妊娠後期に入ってからよくイライラして情緒が不安定……。それは妊婦さんの多くが経験することです。後期は誰でもイライラしやすい時期。その理由やイライラへの対処法をお伝えします。少しでもストレスを減らして出産に備えましょう。
この記事の監修ドクター
産婦人科専門医 直林奈月 先生
Bene浅草レディース健診クリニック(東京都台東区)センター長。高知医科大学卒業後、太田⻄ノ内病院、高知大学医学部附属病院、船橋二和病院、赤心堂病院産婦人科を経て現職。
産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科内視鏡学会腹腔鏡技術認定医、母体保護法指定医師、女性ヘルスケアアドバイザー。
妊娠後期でイライラする! なぜ起こる?

妊娠後期にイライラする原因には、次のような理由が考えられます。
ホルモンの変化
妊娠すると、ホルモン分泌に大きな変化があります。女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンは妊娠前よりずっと多い量が分泌され、その量は妊娠中ずっと増加を続けます。こうしたホルモン分泌の変化によって、脳のストレスに対処する力が弱くなり、物事をいつも以上に悪く捉えるようになることがあります[*1]。
また、ストレスホルモンと呼ばれ、ストレスがある状態で増加する「コルチゾール」も妊娠が進むに連れて血中濃度が上昇することがわかっています[*2]。
妊娠による変化などへのストレス
妊娠後期に入ると、お腹が目立って大きくなります。すると前にかがみにくくなるだけでなく、足元も見えづらくなって動きにくくなります。それに伴い、家事や日常の動作がとりづらくなり、今までより時間がかかってしまうことも。
さらにお腹に圧迫されて寝苦しくなったり、頻尿になって夜間何度も起きたりして、睡眠不足になりがちです。胃が圧迫されることで一度に少ししか食べられなくなることも。逆流性食道炎や腰痛など後期に起こりがちな体のトラブルもあります。こうした変化もイライラを引き起こす原因と考えられます。
出産や産後への不安
出産が近づくと、無事に出産できるのか、産後の育児は大丈夫なのかという不安がつのるもの。それによって気持ちが高ぶってしまったり、よく眠れなくなったりすることがイライラにつながる可能性もあります。
起こって当然!なんとか乗り切ろう
これだけ原因があるのですから、妊娠後期にイライラしても当たり前。イライラする自分を責めないでください。
出産を終えると、今度は育児でイライラすることがたくさんあります。そのときの練習として、自身の気持ちと向き合い、自分をなだめる方法を妊娠中から見つけられると良いですね。この記事の後半で簡単にできるイライラへの対処法も紹介するので、参考にしてみてください。
妊娠後期のイライラ、情緒不安定の特徴は?

妊娠後期のイライラ、情緒不安定には何か特徴があるのでしょうか。
すぐ怒る、気分が変わりやすいなどさまざま
イライラや情緒不安定の現れ方もさまざまです。瞬間沸騰してすぐ怒ってしまうこともあれば、イライラした後すぐに落ち込むなど、気分が変わりやすい状態になることもあります。
<体験談>妊娠後期はイライラがすごかった!対処法も
妊娠後期にイライラで悩まされたことはありますか?
些細なことでイライラした
(26歳/電機/技術職)
何か言われることに対して腹が立った
(26歳/機械・精密機器/事務系専門職)
体の自由がきかないことに対してイライラした
(34歳/医薬品・化粧品/事務系専門職)
妊娠中なのに、旦那がお構いなしに飲みに行って午前様だったのでイライラした。こちらは飲みたくても飲めないのにとぶつけた
(33歳/設・土木/事務系専門職)
身体がしんどくて、上の子の相手もできず、旦那も仕事疲れでみんなが嫌な思いをしてしまった
(34歳/金融・証券/秘書・アシスタント職)
切迫早産だったので、いつ出てくるかという不安にイライラしました
(35歳/金融・証券/専門職)
つわりが酷く食事が取れなかった初期、やっと食べられるようになったのに、後期は圧迫がひどくまた食べられなくなり、でも栄養は取らないとと葛藤したりでイライラしました
(37歳/商社・卸/秘書・アシスタント職)
後期には足の爪が切れない、靴下がはきづらいなどイライラ続きでした
(40歳以上/小売店/販売職・サービス系)
妊娠後期のイライラへの対処法
お散歩をしてストレス解消をする
(29歳/電機/事務系専門職)
お笑いのDVDを見て気分を紛らわせた
(30歳/小売店/販売職・サービス系)
家事などを夫に手伝ってもらった
(33歳/学校・教育関連/事務系専門職)
休日は一人の時間を作ってリフレッシュした
(30歳/団体・公益法人・官公庁/事務系専門職)
上の子を時々実家に預かってもらった
(39歳/金属・鉄鋼・化学/技術職)
イライラする時はクラシック音楽を聴きました
(34歳/金融・証券/専門職)
お腹が大きく寝返りが打てなかったり、つわりがぶりかえして寝不足でイライラがつのりました。こまめに寝たり、座椅子で寝ると眠りやすかったです
(38歳/その他)
夫は仕事が多忙で、実家も遠方なので頼れる人が居なかった。育児家事は適当でした!
(38歳/その他)
知り合いの人に話を聞いてもらうようにした
(26歳/運輸・倉庫/技術職)
イライラした時は何もしたくなくなるので何もしないで夫に任せていた
(28歳/金融・証券/秘書・アシスタント職)
妊娠後期のイライラはいつまで続くの?

