カルティエとケリング、持続可能な製造を実現するための時計・ジュエリー業界イニシアティブ立ち上げ

Simon Launay

世界のジュエリー業界でも、SDGs達成を中核に置き、気候変動への適応・緩和を実行する業界へと変革する動きが加速している。ケリングとカルティエはこのほど、責任ある宝飾品業のための協議会と連携し、業界全体が共に3つの目標を達成していくための野心的な取り組み「ウォッチ&ジュエリー・イニシアティブ2030」を立ち上げた。目標は「気候変動レジリエンスの構築」「資源の保全」「インクルージョンの促進」の3つだ。 (翻訳=梅原洋陽)

カルティエのシリル・ヴィニュロン社長兼CEOはイニシアティブについてこう話す。

「時計・ジュエリー業界は、バリューチェーンの中で地球の貴重な資源や世界中の人々の専門知識に依存しているため、より良いインパクトを生み出すために共に行動していくことがかつてないほど求められている。さまざまな企業にこのイニシアティブに参加してもらいたい。すべてのメゾン(ブランド)とそのサプライヤー、ビジネスパートナーが、地球と地球に暮らす人々にポジティブなインパクトをもたらす取り組みを連携して行う力を身につけるという未来に向けたビジョンを今まで以上に共有していく」

グッチやサンローラン、ボッテガ・ヴェネタ、バレンシアガ、アレキサンダー・マックイーンなどを擁するケリングは近年、サステナブル・ラグジュアリーの最前線に立ってきた。2015年には、環境損益計算(EP&L:サプライチェーン全体にわたるCO2排出量、水使用量などの環境負荷を測定し可視化するツール)を開発し、オープン・ソース化した。そして昨年、2025年までに生物多様性への影響をネット・ポジティブにするという目標を達成するための詳細なロードマップを発表した。

ケリングのグループ・マネージング・ディレクターであるジャン・フランソワ・パリュス氏は、「ケリングでは、ラグジュアリーと最高の環境・社会的基準とは切り離せものだと考えている。ラグジュアリー業界をリードする企業として、私たちの地球を守るための変化を率先していくことは企業の責任だ。団結したアクションのみが、この業界をよりよくする唯一の方法だ。時計やジュエリー業界においてもファッションと同様に、いくつかのテーマに絞った定量化された共通の環境目標に一丸となって取り組むことが真のインパクトを与える最善の方法だ。私たちが目指している変化は地球だけでなく、この業界の未来にとっても不可欠」と話す。

今回のイニシアティブは3つの目標に優先的に取り組みながら、定期的な進捗状況の報告を義務化することで透明性を保つことにも強くコミットしている。また、消費者、市民社会、そして規制当局などのステークホルダーからの模範的な環境、社会、そして倫理的な活動への高まる期待に応えるための支援も行なっていく。

3つの目標

目標1:気候変動に対するレジリエンスを高める
2030年までにネット・ゼロを達成するために、1.5℃のシナリオに沿ってCO2排出量を削減していく上で優先順位の高い行動をとっていく。イニシアティブに参加するブランドが行う最低限の行動として、2022年までに科学的根拠に基づくスコープ1、2、3の排出量削減目標をSBTi(Science Based Targets Initiative)に提出する。また、参加企業は時計・ジュエリー業界のバリューチェーンに属する立場の弱い人々を支援し、これらのコミュニティの低炭素化に貢献していることを示す必要がある。

目標2:自然とコミュニティのために資源を保全する
この業界の資源調達が自然界や地域社会にポジティブな影響を与えることを確かにする。2022年までの最低限のコミットメントとして、参加ブランドは信頼できる科学的根拠に基づく枠組みを用いて、主要な原材料の調達先が与える生物多様性と水への影響を測定し、その優先順位をつける必要がある。

さらに、2025年までに水と生物多様性への影響を削減するために、以下のようなアクションプランを実行していくことを掲げている。

自然の生態系と、現地の人々や先住民が恩恵を受ける生態系サービスを保全するための調達基準を設定する。サプライチェーンに、古代林や絶滅の危機に瀕した森林から調達した製品がないことを確かめ、採掘やその他の採集が行われた場所を回復させ、自然生態系のバランスを尊重した採掘・農業に関わる現地コミュニティの生活を発展させることが含まれる。

この業界の素材や製品、習慣において、サステナブル・イノベーションやサーキュラリティ(循環性)に焦点を置いた業界の新たなマインドセットを構築する。

目標3:バリューチェーン全体に包摂性を醸成する
このイニシアティブに参加するブランドは、最低限のコミットメントとして、RJCに参加し、2年後にはCOP(Code of Practices)認証を得る必要がある。これには、2030年までに、一次下請けおよび二次下請けのサプライヤーにCOP認証を取得してもらい、従業員や自然が有害な化学物質にさらされるリスクをなくすこと、ダイバーシティ、公正、インクルージョンに関する活動を強化すること、そして、製造や職場のデジタル化が加速する中で、職人の技術や業界のノウハウの保護や継承に努め、労働者の社会的地位の向上を支援することが必要だ。

責任ある宝飾品業のための協議会とは

RJCは、世界のジュエリー・時計産業の主要な標準化団体(規格の標準化を行う団体)だ。世界71カ国に1500のメンバー企業がおり、その産業は鉱山から小売に至るまでのサプライチェーン全般に及ぶ。RJCメンバーはRJC 実施指針(RJC Code of Practices、RJC COP)を遵守し、それぞれが個別に監査を受けることになっている。RJC COPは、ダイヤモンド、カラーストーン、シルバー、ゴールド、白金族金属の責任ある取引を求める国際基準で、人権、労働者の権利、環境への影響、採掘方法、製品の情報開示、そしてジュエリー・サプライチェーンに関する多数の重要なトピックを扱っている。

RJCと国連グローバル・コンパクト(UNGC)は2020年、世界初の戦略的イニシアティブ「ジュエリー業界におけるSDGイノベーション&インパクト(SDG Innovation & Impact in the Jewellery Industry)」プログラムを開始した。2021年には、RJCはこのコミットメントをさらに加速させている。企業がSDGs 17目標を経営の中核に統合することを推進するために、UNGC のSDGアンビションを支援。ジュエリーと時計のサプライチェーン内のサステナビリティ課題への取り組みを前進させ、進捗状況を基準に沿って評価するための、業界全体のアクションプラトフォーム「SDGタスクフォース」を立ち上げた。

RJCのエグゼクティブ・ディレクターであるアイリス・ヴァン・デル・ヴェーケン氏は「国連の2030アジェンダ(SDGs)は、誰一人取り残さないことを誓っている。ビジネス業界は人、地球、そして私たちを支える自然システムを守るグローバル経済を支持することで、ポジティブな変化と影響を与える力になれる。RJCは変革を生み出すパートナーシップを通じて、ビジネスがその変革への力となることを支援していく。協力し合うことにより、この『行動の10年(Decade of Action)』でSDGsの17目標を達成するために必要な変化を生み出すことに貢献ができ、2030年までにより良い、より公平な世界を創造していくことができるはずだ」と語る。

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