徹底検証!習近平の「台湾侵攻」は本当に可能なのか?|澁谷司 今年(2022年)2月24日、ロシアがウクライナへ侵攻した。それ以来、盛んに、台湾海峡危機とウクライナ危機が同列に語られている。本当に中国は「台湾侵攻」を決行するのか、徹底検証する。

台湾とウクライナの相違

台湾とウクライナには、いくつもの相違が存在する。したがって、中国の台湾侵攻とロシアのウクライナ侵攻を別モノと考えた方が良いのではないだろうか。

第1に、台湾に関しては、後述するように、米国内法である「台湾関係法」が存在する。ウクライナには、そのような法律は存在しない。

第2に、すでに台湾には米軍が駐屯している。ウクライナには米軍やNATO軍は駐屯していない。

第3に、台湾と中国の間は、台湾海峡で隔てられている。だが、ウクライナとロシアは地続きである。したがって、ロシアはウクライナを攻撃しやすい。

第4に、中国にとって台湾は必ずしも安全保障上のバッファーゾーン(緩衝国)ではない。他方、ロシアにとって、ウクライナ(とベラルーシ)は、対NATOとの安全保障上の死活的バッファーゾーンを形成している。

「中台戦争」は即座に「米中戦争」になる

中国の「台湾侵攻」は、即、「米中戦争」となるのは間違いない(ここでは「米中核戦争」については、両国が“共倒れ”になるので捨象する)。また、中国による「台湾海峡封鎖」も、やはり「米中戦争」となるだろう。なぜなら、基本的に、台湾は米国の「準州」と同じ “ステイタス”(地位)だからである。

1979年元旦、米国は、中国と国交を樹立した(1955年3月に発効した「米華相互防衛条約」は同年末まで有効)。そこで、米国は「台湾関係法」(1979年4月に成立したが、1月1日まで法の遡及を行っている)という“国内法”で「台湾人の生命、財産、基本的人権を守る」と謳った。

この法律は、米台両国間の条約や協定ではない。あくまでも米国の“国内法”である。それでいて、米国が一方的に「台湾人の生命、財産、基本的人権を守る」という。これは、事実上、台湾は米国の準州(グアムやサイパン〈北マリアナ諸島自治連邦区〉等)に相当すると考えられよう。この事実を知らずして、米台関係は語れない。

台湾に米軍を駐在

実は、1979年の米中国交樹立以降、米国は台湾に自国軍人を駐在させていなかった。ところが、2005年、中国は「反国家分裂法」を制定し、法律的に「台湾独立」を牽制した(元来、「中華民国体制からの独立」を「台湾独立」と称した)。そのためだろうが、同年、ブッシュ・ジュニア政権は台湾に制服組を派遣し、駐在させた。この件は、近年まで公表されていない。

また、米陸軍精鋭部隊「エクセレンス」は、数十年来、台湾陸軍と共に軍事訓練を行ってきた。中国軍の奇襲攻撃に備えるためである。この件に関しても、近年、ようやく公表された。

2018年6月、台北市の米国在台協会(AIT)の新庁舎が落成した。総工費は2億5500万ドル(約280億円)である。その建設には、台湾人は一切関わらず、秘密裡に完成した。新庁舎には、すでに在台米軍が駐屯しているが、最大4000人が駐留可能だと言われる。

米国が台湾を特別視する理由

なぜ、米国はそれほどまでに台湾を特別視しているのか。

まず、第1に、台湾の地政学的重要性にあるだろう。台湾は「第1列島線」(日本・沖縄・台湾・フィリピン・ボルネオ島を結ぶライン)の要所に位置する。同列島線は米国にとって中国「封じ込め」の重要なラインである。

仮に、中国が台湾を併合すれば、台湾は沖縄攻略の起点となる。また、中国海軍は自由に西太平洋まで進出可能になるだろう。このように、今もなお「第1列島線」をめぐり、米中間で激しい攻防が続いている。

第2に、台湾は半導体の重要生産基地である。かつて「鉄は国家なり」と言われた。だが、今では、半導体こそ国家の命運を担っている、と言っても過言ではない。あらゆる電子部品に半導体が使用されているからである。

とりわけ、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)はナノ・テクノロジーで世界トップ企業となった。同社は5ナノメートルの半導体を供給している。近くTSMC は3ナノメートルの半導体を製造するという。同社は、今後しばらくトップを走り続けるだろう。

第3に、台湾は米国の重要な武器輸出国の一つである。

昨年8月、米ロッキード・マーチンは台湾へF‐16Vを66機、売却すると発表した。1992年、ブッシュ政権はF16戦闘機150機を売却したが、それ以来の大型契約である。その他、台湾は米製自走砲等も購入している。「軍産複合体」の米国として、台湾は有難い存在だろう。

