十八親和銀行 合併から1年 進む合併効果の地域還元

勤怠管理システムの効率の良さを語る吉川専務=諫早市多良見町、吉川金属商事

 十八親和銀行(長崎市)が合併して1年が経過した。県内全域をカバーする巨大銀行が掲げる目標の一つが「合併効果の地域還元」。県内の貸出金シェアが7割を超し、新たな収益源を求めつつ、同行が持つ人材や情報、ノウハウを地域に生かすための多様なビジネスモデルの今を追った。

◎デジタル化支援 顧客の経営力強化 後押し

 ふくおかフィナンシャルグループのうち、本県で先行スタートしたのが、中小事業者へのデジタル化支援。十八親和銀行の合併前の2019年4月、旧2行の専門部署がともに動きだした。人手不足が深刻な中小企業の悩みを聞き、業務課題の解決に役立つデジタル活用を提案している。
 「収益よりもお客さまの目線で業務の課題が改善され、経営力を付けてもらうのが第1の目的」。デジタル化支援グループの井川浩二部長代理は、融資や金融商品販売など銀行の本業と異なる手法による顧客支援の狙いをこう明かす。他のデジタル化支援事業者と違うのは、サービス提案から導入、従業員への説明、運用確認まで一貫して対応する点。
 これまで909先を訪問。このうち情報提供を含め、314件の課題解決に結び付けた。従業員の勤怠管理や売上、工程管理など、各社の実情に応じたシステムを導入。卸小売りや医療福祉、建設など幅広い。「社内にデジタルに詳しい人も相談する人もいなかった方が多く、どの業種でも満遍なくニーズがあることが分かった」と井川部長代理。
 諫早市多良見町の自動車部品販売業、吉川金属商事は7月、同グループの提案を受け、勤怠管理システムを導入した。従業員が持つスマートフォンに専用アプリを入れ、出退勤時間を入力する仕組み。各従業員の出退勤時間を基に残業時間が把握できる上、有休取得状況も管理者のパソコンで分かる。
 吉川忠宏専務がこれまで毎月、約100人分のタイムカードから給与を計算していた。「不明点を一つ一つ問い合わせして、集計と給与計算ソフトへの入力までに丸1日かかっていたが、このシステムを入れた後は1時間で済む。運用コストは一定かかるが、費用対効果を考えると安い」
 同行でのデジタル化支援の実績が評価され、10月から同グループの福岡、熊本両銀行でもスタート。長崎の“成功モデル”をグループ内に波及させる狙いだ。

◎電子地域通貨 活性化へ試行錯誤

 島原半島の南側、人口約4万4千人の南島原市。高齢化と人口流出に悩む中、経済活性化を目指し、2月から十八親和銀行とともに始めたのが電子地域通貨事業(MINAコイン)。市内限定の電子マネーによるキャッシュレス決済を進め、市内での資金循環拡大と市外からの資金流入を狙う。
 利用者がスマートフォンに専用アプリをダウンロードし、チャージしたお金「1コイン=1円」のMINAコインに変換、市内の加盟店での買い物で支払う流れ。チャージ額の1%がポイントとして付与されるのがメリット。運用開始時のキャンペーンではチャージ額の50%を付与した効果が大きく、ダウンロード数は8月末で1万8400件。同市人口の3分の1超に上り、決済金額は同月末で4億8千万円に達した。
 キャッシュレス決済は、大手のペイペイ(東京)など先行事業者が多いが、同行地域振興部長の艶島博執行役員は「地域経済と地域のコミュニティーを活性化させるのが、他の決済事業者との大きな違い」と説明。MINAコイン事業専属の行員1人が同市役所に常駐し、市と連携して運用や活用策を練っているのも特徴だ。今後、ボランティアなど地域活動に参加した市民にポイントを付与する仕組みなども検討する。
 利用者の受け止めは千差万別。市内のスーパーを利用していた50代女性は「ポイント50%が付いた2月のキャンペーンで使ったけど、チャージするために銀行窓口に行くのが面倒くさい」と漏らす。別の60歳女性は「財布を出さずに、スマートフォンさえあれば買い物ができて便利」とキャッシュレス決済の利点を実感している様子。

MINAコインを使い、スマートフォンで決済する顧客=南島原市北有馬町、パロス

 同市の北有馬ショッピングセンター「パロス」の浦田稔代表理事は「スマートフォンで見ることができるちらしやバーコード付きクーポンなど、お客さんが便利に使える仕組みになれば、もっと市民に浸透するだろう」と注文する。
 加津佐町の中華料理店「華豊」は7月下旬から約1カ月半、MINAコイン決済金額の5%分のポイントを同店独自で利用者に還元。濱龍一郎社長は「市民が期待しているのはポイント付与。(MINAコインが)なくなったら困るという存在まで有効活用する工夫を考えたい」と話す。
 使う楽しみを増やすか、チャージ機の増設など使いやすさを追求するか、市外客の利用促進か-。地域限定の電子マネー定着へ試行錯誤が続いている。南島原市商工振興課の中島英治副参事は「市内の年間総所得の15%に当たる100億円が市外に流出している。その1割でも市内に取り込みたい。MINAコインを使うことで、知らず知らずのうちに地域活性化に参加しているという意識を持ってもらいたい」と期待を込める。
 自治体と金融機関が連携し、地域社会も巻き込んだ経済活性化が実現するか、試金石として注目されている。

◎事業承継・M&A支援 本県経済の下支えへ

 人口減少や造船など基幹産業の低迷などの数多くの課題を抱える本県。経営者の高齢化や後継者不足に伴い、継続を断念する事業者も後を絶たない。事業承継やM&A(合併・買収)支援による地域経済の下支えにも、十八親和銀行の専門チームが旧2行の合併前から歩調を合わせている。
 「旧2行が持つさまざまな情報が共有され、予想以上に情報量が増えたことで、事業者のマッチングなどが進めやすくなった」。ソリューション営業部長の下田義孝執行役員は、合併効果に手応えを感じている。事業承継、M&Aの手法はさまざま。顧客の希望に寄り添い、適切な情報提供や煩雑な手続きを担う。
 長崎市田中町の青果卸売業、長崎大同青果(加藤誠治社長)は昨年12月、同業の長果をグループ会社化した。同社は「全国的に人口減少が進む中、これまで競争していた2社が手を組み、県内の流通を守るための基盤強化と、県内産地の魅力を全国に発信し、販路を拡大するため」と語る。
 経営強化による“攻め”の姿勢をサポートしたのが同営業部。同社は「同じ方向を見て、事業に取り組むため、細やかで丁寧なサポートに徹してくれた。両社の精神的な不安や疑問の解消に努めてくれた」と同営業部の動きをこう評する。
 長崎市中里町の自動車販売業、フリーウェイ(森口稔社長)は今年8月、同市西海町の自動車整備業、木原車体の経営を引き継いだ。バス整備部門への進出を目指していた森口社長と、第三者への承継を検討していた木原車体の方針が合致した。
 両社の意向を把握し、事業の引き継ぎまでの支援も、同営業部を中心に動いた。森口社長は「相手方の状況をはじめ、県のM&A補助金など情報提供が多く、サポートも手厚かった」と振り返る。
 同行が定期的に調査、開示しているモニタリング指標によると、2019年度から20年度までの事業承継支援先数は616先で、前年同期比111先増。22年3月期までの目標700先の達成も見えている。事業承継・M&A支援の手数料収入は年々増加し、「本年度は半年で、昨年度と同程度の手数料収入を確保する見込み」と下田執行役員。新たな収益源として期待が高まっている。


© 株式会社長崎新聞社