イライラして不安定な状況はいつまで続くのかも気になりますね。
徐々に治まることも
ホルモン分泌の変化や体の状態が大きく変わったことにある程度慣れることで、徐々にイライラが治まっていく人もいるでしょう。
産後うつにつながる人も
一方で、イライラや情緒不安定な状態が続いている場合、実は「うつ病」が原因になっていることもあります。「産後うつ病」はよく聞くと思いますが、実は妊娠中、とくに初期と後期もうつ病になりやすい時期なのです。そして、妊娠中にうつ病になると、産後うつ病になることも多いと言われています。
以上のような症状がいくつかある場合は、メンタルヘルスの専門家の手を借りる必要があるかもしれません。まずは妊婦健診で相談してみましょう。必要に応じて相談に乗ってくれるはずです。
妊娠後期のイライラによる影響は?赤ちゃんは大丈夫?
妊娠中にイライラしていると、お腹の赤ちゃんに影響しないかも心配になりますね。
あまり心配し過ぎないで

強いストレスは早産や出生時低体重のリスクを高めることがわかっていますが、それはパートナーからの暴力や自然災害によって、ママ自身が危険にさらされる状態が継続した場合。
多少のイライラする程度なら、赤ちゃんへの影響は心配しなくて大丈夫です。
まずは自身の状態を立て直すのが大事
妊娠中は赤ちゃんのことを一番に考えたい、という気持ちもあると思いますが、まずはママの気持ちを立て直すことを優先しましょう。
もちろん、飲酒や喫煙はできませんが、自身のストレスと向き合って、イライラを少しでも減らせる方法を工夫して探してみることが大切です。
妊娠後期のイライラへの対処法

妊娠後期にイライラするのは仕方がないこと。でもイライラしすぎて家族や周囲にあたってしまうのは問題ですね。ママ自身もかえって辛くなってしまいます。そこで、まずはすぐにできるイライラ対策を紹介します。
1秒で心を落ち着かせる方法4つ!
イラッとしたとき、すぐに気持ちを鎮めたい! そんなときは次の4つの方法を試してみてください[*3]。
・肩を1cm下げる
嫌なことがあると、体も反応して肩に力が入っていることがあります。まず肩を1cm下げるようにすると、力が抜けてラクになります。一度肩をあげて止めてから、ストンと落とすのもいいですね。
・息を「はぁーっ」と吐く
緊張状態になると呼吸が浅くなってしまうことも。息を大きく「はぁーっ」と吐くだけでも気持ちは多少落ち着きます。
・早食いになっていたら最初の一口を味わって食べる
早食いは消化に悪いですし、せっかくの食事を味わって食べないのはもったいないですね。最初の一口だけでも味わって食べると、その後も味や香りを感じやすくなり、満足感が生まれます。
・少し顔をあげて歩く
考え事をしながら歩いていると、うつむきがちに。すると姿勢も悪くなりますし、眉間にシワまでよっているかも。少し顔をあげると、その日の空模様や景色、季節のうつろいに目がとまり、気分も少しよくなるのではないでしょうか。
普段から心がけたいこと
イライラ対策として、日頃から次のことを心がけるのもおすすめです。
経過が順調であれば運動する
運動にはストレスを解消してイライラを吹き飛ばす効果も。経過が順調で健康な妊婦さんであれば、軽い運動をすることが勧められています。マタニティヨガやマタニティスイミング、マタニティビクスで体を動かすのもいいですね。切迫早産や妊娠高血圧症候群などで安静が必要な場合は、かかりつけ医の指示に従ってください。
規則正しい生活をする
ホルモンバランスを整えるためにも、できるだけ規則正しい生活を。もし不規則になっていたら、まず朝決まった時間に起きることから始めましょう。そして寝る時間、食事の時間も毎日できるだけ同じになるようにしてみましょう。
とりあえず笑う
楽しくなくても意識して笑うと、リラックスするのに役立つと言われています。口角をあげて笑顔を作り、できれば声も出して笑ってみましょう。何もない状況で笑うのが難しければ、おもしろい動画を見たり漫画を読んだりして、笑える機会を意識して増やしてみましょう。
瞑想をする
瞑想は医学的にもリラックス効果が認められていて、効果的なストレス解消法とされています。色々なやり方があるので、まず仕事中の気分転換向けなど、短時間のものを試してみましょう。
好きなものリストを作る
集中して好きな本を読んだり、映画やドラマを見たり、好きな音楽を聴くのはリラックスするのに役立ちます。他に、手芸やペットの世話、料理などで癒される人もいるでしょう。
ただイライラの真っ最中に気分転換しようと考えても、ひとつ何か浮かんでは「今、そんな気分じゃない……」となりがち。あらかじめ自分がリラックスできる行動のリストを作っておいて、イライラしたときやりたいと思えることがすぐ見つかるようにしておくといいですね。
一人で抱え込まず早めに相談する
イライラの原因がはっきりわかっているときは、気持ちが爆発する前に早めに誰かに相談しましょう。例えば義理の家族のことならパパに、仕事のことなら職場の信頼できる人に。自身の体調やメンタル、子育ての不安などは妊婦健診でも相談できます。
自分にご褒美をあげる
妊娠後期は赤ちゃんが急速に成長し、出産が近づいてくる大変な時期です。そんな時期を毎日がんばって過ごしている自分に優しくして、ご褒美をあげましょう。物だけでなく、ただゆっくり休むこともご褒美です。「〇〇しなくては」という気持ちは一度置いておいて、「今はがんばらないとき」と考えて。
「こうでなくてはいけない」という物事の考え方もいったん見直し、考え方、受け止め方をできるだけ柔軟にできると、自分を肯定する・いたわる気持ちが生まれてくるかもしれません。
パートナーが気を付けること