第4に、台湾は李登輝政権下で、蔣経國の権威主義体制から、民主主義体制へと変貌を遂げた。同国は米国の期待通りの理想的な国家となったのである。

台湾のハリネズミ戦略

近年、中国側が圧倒的な軍事的優位を確立している。そこで、台湾は非対称戦略であるハリネズミ戦略を採る。

イスラエルの防空システムは世界1の密集度を誇っている。台湾は防空システムでは、イスラエルに次ぎ、世界第2位の密集度だという。現在、台湾は、米国から購入した迎撃ミサイルシステムPAC3を72基設置している。

だが、我が国のPAC3は48基である。単純に計算すると、台湾は日本の1.5倍のPAC3を備えていることになる。しかし、台湾は日本の国土面積の10分の1しかない。したがって、台湾のPAC3密集度は我が国の15倍となる。台湾の防空システムは注目に値しよう。

ところで、昨年11月、台湾・嘉義空港では約40機で構成されるF‐16V戦闘機部隊の発足式が行われた(その他、台湾軍はF‐16A/B、仏製ミラージュ2000、経国号<IDF>等、合計約280機を保有)。他方、我が国の航空自衛隊は、戦闘機349機を保有する。とすれば、国土の狭い台湾が日本とほぼ同数の戦闘機を保有していることになるだろう。

台湾人の高い祖国防衛意識

昨年、シンクタンク「台湾民主基金会」は台湾国立政治大学選挙研究センターに依頼して、同年8月10日~15日にかけ20歳以上の1299人を対象にした世論調査(「台湾の民主的価値とガバナンス」)を実施した。12月29日、同基金会は、その調査結果を明らかにしている。

「台湾が『独立宣言』したが故に、中国が台湾侵攻した場合、台湾防衛のために戦うか」という設問では、「戦う」と回答した人は62.7%で、「戦わない」と回答した人は26.7%だった(「無回答」は10.6%)。

次に、「もし中国が台湾を統一する際に武力を使用したら、台湾防衛のために戦うか」である。「戦う」と答えた人が72.5%、「戦わない」という人は18.6%にとどまった(「無回答」は9.0%)。

結局、「中国が武力統一のため台湾へ侵攻する場合、与党・民進党支持者のうち90%が、野党・国民党支持者のうち過半数が『戦う』という考えを持つ」という。

この結果を見る限り、中国の「台湾侵攻」がそう簡単ではないことがわかるのではないだろうか。

米海軍少将マハンの金言

米海軍少将だったアルフレッド・マハン(1840年~1914年)は戦略研究家として名を馳せている。特に、マハンは「いかなる国も『海洋国家』と『大陸国家』を兼ねることはできない」と喝破した。マハンは第1次世界大戦開始直後に亡くなっているが、その金言は今もなお、生き続けているのではないか。

実際、世界の大国が「海洋国家」は陸で苦戦し、「大陸国家」は海で苦戦している。その失敗例を挙げてみよう。

【失敗例1】第1次世界大戦と第2次世界大戦で、「大陸国家」ドイツはUボート(潜水艦)でイギリス等に対抗したが、どちらも敗北した。

【失敗例2】第2次大戦前、「海洋国家」日本は中国大陸へ“進出”したが、結局、敗戦に至る。帝国陸軍は強かったが、やはり限界があった。

【失敗例3】第2次大戦後、「海洋国家」米国は朝鮮戦争で勝利を収めることができず、またベトナム戦争でも敗れている。

【失敗例4】「大陸国家」旧ソ連は、原子力潜水艦を製造して米国に対抗した。しかし、最終的に、ソ連邦という国家自体が崩壊している。

【失敗例5】21世紀初頭、「海洋国家」米国がアフガニスタンへ派兵したが、20年後の今年、アフガンから撤退せざるを得なかった。

近年、「大陸国家」中国が、空母を建造し「海洋国家」米国の覇権に挑戦している。けれども、その試みは、果たして成功するだろうか。大きな疑問符が付く。

おそらく、マハンの金言には、経済的側面も含まれているのではないか。つまり、得意な軍(「海洋国家」ならば海軍、「大陸国家」ならば、陸軍)ならばともかく、反対の苦手な軍(「海洋国家」ならば陸軍、「大陸国家」ならば海軍)を育てて訓練するには、膨大なコストがかかる。したがって、どんな大国でも優れた海軍・陸軍を同時に持つのは極めて困難なのかもしれない。

八方塞がりの中国経済

2012年秋、習近平政権が誕生して以来、中国経済はほぼ右肩下がりである(図表参照)。

(作成:筆者)

