『2リスダウン』ENEOSの速さを読み解く/英語習得に苦戦中、ロッテラーがくれた名句【トムス東條のB型マインド】

 スーパーGTのGT500クラスを始め、国内の各カテゴリーを最前線で戦うトムス。そのチーフエンジニアである東條力氏より、スーパーGTのレース後にコラムを寄稿いただいています。

 第7回となる今回は、スーパーGT第6戦『AUTOPOLIS GT 300km RACE』を分析。さらに、グローバル化時代には必須といえる『英語でのコミュニケーション』について、今回復帰したサッシャ・フェネストラズをはじめ数々の外国人ドライバーと仕事をしてきた東條氏が体験を綴ります。

 このあと国内レースはスーパーフォーミュラ、スーパーGTと連戦となるため、東條氏からは「忙しくなる前に」と早めに原稿が届きました。レース終了後すぐの“速報原稿”なためか、後半、いつにも増してロックにグルーヴする(?)東條節をご堪能ください。

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 オートスポーツweb読者みなさん、こんにちは。トムスレーシングのチーフエンジニア・東條です。

 スーパーGTは2年ぶりにオートポリスサーキットへ帰ってきました。開催直前には阿蘇山中岳の噴火が発生し、イベントの開催を心配する声も聞かれましたが、人的被害やオートポリス近郊に被害がなかったことから予定通り開催され、大勢のファンの皆様にご来場頂くことができました。

 しかし、風下にあたる地域には降灰がみられ、農作物をはじめとした被害があるようです。いまだ噴火警戒レベルは3に引き上げられたままとなっておりまして、いまはただ終息を願うばかりです。

 晴天に恵まれた週末となりましたが、風は冷たくて体感的にはとても寒かったです。両日ともに気温12~14度、路面温度は最低17度/最高27度と、想定していた温度のど真ん中で推移しました。各社持ち込んだタイヤの温度レンジとしては、大きく外すことはなかったと思われます。

 しかし、そこはオートポリスですから一筋縄ではいきません。アグレッシブなコースレイアウトと荒い路面、高地ゆえのダウンフォース不足とエンジンパワー不足があり、タイヤの摩耗やピックアップ(タイヤ表面にゴムやごみが付着すること)に苦しむことになるのです。これを征することがポディウムへの条件です。

 そして、レースはいつものように最少規定周回数(3分の1)を前にしてセーフティカー(SC)が導入され、第2スティントを担当するドライバーたちは、長く苦しい地獄のロードを進むことになったのですが、詳しい様子は後ほどお伝えしますね。

 シーズン終盤を迎え、サッシャがチームへ合流しました。一方で、これまで37号車KeePer TOM’S GR Supraを支えてきた(阪口)晴南がチームを離れることになり、本人にとってもチームにとっても複雑な心境です。しかし、本来の契約に戻るのですから、それは受け入れなければなりません。

 晴南にとっては濃密な5戦となりました。デビューレースでのポールポジションを自ら決め、チャンピオンに届く位置につける大活躍。来季はGT500を一線級のレギュラーでドライブするはずです。たとえどこへ移ったとしても、トムスドライバーとして見守ってあげたいと思います。

 そしてサッシャですが、相変わらず陽気で謙虚で人懐こくて、フランス人にしておくにはもったいないと、改めて感じました。トレーニングは欠かさなかったのでしょう、体型もキープできていました。すぐに順応し、平川(亮)選手とも積極的にコミュニケーションをとりながら、予選Q2とスタートドライバーを務めあげました。

 やや自信がないようなことも私には打ち明けてくれましたが、彼本来のパフォーマンスを発揮したと思っています。次の2戦はさらにパフォーマンスを上げて、チームに貢献してくれるでしょう。

2021スーパーGT第6戦オートポリス KeePer TOM’S GR Supra サッシャ・フェネストラズ

■好走ENEOSのリヤウイング角と3基目のエンジン

 チャンピオン争う36号車au TOM’S GR Supraや1号車STANLEY NSX-GTの高重量車が中段から後方グリッドへ沈む一方で、前戦SUGOで無念のリタイヤを喫した14号車ENEOS X PRIME GR Supraが、予選2番手を獲得する速さを見せました。3基目のエンジンを投入したためレースでは5秒ストップのペナルティがありますから、このポジションからのスタートには、大きな意味があります。

 スタート直後から山下(健太)選手は積極的に突き進んで首位に出ると、2番手以下を大きく引き離すドライビングを披露しました。

 タイミングモニターにはラップタイムや各セクターの通過タイムのほかに、トップスピードが表示されます。14号車は36号車と同じく燃料リストリクターが2ランク絞られていますので、エンジンパワー的には大きく劣るのですが、標準リストリクターを装着する38号車や39号車と最高速度で遜色ないか、もしくはやや有利に推移していました。

 リヤウイング迎角が36号車比で薄かったように見えましたので、動的にも最高速度を狙っていたのかなと考えられる節もあるのですが、3基目のエンジン調整とそれをうまく使えるようなセットアップが相まって、素晴らしいパフォーマンスになったものと考えています。

 しかし、決勝でのペナルティ消化後SCが導入され、GT500の隊列後方でのレースを余儀なくされて以降は、ダウンフォースレベルが単独で走る時よりもグッと下がってしまいますから、苦しいレースを余儀なくされてしまいました。

2021スーパーGT第6戦オートポリス ENEOS X PRIME GR Supra(大嶋和也/山下健太)

 一方、久しぶりに38号車ZENT CERUMO GR Supraが快走し、2位表彰台を確保しました。やはり立川祐路選手には表彰台が似合いますよね! エンジン交換のペナルティを受けてからの追い上げですから、セットアップやタイヤマネージメントがうまく決まったのではないでしょうか。

