BUCK-TICKの記念碑的アルバム「TABOO」そのダークでニューウェーブな世界  BOØWYと並走した80年代ニッポンのロックバンド

奇跡ともいえる存在、バンドブームを牽引したBUCK-TICKの現役感

「今おすすめのバンドはいますか?」と問われれば、私は間髪入れずに「BUCK-TICKです」と答えるだろう。バクチクは今のバンドじゃないって? ダハハハ、御冗談を。たしかにキャリアは長く、昭和末期から平成元年にかけて巻き起こった “バンドブーム” を牽引したバンドの一つであることは間違いない。

だが、BUCK-TICKが凄いのは、それから今日に至るまでの30年以上にわたり、ペースを落とすことなくコンスタントに作品をリリースし続けていることに他ならない。それも毎回コンセプトが大きく変容するアルバムを2、3年に一度は必ず出すという恐るべき現役感。

プロ野球でいえば入団30年目の選手がバリバリにレギュラー張って、なんならタイトル争いまでしてしまうようなものである。門田博光や山本昌だってここまで息は長くなかった。BUCK-TICKは浮き沈みの激しい音楽界において、まさしく奇跡ともいえる存在なのである。

ちなみに去る9月22日には41枚目のシングル「Go-Go B-T TRAIN」を発売したばかりだ。大胆にもバンド名をタイトルにぶち込んだ本曲。MVで楽しそうにタンバリンを叩く “あっちゃん” 櫻井敦司(ボーカル)、まるでジョーカーに魂を売ったかのような今井寿(ギター)の奇抜なルックスを観ているだけで、「ああ、やっぱりB-Tは最高だ!」と嬉しくなってしまう。

世界観を確立した記念碑的アルバム「TABOO」

そんな長い長いキャリアを語るうえで、最初にホームランを打ったのがデビューからわずか1年足らずの1988年だった。アルバム『SEVENTH HEAVEN』がオリコンチャートで3位を記録。当時、BOØWYの影響を受けたバンドがそれこそ雨後の筍のように続々と現れた中で、いち早く商業的な成功を掴んだのがこのBUCK-TICKだった。

一躍してスターの仲間入りを果たしたバンドは更なる進化を求め、一ヶ月間の短期集中ロンドンレコーディングを敢行。そこで産み落とされたのが、今回テーマにあげた4枚目のスタジオアルバム『TABOO』である。

殺人的なスケジュールに忙殺されながらも、まるでそのフラストレーションを内側に閉じ込めたような鬱屈さとスリル感に満ちたこの作品は、その後のバンドの方向性を決定づける記念碑的な一枚となった。

特筆すべきは、その音楽性だ。同郷出身のBOØWYを踏襲した前作までのキャッチーな8ビートロックから、よりダークなニューウェーブへと大胆に転換したことにより、他の誰でもない「BUCK-TICK」ならではの世界観が確立した。

オープニングナンバーはライブの定番にして代表曲「ICONOCLASM」

オープニングを飾る「ICONOCLASM」はまさに象徴的で、弦一本で奏でるギターイントロと、最初から最後まで同じフレーズが延々と続くベースラインは不穏な空気をこれでもかと醸し出す。

メロディなんて俗物は存在せず、ボーカルは呪文のように英詞をつぶやくだけなのだが、このゾクゾクする危うさこそがバンドに通底するイメージそのもの。その意味で、今でもライブの定番である本曲こそが、BUCK-TICKの代表曲だと私は思っている。

ダークな楽曲が並ぶアルバムのラストを飾るのは、一転してキャッチー全開の「JUST ONE MORE KISS」。先にシングルでリリースしてスマッシュヒットを飛ばした本曲は、一見するとアルバムの中で少し浮いているように感じるかもしれない。

だが、「届かない」「返らない」、そして「I want you to kill me」と退廃的なフレーズが連発する歌詞に注目すれば、華やかなこの曲も実はそれまでの9曲と同一線上にあることが理解できる。ダークとキャッチーの両立は、BUCK-TICK最大の発明といえよう。

ちなみにこの2曲は後のヒット曲「悪の華」と共に、1992年リリースのセルフカバーアルバム『殺シノ調べ This is NOT Greatest Hits』にて装いも新たにリメイクされている。結成からわずか数年にしてスターダムに駆け上がった経験値不足のために、’80年代の作品では歌唱力、演奏力にやや不安定な面があったのも確かだが、こちらでは別人のように手練れたパフォーマンスに変貌しており、聴き比べると彼らの進化に驚愕させられるだろう。

止まらない進化、アルバムごとに全く違ったサウンド

バンドブームの終焉と共に消えていったバンドも多い中で、BUCK-TICKは進化を止めず、常に新しい試行を続けてきた。ダーク・ニューウェイブの発明で新境地を開いた『TABOO』は言うまでもなく、本格的にシンセサイザーを多用した傑作『狂った太陽』(1991年)、売れ線を放棄したようにグランジに突き進んだ怪作『Six / Nine』(1995年)、ミクスチャーに傾倒した攻撃性の強い『Mona Lisa OVERDRIVE』(2003年)、ビジュアル系的ゴシックを極めた『十三階は月光』(2005年)、バンドの集大成であり傑作とも名高い『memento mori』(2009年)等々、本当は全作紹介したいところだが、2000文字を超えたので泣く泣く割愛させて頂く。

アルバムごとに全く違ったサウンドを聴かせてくれるだけでも凄いのに、それを30年以上も同じメンバーで途切れなく続けているモンスターバンドBUCK-TICK。主要サブスクでは全曲配信中。ご無沙汰の方も、ご新規の方も、ぜひその多彩な世界に触れてみては如何だろうか。

カタリベ: 広瀬いくと

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