巨人ファンの心に刺さる男・亀井 原監督の独特過ぎる〝愛情〟が見えた瞬間

引退試合で原監督(左)と抱擁する亀井(東スポWeb)

【赤坂英一 赤ペン!!】巨人・亀井のスタメン5番が増えた9月半ば、今季限りで引退するのではないかと思っていた。相手予告先発が右投手の試合限定とはいえ、今季は打率2割1~2分台に低迷。もはや、クリーンアップを任せるには荷が重い状態だったからだ。

あとで聞けば案の定、原監督はこのころすでに、亀井本人から引退の意思を伝えられていたという。だからこそ、亀井に一打席でも多くバットを振らせ、現役生活最後の花道を飾らせてやろうとしたのではないか。

1988年から巨人の取材を続けている私から見て、21世紀以降、亀井ほどファンの心に刺さる生え抜きの選手はいなかった。同時にまた、これほど原監督に愛情を注がれた打者もいなかった。ただし、原監督による〝亀ちゃん愛〟の表現は実に独特だった。いまでも覚えているのは2012年5月2日の広島戦。左前打を処理した亀井が本塁送球をそらし、二塁走者の生還を許すと、原監督が激怒したのだ。

「あえて名前を出すが、きょうは亀井。あの守備は信じ難いプレー。どんな言葉で形容していいかわからないぐらい、見苦しい守備だった。亀井は今夜、一晩中寝ないで反省してもらいたい」

このこき下ろしように、私は大いに違和感を覚えた。亀井はもともと右翼を守っていた09年にゴールデン・グラブ賞を受賞したほどの名手。それを原監督が10年の秋季練習から突然三塁にコンバート。さらに11年にはチーム事情から一塁、左翼、中堅、右翼とさまざまなポジションをたらい回しにしている。

そんな使い方をしておいて「見苦しい」とはあんまりだ。と思ったのだが、亀井本人は「反省しないといけないですね」と殊勝にコメント。そして、原監督に翌日もまたスタメンで起用されると、今度は決勝の本塁打である。お立ち台では涙をうるませながら、謝罪の言葉を並べた。

「きのうからミスばっかりですみません。昨夜は寝られなかったです。しっかり反省しました。もっと勝利に貢献して、もっと信頼してもらえるように頑張ります!」

前日のミスを見事に取り返す結果を出して、恨みがましいことなど一言も口にしない。こういう姿が、ファンに支持されてきた理由だろう。

ちなみに、前日に亀井を散々罵倒した原監督は「亀井が大きな仕事をしてくれたね!」。その後は、亀井が打撃不振に陥ると、よく原監督自ら打撃投手や球出し役をやっていたものである。

☆あかさか・えいいち 1963年、広島県出身。法政大卒。日本文藝家協会会員。最近、Yahoo!ニュース公式コメンテーターに就任。コメントに「参考になった」をポチッとお願いします。「最後のクジラ 大洋ホエールズ・田代富雄の野球人生」「プロ野球二軍監督」(講談社)など著作が電子書籍で発売中。「失われた甲子園」(同)が第15回新潮ドキュメント賞ノミネート。他に「すごい!広島カープ」「2番打者論」(PHP研究所)など。

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