妊娠中に情緒不安定になるのは誰にでも起こる普通のこと。だからといって、放置は厳禁です。パパはそっとしておくことで時間が解決したと思っていても、ママの中では「あのとき何もしてくれなかった……」と禍根が残ってしまうかも。ただちに向き合ってサポートする必要があります。まずできるのは「話を聞く」こと。それもただ聞き流すのではなく、よく聞いて状況を理解し、共感を示して気持ちに寄り添うようにしましょう。
このとき、「がんばれ」といった励ましはかえってママを追い詰めることがあります。言ってはいけない言葉があることも覚えておいてください。逆に「そうだね」という言葉は「気持ちを受け止めた」という印象を与えるので、コミュニケーションをスムーズにしてくれます。会話の最初に積極的に使ってみてください。
共感の言葉がけは難しいかもしれませんが、産後の子育てでも大切なことです。まずはママの話をよく聞いて、相手の気持ちに寄り添うことから始めましょう。話すほかにも、「上の子のお世話や家事を引き受ける」「パパ方の家族の窓口になる」など、率先して担当していきましょう。
うつ病のサインが見られたら早めに専門家に相談して
なお、単なるイライラではなくうつ状態になると、メンタルヘルスの専門家の助けも必要です。本人は気づけないかもしれないので、「いつもぼんやりしている」「何でもないことで涙ぐむ」「自殺や虐待をほのめかす」などのサインが見られたら、できるだけ早く専門家に相談してください。
仕事場への相談は母健連絡カードで
医師や助産師から、事業主に女性労働者への指示事項を伝達するツールとして「母健連絡カード」(母性健康管理指導事項連絡カード)があります。母健連絡カードの内容には、体調面だけでなく「妊娠中・産後の不安・不眠・落ち着かないなど」という精神的な項目もあります。
妊娠中のメンタル不調で仕事に支障が出そうと不安なときは、まず医師に相談したうえで、このカード利用して職場に相談することも検討してください。
まとめ

妊娠後期にイライラするのはよくあることで、その原因も複数考えられます。精神的な問題なので、何かこれをしたらすぐ改善するという方法はなかなかありませんが、試してみてほしい対処法はここで解説したようにたくさんあります。考え方や生活習慣など、ちょっとしたことを変えるだけでぐんとラクになることもあるので、まずはいくつか試しながら自分に合った方法を見つけてみてください。制限されることに目を向けるよりも、あと少ししかない赤ちゃんがお腹にいる生活をできるだけ楽しみながら、イライラと上手につきあっていきましょう。
(文:佐藤華奈子/監修:直林奈月 先生)
※画像はイメージです
参考文献
[*1]厚生労働省「e-ヘルスネット 妊娠・出産に伴ううつ病の症状と治療」