来年の中国経済は低成長を覚悟か、当局の不動産投資抑制政策が当面続くと読む理由

足元で中国経済の大きな下押し圧力となっている不動産投資の鈍化ですが、来年も続く可能性が高いと考えます。不動産投資の抑制方針の背景を解説したうえで、来年の中国経済を展望します。

(写真:ロイター/アフロ)


7~9月期の中国経済は前期比成長率わずか+0.2%

7~9月期の中国経済は、行動制限、不動産投資の鈍化、電力不足といった多くの下押し圧力を受けました。広範に経済活動が鈍化し、7-9月期の実質GDP成長率は前年比で+4.9%、前期比では+0.2%となりました。コロナ禍前には概ね前年比では+6%程度、前期比でも+1.5%程度の成長率であったことを鑑みると、かなり低い成長率であったと言えます。

内訳をみると、目を引くのが不動産業および建設業のマイナス成長です。当局が不動産投資の抑制を進める中、不動産デベロッパーの活動が鈍化しているとみられ、GDP比約14%を占めるセクターの活動鈍化が中国経済に大きな重荷となりました。このほか、半導体不足、電力不足の影響を受け、自動車製造業を中心に生産が減少していることやサービス消費の抑制が響きました。

中国経済には依然として下押し圧力が掛かっている

筆者は、前回の記事にて中国経済の先行きに明るい材料があまりないことに触れましたが、残念ながらその状況は変わっていません。引き続き中国経済には、不動産投資の鈍化と電力・部品の供給不足という大きな下押し圧力が掛かっています。加えて足元では国内での感染再拡大の兆候がみられ、行動制限措置が導入される懸念もあります。総じてみると広範な分野に下押し圧力が掛かる状態が続いていると言えます。

こうした下押し圧力の内、電力不足および部品の供給不足については最悪期を過ぎたとの見方もあり、時間の経過と共に状況は改善していくものと考えています。また、感染が再拡大しても、他国と比べて迅速かつ強力な行動制限措置を採れることから、これらの下押し圧力が続く期間は短期的なものになると考えます。

一方で、不動産投資の鈍化は、当局主導の動きであり、政策スタンスが大きく転換されない限り、当面続く見通しです。

不動産関連の政策支援が見込めない3つの理由

過去の景気悪化局面では、不動産は景気刺激のツールとして用いられてきました。しかし、筆者は今次局面においては、次の3つの理由から、当局が不動産政策の厳格スタンスを大きく転換することは期待しづらいと考えています。

まず、当局が不動産デベロッパーの慢性的なレバレッジ体質をリスク視していることが挙げられます。不動産投資が鈍化したきっかけは、当局が不動産デベロッパーへの財務改善目標を設定したことでした。不動産デベロッパーの負債は76.2兆元(名目GDP比約77%、2019年時点)と巨額で、過去のデレバレッジ政策下でも積み上がっていました。

こうした状況を当局がリスク視したことがデベロッパーへの財務目標設定の背景の1つと見られます。従って、デベロッパーのデレバレッジに明確な進捗がみられるまで、現行の厳格な不動産政策スタンスは続く可能性が高いと言えます。

続いて、当局が新たに設定した14次5カ年計画と2035年までの長期目標において、製造業の高付加価値化・内製化と内需拡大の促進が柱となっていることが挙げられます。これは、当局が人口減少に転じることも視野に、これまで中国経済をけん引してきた外需と投資主導の成長モデルからの脱却を図っているものと考えられます。

成長モデルの転換という大きな目標の下、当局は不動産政策を厳格化する一方でハイテク製造業を中心とした製造業の設備投資優遇を行い、投資資金の誘導を図っている可能性があります。従って、現在の不動産投資の鈍化は、景気への悪影響はさておき、傾向としては好ましいものと考えられます。支援対象となっているハイテク製造業の投資は、例えば通信機器・コンピューターの製造業では1~9月に前年比+24.4%と、不動産投資とは対照に堅調で、こうした流れは当局が長期目標を大きく変えない限り続くものとみられます。

最後に、習近平氏が主張する共同富裕の思想と不動産政策厳格化の相性の良さも指摘できます。この思想は脱貧困を達成したことで、今後は皆が平等に豊かになる社会を目指すというもので、社会主義色の強い思想といえます。この思想の実現に向け、当局は富の再分配強化を表明しています。

北京や上海、深センなどの大都市では、算出方法でブレますが、住宅価格は年収の20~30倍を超えるとの試算もあり、富の象徴と目される不動産に対する政策スタンスの緩和は見込みにくい状況といえます。

まとめると、不動産投資への厳格な政策スタンスには、(1)債務リスクの予防、(2)政策支援対象の変化、(3)格差是正、という3つの側面があるとみられます。これらがそれぞれ長期的な発展目標と共同富裕の思想に絡んだ内容であるため、主導する習近平氏の権力基盤が揺るがない限り、現行の不動産政策は大きくは変わらず、不動産投資の鈍化が続く可能性が高いでしょう。

来年の中国経済は低成長を覚悟する必要がある

不動産業および建築業は巨大な産業で、このセクターの活動鈍化は当然ながら成長率を押し下げます。また、不動産投資の鈍化は、単に投資が減るというだけではなく、鉄鋼を中心とした建材需要の減少へつながるほか、関連雇用や消費の減少、果ては財政懸念といった悪影響の拡大も懸念されます。

こうした中で、筆者は来年の中国経済の成長率が5%を下回ってもおかしくはないと考えています。足元、当局は景気の悪化に配慮して不動産政策をやや緩和方向へ微調整しました。しかし、原則として不動産投資の抑制を目指す方針は変わっておらず、来年の中国経済には非常に強い下押し圧力が掛かる見通しです。

<文:エコノミスト 須賀田進成>

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