オリックス3度の優勝見届けた用具担当 甲子園Vドラ1も僅か1勝…裏方で支えた33年間

オリックスの用具担当を務める松本正志氏【写真提供:オリックス・バファローズ】

阪急時代の1988年から用具担当を務める松本正志氏はドラフト1位入団もわずか1勝で現役引退

オリックスの25年ぶりのリーグ優勝を陰で支え続けた男がいる。阪急時代の1988年から用具担当を務める松本正志氏だ。62歳となった現在もチームの用具、選手の道具の手配、練習前の準備など汗を流す。

東洋大姫路高ではエース左腕として1977年の夏に全国制覇。同年秋のドラフトでは1位指名を受け阪急に入団した。高卒1年目で1軍デビューを飾ると日本シリーズにも登板し日米野球にも出場。順風満帆なスタートを切ったが、その後は苦しいプロ生活だった。

様々な指導者から投球フォームの指導を受け「全て真に受けて取り入れたら自分の投げ方を忘れてしまった」と、思うように成績を伸ばせず出場機会は減少し1987年に現役を引退。甲子園優勝投手、ドラフト1位と大きな期待を込められたが、プロ通算は32試合に登板し1勝3敗、防御率6.83だった。

引退した翌88年から阪急の用具担当となりここまで33年間、裏方としてチームを支えている。球団からは用具担当以外の持ち場を何度か提案されたが固辞。引退当時は同期入団の活躍に複雑な思いもあったが「やっぱり野球が好き。野球しかやってこなかった人間なのでね。体が動く限り恩返しをしたい」と間近で選手たちを支える道を選んだ。

オリックスの用具担当を務める松本正志氏【写真提供:オリックス・バファローズ】

「選手たちが本当に野球を楽しんでいる。真面目な子ばかりでチームワークもいい」

裏方として優勝を見届けたのは1995、96年のリーグ連覇を含め3度目。黄金時代だった当時は仰木彬監督の元、イチロー、田口壮ら若手が躍動しベテランの福良淳一(現GM)、中嶋聡(現監督)らがチームをまとめていたが「今のチームも似たところを感じますね」と語る。

明るい雰囲気、長所を生かす指導法、そして若手とベテランの融合……。猫の目打線、レギュラーを固めず選手を起用し勝利を重ねた“仰木マジック”と現在の中嶋オリックスを比べ「選手たちが本当に野球を楽しんでいる。真面目な子ばかりでチームワークもいい。個々がやるべきことを分かっていると思いますよ」と目を細める。

黄金時代の再来にも期待を込めている。山本由伸、吉田正尚と日本を代表する投打の2人が君臨するチームに「実力もそうですが、人間的にも素晴らしい2人。どれだけ成績を残しても変わることはない。いい流れをチームに残してくれると思う」と確信している。

プロとしては成績を残せなかったが、体が動く限り職務を全うするつもりだ。「私もこの仕事をいつまで出来るか分からない。今はコロナ禍で厳しいがもう1度、家内を優勝旅行に連れて行ってあげたい。来年も強いチームを見ていたい、それが夢ですね」と連覇に期待している。(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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