衆院選長崎3区・五島市 因縁の3候補 火花散らす 三者三様「負けられない」

候補者と一緒に気勢を上げる市民=五島市内

 離島5市町を含む衆院選長崎3区。とりわけ長崎県五島市は、自民前職の谷川弥一候補(80)と無所属新人の山田博司候補(51)の出身地。立憲民主新人の山田勝彦候補(42)の父で元農相の正彦氏はここで生まれ育ち、谷川氏とはライバルだった。博司氏は正彦氏の秘書を務めていたこともある。21日には、この因縁の3人が同時に現地に入り、火花を散らした。
 「新しい時代には新しい政治家が必要。もうそろそろ五島を代表する政治家の世代交代が必要ではないでしょうか」。五島港公園で演説した山田勝彦氏は、傘寿で7期目を狙う谷川氏を意識して声を張り上げた。選挙カーにはキャッチフレーズとして「もう変えんば」と記している。
 谷川氏も負けていない。「この異常事態に『もう変えんば』とか抽象的な言葉でいいのでしょうか」。JAごとう本店駐車場で聴衆に向け、傘で雨をしのぎながらこう問い掛け、人口流出など島の課題に継続し対応する必要性を強調した。
 この日、新聞各紙が情勢調査で、勝彦氏との競り合いを報じていた。別の場所では、国境離島新法などの実績を挙げ「五島のため、日本のため仕事をする人が誰なのか。簡単に譲れない。『もう変えんば』という声を押し返してください」と訴えた。
 勝彦氏の父正彦氏とは、初当選した2003年から過去4回の衆院選で激突。うち3回は、敗れたどちらかが比例復活する接戦を演じてきた。
 その地盤を勝彦氏が受け継いだが、離島では父ほどの勢いはない-こうした見方が谷川陣営に一時広がっていた。業界団体幹部は、危機感をにじませた谷川氏の演説を聞いて「安泰という空気があった。もう1度呼び掛けを強める」と表情を引き締めた。
 勝彦氏は父の支持者の後押しも受け、保守層が厚い離島の切り崩しを図っている。「五島の選挙、大変厳しいが、相手の背中が見えてきた。過去の実績を語る政治家よりも新しい五島の未来を語る政治家を」と畳み掛ける勝彦氏。一緒に島を巡った陣営関係者は「雰囲気が変わっている。そこそこいける」と追い上げに手応えを感じていた。
 同じ日、山田博司氏は市内の事務所で出陣式に臨んだ。組織戦を展開する谷川陣営を念頭に「皆さん、いろんなしがらみを断ち切って自分たちの政治を取り戻すんです」と語気を強めた。
 政党同士の攻防とは一線を画し、大きな団体の支援もない。だが、定数1の県議選五島市区で自民候補を5回連続で下してきた。「相手は県議選でも、有名な国会議員を何人も応援に連れてきた。でも全部はね返した」(後援会幹部)との自負は強い。
 かつて正彦氏の秘書だった博司氏。正彦氏の次男が立候補したことに「私が一番嫌いな世襲をやろうとしている」と批判の矛先を向けた。
 一方、勝彦氏は博司氏には目もくれず、「あくまで谷川氏を追う」(陣営幹部)スタンス。陣営は「保守票を博司氏が獲ってくれれば、谷川氏と勝彦の差が縮まる」とそろばんもはじく。谷川氏は街頭演説で「元秘書が(国会議員の息子の)敵に回る-そんな人と仕事ができますか」と暗に博司氏を批判した。
 選挙手法も離島振興策も三者三様。五島市の70代男性は五島から国会議員を代々輩出してきた経緯に触れ、「離島を考えてくれる政治家が地元から出るのは心強い」と指摘。その上で「3区全体での勝敗だけでなく、離島ではお互い負けたくないだろう」と胸中を推し量る。
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 3区には諸派新人、石本啓之氏(52)も立候補している。


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