衆院選:注目区を行く【神奈川9区】〝後継〟に対し〝刺客〟

(左から届け出順に)斉藤温氏、中山展宏氏、笠浩史氏、吉田大成氏

 「前神奈川県知事の松沢成文です。彼は政治活動の同志であります」─。衆院選公示日の19日夕、小田急線新百合ケ丘駅前で、松沢がこう紹介したのは日本維新の会新人の吉田だ。

 松沢はかつて9区選出の衆院議員。民主党(当時)から出馬した2000年衆院選では12万票余りを獲得し、次点の自民候補をほぼダブルスコアで退けるなど強固な地盤を築いた。

 転機は03年。知事選に松沢が出馬し初当選を果たすと、同年の衆院選では後継としてテレビ局記者だった笠が立った。これまでの選挙でも松沢は笠の応援にたびたび駆け付けてきた。

 17年の前回選では希望の党(当時)の結党メンバーとして2人が並んで設立会見に参加。“同志”ぶりを見せていたが、その後松沢は維新、笠は無所属とたもとを分かった。

 関係者を驚かせたのは昨年8月。維新の県組織代表(当時)の松沢は、9区に自身の秘書を務めた元県議・吉田の擁立を発表。笠に対する“刺客”とも映る中、松沢は「笠さんを維新に誘ったけど、自民党入りも取り沙汰され、彼の政治方針はよく分からず一緒にはできないと判断した。前から9区での挑戦を希望していた吉田さんを応援することにした」と説明する。

 笠は今年8月の会見で誘いがあったことを認め「維新が嫌なのではなく、選挙区で自民に絶対勝たなくてはいけない」と強調。9月に立憲民主党に入党した。

 吉田の応援演説では、松沢の元に以前からの支持者が声を掛ける場面も少なくない。一方で笠陣営には松沢票の流出は最小限にとどまるとの見方が強い。

 今月16日の笠の事務所開き。幹部を含め松沢時代からの後援会メンバーが顔を並べた。陣営幹部は「松沢さん時代からの支持者で離れたのはほんの少し。やはりとどめはあの選挙」とつぶやく。松沢は8月の横浜市長選に参院議員を辞職して出馬し、8人中5番目と惨敗。「松沢さんこそ何がしたいのか分からない。今は完全に笠さんの組織だ」と後援会幹部は断言する。

 「今まで4回挑戦し、一度も小選挙区で勝ったことがない。毎回あと一歩で涙を飲んだ。なんとか小選挙区で勝たせてほしい」

 週末でにぎわう23日の新百合ケ丘駅前。自民前職の中山の街頭演説会で選対本部長を務める党県連幹事長の土井隆典は強く訴えた。

 中山は岸田新内閣で国土交通副大臣に就任したことをアピール。党広報本部長の河野太郎、党副総裁の麻生太郎らが応援に入るなど、党のてこ入れが進む。

 自民関係者は「松沢票がどう割れるのかは分からないが、この構図で勝てなきゃもうチャンスはない」と危機感をあおる。

 9区は野党共闘を進める立民と共産党が競合する選挙区でもある。共産県委員長・田母神悟は候補者を取り下げなかった理由を「笠さんと市民連合とで政治的立場が違う」と説明した。新人・斉藤は駅頭や団地などを回り、子育て支援や女性の貧困対策などを訴えている。=敬称略

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