長岡技術科学大学(新潟県長岡市)で「地域防災実践研究センター」が開所、県では防災ビジネスの拠点化と進展にも期待

地域防災実践研究センター内で、東京電力との共同研究で開発している浄水システムについて解説する長岡技術科学大学の学生

長岡技術科学大学(新潟県長岡市)で27日、地域防災実践研究センターの開所式が行われた。同所は今後、新潟県が推進する防災クラスター形成事業のプラットフォームとして活用され、新潟県の花角英世知事は「防災産業」の形成にも期待を寄せる。

長岡技大ではこれまで、防災に強い地域社会について考える「新潟防災フォーラム」を県とともに開催してきたほか、東京電力ホールディングス株式会社と災害時に活躍する物品や、防災教育に繋がる教材「防災ワクチン®教材」の共同研究・開発などを行ってきた。

こうした取り組みを進める中で、長岡技大は防災に係る様々な研究を産学官の連携で実施するとともに、開発された技術の社会実装に関する実データを取得する場所を整備する「地域防災実践研究センター」の構想を策定。1月27日に新潟県と防災・減災に関する包括連携協定を締結し、準備を進めてきた。

地域防災実践研究センター

開所式の様子

新潟県でも現在、「防災産業クラスター」形成事業に取り組んでおり、27日には開所式につづいて同クラスターのプラットフォーム設立式も開催された。数々の地震や水害、あるいは雪害に悩まされ、そうした災害を乗り越えるノウハウと技術を蓄積してきた新潟県において、防災・減災の知見を企業や研究機関、自治体で連携させることで、同分野の産業をリードしていきたい考えだ。

センターの開所式、およびプラットフォーム設立式で挨拶に立った花角知事は「防災産業の振興は地域にとって重要なことだと考えている。このプラットフォームで産官学の連携体制の強化、そして新しいビジネスプロジェクトに挑戦しやすい環境の構築を目指していきたい」と期待を込める。

また長岡市の磯田達伸市長も「災害は自治体にとって、対応・対処し、備えるべきものであるが、ただひたすら費用とエネルギーを注いで備えるだけではなく、(防災に関する)研究・開発をして、社会に実装され商品にする、あるいは企業化する、という両面でやっていかなくてはいけない」と話した。

長岡技大が東京電力との共同研究を行っている浄水システム(右は展示用に内部が見えるようにしたもの)

浄水システムに内蔵される「バイオキャッチャー®」に微生物が発生し、汚水を浄水する。ヤシを材料としており、使用後は肥料として再利用も可能

設立式後は、センター内で学生や職員がこれまでのプロジェクトを解説する時間が設けられた。長岡技大が東京電力との共同研究を行っている浄水システム「ウォーターチェンジャー®」は、太陽光発電を備えることで、電力に乏しい被災時に、河川や下水などから生活用水を供給する。

生成する水は基本的には飲料用ではなく、シャワーやトイレの水洗などに用いる中水であり、1台で24時間800リットル、およそ4人家族が1日に使用する量を生成可能。長岡技大技術開発センターの岡村祐一客員准教授によると「災害後の補給によって飲料用水は十分な量が確保できることが多いが、手洗いやトイレで用いる水は消費量が多いこともあって不足しがち」であるという。

また災害時の用品は、保管のコストもあって持続的に用意しつづけることは難しく、普段使いできる仕組みづくりが重要になっていく。「ウォーターチェンジャー®」は今後、その浄水効果を生かして、市内の錦鯉の生産者や、道の駅などへも声をかけていくほか、「最終的には、水不足に陥っている海外の諸地域などへ輸出していけたらと考えている」(岡村准教授)という。

近年は、非常食も普段から継続的に消費・購入できるように考え方が変わってきている。また、世界に目を向けた場合は、まさに前述の浄水システムのように「災害」という特殊な場面以外にも技術が役立つ場合が多い。

需要と消費が拡大しつつあり、広がりも多様な「防災業界」。同センターの設置を通じて新潟県がその優位性を獲得できるか注目だ。

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(文・鈴木琢真)

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