予選20番手以下からポイント圏内へ。荒れたオートポリスでGT3古豪チームがみせた強かなレース展開

 10月24日、大分県日田市のオートポリスでスーパーGT第6戦の決勝レースが行われたが、二度のセーフティカーランをはさむ荒れた展開のなか、長年GT300クラスで活躍する老舗チームが、苦しい予選順位から大きくポジションを上げポイント獲得を果たした。タイヤのピックアップやデグラデーションに苦しむチームが多いなか、どんな戦略を採ったのか聞いた。

■参加条件で苦しんでいたGAINER TANAX GT-Rは予選22番手から5位へ

 チャンピオン争いに食らいついていた平中克幸/安田裕信組GAINER TANAX GT-Rは、今回ニッサンGT-RニスモGT3の参加条件が変更されブースト圧に変化があり、重いサクセスウエイトも相まって苦しい予選となっていた。

 序盤から少しずつポジションを上げており、ARTA NSX GT3を追う展開だったが、アールキューズ AMG GT3のクラッシュによりフルコースイエロー、セーフティカーが導入される。ここで「ピットに入れようか迷った」というのは、GAINER TANAX GT-Rの福田洋介チーフエンジニア。

 ただ、今回ブースト圧の影響で「抜けない状態だった」ことが引っかかった。もう少し引っ張ればドライバー交代をともなうピットインができることから、2回目のセーフティカー明けに入れる選択肢もあったが、SC中にタイヤ交換等の作業を行った組のうしろに入ることから、これもメリットがない。

 そこで、「引っ張れるだけ引っ張ろう」という作戦を採ることになった。その結果、ライバルたちがピットインしたことで、クリアなスペースができあがる。タイヤの状況をみながらチームはドライブしていた安田裕信にプッシュの指示を出したが、ピットインした他車がGT500の集団に遭遇したりしたこともあり、アンダーカット組のタイム分を稼ぎ出すことができた。

 最終的に安田は40周もの長いスティントをこなすことになるが、レースも残り3分の1が近づいてきた。GT500クラスの集団が近づく前にピットに入れようとしたときに、安田から「タイヤが厳しい」という無線が届く。そこでピットインを行い平中克幸に交代。プッシュして僚友のGAINER TANAX with IMPUL GT-Rの前に出ることに成功した。

 ただ、最後はSUBARU BRZ R&D SPORTと埼玉トヨペットGB GR Supra GTの争いに追いついたものの、それをオーバーテイクする余力はなし。燃料も警告灯が点くほど攻めた展開だったが、それでも5位フィニッシュという結果を残した。

「コース上で抜く戦略は立てられなかったです。安田選手のスティント終盤にもう一度セーフティカーが入っていればもっと良かったかもしれませんが、そこまでうまく運は味方しませんでしたね」と福田チーフエンジニアは語った。

 同様にGT-R勢のなかでチャンピオン争いを展開していたリアライズ 日産自動車大学校 GT-Rは、「3位争いできるくらいだった(藤波清斗)」というポテンシャルもあったが、「ピットでロスしてしまっていたり、JP(オリベイラ)さんもコースアウトしてしまったりとロスがあった」という状況で11位。GAINER TANAX GT-Rの5位は今後に大きく影響するかもしれない。

■もぎとった1ポイント。21番手から10位に上がったHOPPY Porsche

 今季苦しいシーズンになっていたHOPPY Porscheは、第6戦オートポリスも予選21番手と、苦しいポジションとなっていた。ただ、決勝では10位までポジションを上げ、1ポイントをもぎとった。

「ここはタイヤに厳しいサーキット。ただ、リヤの二輪交換ができるように公式練習からクルマを作ってきました」というのは土屋武士監督だ。

 前半の松井孝允のスティントではややピックアップに苦しみながらも、着実なレースを続けてきたが、当初から「レースの半分くらいを想定して、いけるところまでいく」戦略を採っていた。僚友のたかのこの湯 GR Supra GTはセーフティカーラン中にピットインする作戦を採ったが、もともと二輪交換を予定していたことから32周まで松井が走り、佐藤公哉に交代している。セーフティカーランが二度あったことも奏功した。

 交代後は、フレッシュなリヤタイヤで佐藤が29周を走り、ピットインの時間短縮で順位を上げることができた。「セーフティカーランが二度ありましたが、何も慌てずできた。ポルシェはフロントが楽ですし、二輪交換するためのバランス取りもできていた」と土屋監督。

「ヨコハマ勢のなかでも追い上げられると思っていました。ここはブリヂストン勢が強くて、ダンロップがどこまでいけるかだった。タイヤウォーズの中の勢力図ですからね。逆に鈴鹿ではヨコハマが強かったわけで。そのなかで、ポルシェはタイヤをしっかり使えるセットアップになっていたのでポイントが獲れました」

 あくまで「想定どおり」のポイントだったと土屋監督。「詳しくはホピ輔レポート(HOPPY team TSUCHIYAのレースレポート)で」とのことなので、楽しみにしよう。

HOPPY Porsche

■ピットスタートから6位へ。グッドスマイル 初音ミク AMGは逆境跳ね返す

 予選で苦しい戦いを強いられていたのは、グッドスマイル 初音ミク AMGも同様だ。名手・片岡龍也をもってしてもQ2進出はならず、19番手スタートとなっていた。ところが、グリッドに行ってみるとグッドスマイル 初音ミク AMGの姿がない。チームスタッフは「あれ? 見えませんか?」と冗談めかしたが、ミクAMGはピットボックスの中にいた。ピットスタートとなっていたのだ。

 河野高男エンジニアによれば、ピットスタートとなった原因は「パドルシフトのトラブル」だという。トラブルは解消されたが、ピット出口閉鎖には間に合わず。そこでピットスタートという逆境を跳ね返すべく、このタイミングでタイヤ交換を行うことになったのだ。ここで、片岡は予選とは異なるタイヤを履いてピットアウトする。ピークのポテンシャルはないが、グレーニングが比較的少ないというものだ。

 チームはさらに、ミニマムでのピットインを想定し、タイヤ無交換作戦も想定していたという。セーフティカーランもあり差を詰めることもでき、二度のSC明けにピットイン。ただタイヤの状況から無交換はあきらめ、リヤのみの二輪交換作戦を採った。ちなみに、片岡のスティントではリヤはユーズドを使っていたというからこちらも驚きだ。

 その二輪交換作戦を成功させたのは、チーム、そしてドライバーふたりの技術のなせる技だろう。「すべてがうまくいったから6位という順位が獲れた」と河野エンジニアは言うが、タイヤの状況を冷静に判断し、ピットスタート時に交換を行ったことも含め、このチームの底力を思い知らされるレースとなった。

ピットスタートとなったグッドスマイル 初音ミク AMG
グッドスマイル 初音ミク AMG

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