なぜ、中国は経済が停滞しているか。その主な原因は3つある。

第1に、「混合所有制改革」が導入されたからである。ゾンビ、またはゾンビまがいの国有企業を生き延びさせるため、活きの良い民間企業とそれらの国有企業を合併している。これでは、大部分の民間企業が“ゾンビ化”して行くに違いない。

また、これでは「国退民進」(国有経済の縮小と民有経済の増強)ではなく、真逆の「国進民退」(国有経済の増強と民有経済の縮小)という現象が起きる。習近平政権は、中国経済を発展させた鄧小平路線の「改革・開放」を完全否定したのである。

第2に、「第2の文化大革命」が発動されたからである。政治思想(「習近平思想」)が優先され、自由な経済活動が阻害されている。これでは、成長は見込めないだろう。

第3に、「戦狼外交」(対外強硬路線)が展開され、中国は国際社会で多くの敵を作ったからである。そのため、経済的にも八方塞がりの状態となった。

例えば、昨年来、習政権がオーストラリアに対して強硬姿勢を取り、豪州産石炭の禁輸措置を行った。そこで、現在、中国は電力不足に悩まされている。加えて、習近平政権が推し進める「一帯一路」構想は「コロナ禍」で行き詰まった。貸付先の「債務国」の借金が中国へ戻って来ない。中国が借金のカタに相手国の湾岸等を租借しても、すぐに利益は産まない。

中国に味方する国は皆無

いったん「中台戦争」が開始されたら、台湾に味方する国々は多い。新軍事同盟である「AUKUS」(米英豪)、安倍晋三首相が提唱した戦略同盟「Quad」(日米豪印) 、機密情報共有枠組みの「Five Eyes」(米英豪加NZ)等のメンバーは、真っ先に台湾を支援するだろう。

その他、フランスも台湾側に立って「米中戦争」に参戦するのではないか(場合によっては、ドイツも参戦するかもしれない)。

既述の如く、近年に至るまで、習近平政権は対外強硬路線の「戦狼外交」を展開し、“四面楚歌”の状態にある。したがって、中国に味方する国はほとんどないだろう。「親中」のイランやパキスタンが積極的に中国を支援するとは考えにくい。一方、ロシアや北朝鮮は「米中戦争」に関して高みの見物をするのではないか。

したがって、「海洋国家」群の台湾・米国・日本・英国・オーストラリア・カナダ・ニュージーランド・フランス+インドVS. 「大陸国家」中国という図式になる。中国共産党は、苦しい戦いが強いられるだろう。

実は、昨2020年の夏、北戴河会議では「対外的にはソフトな(柔軟な)対応、対内的にはハードな(強硬な)対応」が決定された。それにもかかわらず、依然、北京政府は、「戦狼外交」を継続している。習政権は党内闘争が激しいため、対外的に強硬姿勢を取らざるを得ないのかもしれない。

人民解放軍の問題

たとえ中台だけで戦火を交えても、中国軍が台湾軍に勝利するとは限らない。今年7月、米シンクタンク「プロジェクト2049研究所」研究員のイアン・イーストンは「通常、攻撃側は防御側の3倍の兵力が必要である。台湾はおよそ45万人(予備役を含む)の兵力を持つ。もし地形が不利な場合、攻撃側は5倍以上の兵力が必要となる。そうすると、人民解放軍幹部は台湾へ派遣する兵力は、少なくても約135万人、できれば約225万人欲しいだろう」(「敵対的な港:台湾の港湾と中国解放軍の侵略計画」)と鋭く指摘した。

現在、中国人民解放軍は総数約200万人である。仮に、約135万人の兵力を台湾へ投入したとしても、台湾軍に勝てるかどうかはあやしい。ひょっとすると、中国の周辺国が、その隙を突いて兵を動かすかもしれない。残りの兵力(約65万人)で国内を防衛できるのだろうか。

『孫子』は中国人の行動原理

中国の古典で、最も重要な文献の一つは『孫子』である。これを読めば、中国共産党幹部(人民解放軍幹部を含む)の行動様式が、ある程度わかる。

『孫子』の「敵を知り己を知れば百戦危うからず」は日本人によく知られたフレーズである。ところが、これは孫子の唱える“ベスト”ではない。“ベスト”から遠く離れた“セカンドベスト”である。孫子は決して武力の使用を奨励していない。孫子の唱える“ベスト”は「戦わずして勝つ」である。

そのため、様々な手法で敵を脅すのはもちろんのこと、(1)偽情報を流す、(2)賄賂を送る、(3)スパイを送り込む、(4)ハニートラップを仕掛ける等、あらゆる手段を採る。武力を用いずに敵に勝利する事こそが、孫子の唱えた最高の戦法である。