 我らGRスープラ勢はレース情報を共有しています。今回の14号車や38号車の状況は、次戦以降GRスープラ勢全体のカギになると思われます。

 トムスとしては、36号車、37号車ともに苦しいレースになりました。目標はシリーズを争う1号車と17号車Astemo NSX-GTの前でポイントを得てゴールすること。レース序盤から中盤まではその位置をキープできていたのですが、その後は余力がなく先行を許してしまいました。SUGOに続き惨敗です。

 36号車はサクセスウエイトが重く、タイヤにとっては過負荷状態。一時は17号車の前、7番手あたりをうかがっていたのですが、終盤にグリップを大きく失い10位1ポイント。37号車はエンジン交換のペナルティ消化後、SCによりGT500の隊列後方から。平川選手は長い第2スティントを考慮して終盤まではポイント圏外でタイヤをセーブし、残り10周からスパートをかけて一気に順位を上げて9位でレースを終えています。

 レース全体を見るとNSXが速く、8号車ARTA NSX-GTが危なげなく優勝しました。おめでとうございました。そしてSUGOあたりから、GT-Rが速くなっています。もてぎ・富士とパワーサーキットが続きますから、現状タイトルを争うNSXばかりをマークしていてはいけませんね。

2021スーパーGT第6戦オートポリス au TOM’S GR Supra(関口雄飛/坪井翔)

■「最初は話すのが恥ずかしかった」英語

 さて、サッシャが帰ってきたことから、ピットでは日本語と英語が混在し、賑やかなトムスに戻りました。

 これまで多くの外国人ドライバーとともに仕事をしてきました。メカニックも含めて彼らとの会話は必然的に英語となるのですが、私を含めて苦手です。学のない私ですから、バンド活動とバイトに明け暮れていた高校時代、英語の授業(だけじゃないけどね)は進学希望のご学友の背中を盾に寝ていましたので、当然の報いです。B型だし。

 ディープパープルやイーグルスをエンドレス再生し、AMラジオから流れるFENを聞き流していましたので、“なんとなく雰囲気から伝わる”程度の理解度しかないのに、この業界に入ったらいきなりエンジニアをやれ! ですよ。これには参りました。

 なにせ、対峙する相手はフランス人F1ドライバーのピエール・アンリ・ラファネル選手。ピーちゃんなんて気軽に呼んでいたことが、いまとなっては恥ずかしい思い出です。

 そんなピーちゃんですが、英語の話せない変な奴が来たと思ったのか、コンビを組む関谷(正徳)さんも私と同レベルなのですでに慣れていたのかは知りませんが、とてもゆっくり簡単に話してくれました。

 最初はとにかく話すのが恥ずかしくて、無線でみんなが聞いていると思うと、それはそれは、ねぇ……。分かるでしょ?

 そうこうしているうちに、忘れもしない1994年。インターテックをチャンピオンで締めくくってから、マカオのギアレースへ、トム・クリステンセンとチーム員5人で乗り込むことになりました。

■マカオに行くと寝言も英語になる

 BMWをはじめボクスホール等BTCCワークス勢とのガチンコ勝負。アイツら(あえてそう呼ぶ)、極東のJTCCが速いはずがないから何かインチキしているに違いない目線であらゆるクレームをつけてくる。日に何度も、小出しで。

 その度、これまたきっと奴らのグルに違いない(あえてそう呼ぶ)イギリス人なのかフランス人なのか、FIAのオッちゃんがガンガンに英語でまくし立ててくるので、マシンを規則に合わせるよう修正するのです。

 さらに、夜には香港のエージェントと酒を酌み交わし深夜までインチキ英会話。そんな濃密な1週間が過ぎると、いつの間にか寝言も英語になるから不思議なものです。まぁ1週間くらいで戻りますが……。

 英語を聞き取ることはできるものの、言葉にして発することは苦手な人が日本人には多いのではないでしょうか。アジアの友人の多くは英会話が普通にできますので、日本人の“英語苦”は際立っているように思います。これは学校教育の文法第一主義が実際の会話にそぐわないからではないでしょうか。現在では違うのかもしれませんが、少なくとも私の年代ではきっとそうなのだろうと思います。

 たとえばアンドレ・ロッテラーはドイツ人、ロイック・デュバルはフランス人、ペドロ・デ・ラ・ロサはスペイン人、マルコ・アピチェラはイタリア人、中嶋一貴は日本人です。

 英語が母国語でない彼らにとっても、話すことに慣れていないとそれは難しいよと、ロッテラーが教えてくれたことがありました(彼は幼いころからカートで各国を回っていたこともあり、スペイン語やイタリア語、フランス語も話すことができます)。お互い大学には行っていないし、幼稚園レベルで話していてもチャンピオンが獲れるじゃないか、何も問題ないよと言ってくれたことが心に残っています。

 一番聞き取りやすくて綺麗な英語を話すのは、やはりイギリスの人です。これから英会話を始めるなら、イギリス英語を話せる講師が良いと思います。私はというと、問題ないならそれでいいや的感覚でいますから、いまだにインチキ英語。流暢には話せませんので悪しからず。B型だし。

 あっ! アピチ◯ラが熱中症でダウンして車から降りようとしていたのに「Tired」と「Tire」を聞き間違え、タイヤを替えてドアを閉めたことは永久に秘密です……。

東條氏とアンドレ・ロッテラー(2013年スーパーフォーミュラ)
2004年JGTC第3戦セパン WOODONE トムススープラ(土屋武士/マルコ・アピチェラ) ※写真と本文は関係ありま……す 

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