甲子園のヒーローがついに覚醒 楽天・安樂智大が開拓した新たな投球スタイルとは?

楽天・安樂智大【写真:荒川祐史】

入団6年目の昨年リリーフに本格転向、今季は58試合に登板

かつての甲子園のヒーローが、プロの舞台で本領を発揮しつつある。楽天の安樂智大投手が開幕から安定した投球を見せ、セットアッパーに定着。最速で150キロ台後半に達する快速球が武器だった愛媛・済美高時代とは異なり、140キロ台後半の速球に複数の変化球を交えながら、投球術を生かして三振を奪う新境地を開拓した。

楽天・安樂智大の年度別成績【画像:(C)PLM】

安樂は2014年ドラフト会議で楽天とヤクルトから1位指名を受け抽選の結果、楽天に入団。2015年10月5日のソフトバンク戦で先発し、6回無失点でプロ初登板初勝利をマーク。2年目の2016年には主に先発として15試合に登板し、84回1/3を投げて防御率3.42と、高いポテンシャルを早くも発揮していた。このまま順風満帆なキャリアを送るかと思われたが、3年目の2017年は故障もあって10試合登板にとどまり、防御率4.06で1勝5敗。2018年は2試合登板で防御率10.13、2019年も1軍登板は9試合のみだった。

転機となったのは2020年にリリーフへ本格転向したことだった。この年は中継ぎとして開幕1軍入りを果たし、時にはロングリリーフも務めながら奮闘。9月8日時点で防御率2.30と安定した投球を見せた。9月に防御率5.87と崩れて年間防御率は3.48だったが、1軍定着への足がかりをつくった。今年もフル回転の活躍は続き、防御率2.08と前年以上の安定感を発揮。自身最多の58試合登板で、3勝3敗2ホールドをマークした。今月上旬には一時的にクローザーも任されて2セーブを挙げた。

楽天・安樂智大の年度別指標【画像:(C)PLM】

2015年から2017年までの奪三振率は3年続けて6点台と、先発時代は奪三振が多いタイプではなかった。しかし、リリーフ転向後の2020年は奪三振率8.71と大きく向上、今季も7.99を記録している。この2年間の与四球率は4.94、5.27と悪化傾向にあり、WHIP(投球回あたりの与四球、被安打数合計)も1.32、1.38と走者を出さずに抑えるタイプではない傾向が見て取れる。それでも安定した投球を見せている理由は.218、.225と、以前に比べて改善された被打率にあるようだ。

楽天・安樂智大の2016年結果球割合【画像:(C)PLM】

昨季からチェンジアップを決め球に多投、ブレークの要因に

2016年と2020年以降の結果球の割合を見ていきたい。2016年はストレートとスライダーを決め球に多く用い、緩急をつけるカーブと現在では使っていないフォークを交えていた。速球は140キロ台と現在とほぼ変わらなかった。

楽天・安樂智大の2020年結果球割合【画像:(C)PLM】

2020年はフォークをレパートリーから外し、以前は投じていなかったチェンジアップを決め球として多投するように。かつては結果球の割合が30%を超えていたスライダーも12%にとどまっており、投球スタイルそのものを大きく変化させたことがうかがえる。

楽天・安樂智大の2021年結果球割合【画像:(C)PLM】

今年はカーブの割合がさらに減少し、昨年の4.6%から0.4%に。スライダーの割合が12.2%から20.5%に増加した。チェンジアップの割合は38.9%から37.6%とほぼ横ばいだが、ストレートも44.3%から41.5%とやや減少している。結果球として反映された球種が、より信頼できる3つの球種(ストレート、スライダー、チェンジアップ)に絞られていることが投球の安定性向上に寄与している面はありそうだ。

安樂について語るうえで、高校時代の投球数を避けては通れないだろう。愛媛・済美高2年時の2013年選抜高校野球大会で準優勝。1大会で772球を投げことで賛否を呼んだ。高校時代に甲子園で155キロの速球を投じたが、現在は140キロ後半の速球を投球の軸としている。エースの連投は今なお難しい問題としてその是非を問われている。一方で松坂大輔投手、田中将大投手のように高校時代に甲子園で多くの球数を投じ、プロ入り後に新人王のタイトルを獲得する活躍を見せ、その後も息の長い現役生活を送る投手もいる。安樂も高校時代、プロ入り後に故障に苦しんだ時期もあったが、プロ7年目でブレークを果たしつつある点は明るい兆しといえそうだ。(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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