当然、共産党幹部もこの孫子の兵法を熟知している。また、中国が必ずしも「中台戦争」で勝利するとは限らない。そのため、孫子の哲学に沿った戦法を採るのではないだろうか。したがって、人民解放軍が軽々しく「台湾侵攻」を敢行しないと考える方が自然である。

「台湾侵攻」の模擬演習で6勝48敗

周知の如く、米国は毎年のように、世界中で戦闘を行っている。だが、中国は、1979年の中越国境紛争以後、40年以上、大規模な本格的戦闘を行っていない。だから、実戦経験に乏しい。せいぜい、近年の中印国境紛争ぐらいだろう。これとて、棍棒で殴り合うという原始的な戦いである。

実は、朱日和(内モンゴル自治区にある中国陸軍の総合訓練場)に“台湾総統府街区”の模擬建築物が建造されている。そこで、人民解放軍が「台湾侵攻」の模擬演習を行った。昨年9月、『三立新聞網』の報道によれば、解放軍側が6勝48敗6引き分けと散々な戦績に終わったという。模擬演習でさえ、この有様である。実戦となれば、更に厳しい結果が待ち受けていよう。

「アキレス腱」三峡ダムをミサイルで破壊

現在、揚子江の三峡ダムは、中国のアキレス腱となっている。ダムは湖北省宜昌市に位置する世界最大の水力発電所で、1993年着工、2009年完成した。着工から完成に至るまでの間に、そのダムの寿命がなぜか1000年から100年に短縮されている。完成間際には、10年もてば良いと言われるようになった。

2019年、「Google Earth」では、三峡ダムは歪んでいるように見えた。そこで、ダムはいつ崩落するかわからないと囁かれ始めた。その後、台湾の中央大学研究員が、ダムの防護石陥没を発見している。

中国当局は、長江へ大量の雨水が流れ込むたびに、三峡ダムの崩壊を恐れ、上流の小さなダムを決壊させている。そのため、四川省および重慶市ではしばしば大洪水が起きている。

仮に、「中台戦争」が勃発すれば、台湾はすぐさま射程1500キロメートルの中距離ミサイルで、三峡ダムを狙うに違いない(台湾島から三峡ダムまで約1100キロメートル)。

台湾がミサイルで三峡ダムを破壊すれば、中国経済に決定的ダメージを与えるだろう(ダム下流の経済は中国全体の40%以上を占める)。もしダムが決壊すれば、下流に位置する武漢市、南京市、上海市は壊滅するかもしれない。また、ダム下流の穀物地帯は広範囲に浸水し、ひょっとして、中国は食糧危機に陥るおそれもある。

このようなアキレス腱を抱えたまま、中国共産党が「中台戦争」を敢行するとは考えにくい。

「中台戦争」が勃発する3つのケース

万が一、中国軍が「台湾侵攻」に踏み切る場合、3つのケース(地域)が考えられる(おそらく、中国は3地域いっぺんに攻撃することはないだろう)。

第1に、中国軍が南シナ海の南沙諸島にある太平島・中洲島を攻撃する。この場合、民進党(本土派)の蔡英文政権が、太平島・中洲島を守るのだろうか。一応、台湾が両島を実効支配しているので、とりあえず防衛を試みるかもしれない。

第2に、中国軍が福建省の一部、馬祖・金門を攻撃する。馬祖・金門については、現時点で、「本土派」の蔡政権は死守する公算はある。だが、最終的に、民進党政権は馬祖・金門を中国に明け渡す可能性を捨てきれない。そして、中華民国から馬祖・金門を切り離した後、「台湾共和国」の樹立を目指すというシナリオもあるのではないか。

第3に、中国軍が澎湖島を含む台湾本島を攻撃する。この場合、台湾軍は死に物狂いで郷土を守ろうとするだろう。いくら現代戦はミサイル等のハイテク兵器が勝敗を決すると言っても、最後は”精神力”がモノをいうのではないだろうか。

他方、多くの人民解放軍兵士は自分とは直接関係のない台湾を真剣に「解放」しようと考えていないはずである。大半の兵士は如何に生き延びるかしか関心がないと思われる。

合理的判断ができない共産党トップと偶発的事故

結論として、中国共産党幹部が“合理的判断”をする限り、「台湾侵攻」を決行する可能性は著しく低い。中国の「台湾侵攻」(=「中台戦争」)は即、「米中戦争」となるからである。中国はサイバー戦争・宇宙戦争は別にして、米国との従来型の戦闘・戦争は望んでいないのではないか。

ただし、共産党トップが、“合理的判断”ができない場合、「中台戦争」の勃発する可能性を排除できない。

その他、中台間の偶発的事故(どちらかがミサイルを誤射する、戦闘機が敵機を打ち落とす等)によって、「中台戦争」が勃発する事はあり得るだろう。

澁谷司

© 株式会社飛鳥新社