王者、野尻の追走態勢に入っていく。

 35周以降テール・トゥ・ノーズに迫ったNSX-GTの2台は秒差圏内での勝負を繰り広げるも、40周を前にスーパーフォーミュラ新チャンピオン野尻がペースを持ち直し、GT300のトラフィックなども巧みに利用してマージンを5秒以上に拡大。一方で後方10番手のポイント圏内を争う勝負でも、同じくトラフィックを活用した11番手のZENT石浦宏明が14号車のENEOS X PRIME大嶋和也らを仕留め9番手にポジションアップ。17号車Astemoの塚越広大を後方へと追い落とす。

 前方では3番手のDENSO中山以下、STANLEY山本とMOTUL GT-R松田次生が三つ巴の神経戦を繰り広げると、45周目のターン1でGT-Rが4番手へ浮上し表彰台圏内へあと一歩のところまで迫っていく。そのまま熾烈なバトルを展開したDENSO中山とMOTUL松田の2台は、ジリジリとペースダウンの兆しを見せた2番手Modulo大津をもキャッチアップし、5台を交えた集団バトルロイヤルへと発展する。

 53周目に3番手へと並びかけた松田は、ランオフへはみ出しダストを巻き上げながらもDENSO中山と並走。すると火がついた中山も前を行くNSXに仕掛け、第2ヘアピンでインへと飛び込む。と同時に、グリップダウンの限界点に達していたModulo大津は抵抗することもできず後続の車列に飲み込まれ、ここで一気に4ポジションダウン。6番手まで後退することとなる。

 さらに集団内で勢いを見せたのはZENT石浦で、パックに追いつく前の45周目には7番手、47周目にはカルソニックもパスして6番手へと順位を上げてきた勢いそのままに、54周目のターン1でSTANLEY山本をかわすと、ターン3でわずかに失速したMOTUL松田も捉えてみせる。

 続く55周目のホームストレートでDENSO中山のスリップにつくと、先輩石浦がターン1で難なくオーバーテイクを決め、2番手へ躍進するジャンプアップを果たす。ここで中山のタイヤは力尽きたか、58周目の第2ヘアピンではMOTUL松田にもパスされ、惜しくも表彰台圏内から脱落してしまう。

 終盤には、残り5周の段階で6番手にいたCRAFTSPORTS平手晃平がペースを上げ、ラスト3周でまずはSTANLEY山本を第2ヘアピンで仕留めトップ5に浮上。そのままDENSO中山に迫ると、ファイナルラップ突入のターン1で“古巣”DENSOを仕留め4番手をもぎ取っていく。

 しかしはるか前方、首位ARTAを筆頭にポディウム圏内の3台は65周を走破し、ARTA NSX-GTが2位のZENT CERUMO GR Supraに対し28.548秒もの大量マージンを築いての独走優勝。シーズン序盤からトラブルやアクシデントに見舞われ、勝てるレースを落としてきたARTAにとっては、悲願のシーズン初勝利となった。

 また、3位のMOTUL AUTECH GT-Rも終盤までレースペースが衰えることなく、4位急浮上を遂げたCRAFTSPORTS MOTUL GT-Rと合わせ、ミシュラン+GT-Rのパッケージが高い競争力を持つことを証明。前戦勝者で7位に入ったカルソニック IMPUL GT-Rを挟むように、選手権リーダーのSTANLEY NSX-GTが6位、同ランキング2位のAstemo NSX-GTも8位でしっかりとポイントを稼ぎ、続く“ウエイト半減”の第7戦ツインリンクもてぎ戦に向けシリーズ争いでは優位を維持する結果となった。

2021スーパーGT第6戦オートポリス GT500クラススタート
序盤ホンダNSX勢が1-3体制を築く
Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GTから脱落した右リヤホイールは勢いをそのままコース上を進んだ
オフィシャルの手で回収されるRed Bull MOTUL MUGEN NSX-GTのホイール
2021スーパーGT第6戦オートポリス 大湯都史樹(Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT)
後半スティントを担当した野尻智紀(ARTA NSX-GT)
2021スーパーGT第6戦オートポリス ARTA NSX-GT(野尻智紀/福住仁嶺)

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