プリンセス プリンセスの魅力と矜持が詰まったアルバム「HERE WE ARE」  BOØWYと並走した80年代ニッポンのロックバンド

歌謡曲ばかり聴いていた私がハマったプリンセス プリンセス

80年代にアイドルソングや歌謡曲ばかり聴いていた私にとって、ロックバンドは異世界の音楽だった。歌番組で披露されたヒット曲は聴いたが、それ以外の曲には全く興味がわかなかった。だから(ロックの定義はさておき)、サザンオールスターズ、アルフィー、チェッカーズ、Tubeといったランキング番組に名を連ねる人気バンドはヒット曲しか知らなかったし、BOØWY、米米CLUB、バービーボーイズ、THE BLUE HEARTSなどは全く聴く気がしなかった。

そんな歌謡曲の世界に身を置いていた私だが、80年代によく聴いたロックバンドが2つだけある。それは、レベッカとプリンセス プリンセス(以下プリプリ)。ヒットしたシングルやアルバムはもちろん、過去作品にまでさかのぼり、貪るように聴いていた。特にプリプリは、私が社会人になって初めてファンになったバンドで、強い思い入れがある。職場になじめず不安だった私の心を元気づけてくれたからだ。

そのプリプリがブレイクするきっかけを作った初期の名盤が、2枚目のフルアルバム『HERE WE ARE』である。このアルバムからは、プリプリが大衆の心を射止めた魅力と、ガールズバンドとしての矜持が感じられる。

グループの矜持が伝わるアルバムタイトル「HERE WE ARE」

『HERE WE ARE』は、プリプリにとって2枚目のフルアルバム(ミニアルバムを加えると3枚目)。シングルカットされた「MY WILL」、「19 GROWING UP -ode to my buddy-」、「GO AWAY BOY」の3曲が収録され、ロックの中にバラードが配分されたプリプリらしい1枚である。このアルバムからはメンバー5名で全ての作曲・作詞を手掛けるようになり、前作と比べて作品のコンセプトが鮮明になった。歌謡曲っぽいメロディーと心をくすぐる歌詞の楽曲スタイルも確立され、収録曲からは、寂しさ、切なさ、懐かしさ、ユーモアなどの感情が伝わってくる。タイトルの『HERE WE ARE』も、「ここまで到達した私たちの全てを見てほしい」という自信をファンに伝えているかのようだ。

特に、1曲目に置かれた初期プリプリの代表曲ともいえる「19 GROWING UP -ode to my buddy-」には、このアルバムに込めたプリプリの思いが凝縮されていると思う。デビューから紆余曲折はあったが、今この地点から私たちは成長していくという揺るぎない決意の宣言に聴こえるからだ。

この曲をシングルカットしてアルバムと同時発売したことも、さらなる成長に向け第一歩を踏み出したことをアピールしているように私は思う。野心が感じられる。ここに、グループの矜恃を感じるのだ。そして宣言のとおり、ここからプリプリは人気と知名度を獲得していく。

順番と配分が絶妙!アルバム収録曲に垣間見るプリプリの魅力

アルバムに収録された楽曲からは、後年に花開くプリプリの魅力が幾つも垣間見える。先行シングルの3曲目「MY WILL」は、プリプリらしいポジティブソング。サビの部分でMY WILLに重ねて歌われる「いつだって やりたい事 追いかける、追い越すまで」と、2番の「今じゃなきゃ 出来ないこと 手当り次第 やり尽くすの」からは、大ヒットした「Diamonds」の歌詞の原型を感じる。

5曲目の「KEEP ON LOVIN' YOU」、8曲目の「ROMANCIN’ BLUE」、10曲目の「恋のペンディング」は、プリプリらしいミディアムテンポのロックバラード。初めてオリコン1位を獲得した翌年のアルバム『LOVERS』に含まれる「DING DONG」や、後年のシングル「SEVEN YEARS AFTER」を彷彿させるメロディーが、聴いていて心地よい。

7曲目の「SHE」は、これもプリプリの代表曲「M」の系譜にあるバラード。歌詞を丁寧に聴かせる曲がロックの中にさり気なく置かれるのも、プリプリの魅力だ。

これ以外の曲も良いが、何よりアルバムの曲順が練られている。グループの方向性を高らかに宣言した1曲目からロックテイストで始まり、ミディアムテンポのロック、スローバラード、ハードロックと、順番と配分が絶妙なのだ。

プリプリが大衆性を獲得し、果たした役割とは?

今回、私は『HERE WE ARE』を約30年ぶりに聴き直したが、当時の自分が感じたプリプリの原石のような荒々しい魅力とバンドの魂を、再び感じることができた。同時に、私のような歌謡曲リスナーをプリプリが取り込めた理由の一端がわかった気がした。それは、大衆が共感できる要素があること。ポジティブになれるロックサウンド、哀愁を感じるメロディー、女の子の本音を記した歌詞など、大衆の心を射止める力がプリプリの曲に備わっていたように思える。

折しも90年代前半の音楽シーンは、B’zやZARDをはじめとするビーイング系バンドや小室ファミリーが続々とデビューし、急速に人気を高めてゆく。歌謡曲がJ-POPに変わり、ヒットチャート上位をバンドが占め、アイドルソングは冬の時代を迎えた。そうした時代背景を考えると、私のような歌謡曲リスナーに、平成のロックサウンドへの移行を促した役割をプリプリが果たしたように思えてくる。

それにしても、「Diamonds」を初めて聴いた時の衝撃は今も忘れられない。聴いた途端に、これは自分自身への応援歌だと確信したのだから。「あの時感じた気持ちは本物」と思わせる力が、プリプリにはあったのだ。

カタリベ: 松林建

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