Vol.63 ボイシネウォークの体験を通して考える制作課題[土持幸三の映像制作101]

久しぶりの執筆だが、コロナ禍でもありがたいことに映像制作で忙しく過ごさせていただいていた。筆者はここ数年、NECの独自技術、空間認識技術を使ったサウンドアトラクションであるボイシネウォーク用の映像制作を行っているが、同じ制作会社で制作したホラー作品「ヒトガタの村」が好評とのことで、プロデューサー、脚本と演出を担当した高橋監督と客目線で体験する機会があった。

体験できるのは、海水浴場で有名な茨城県大洗町。主催するのは大洗観光おもてなし推進協議会で、大洗サンビーチなどに遊びに来るお客さんに街中も楽しんでもらえる新たな地域観光モデルを目指しているとのこと。東京駅から約1時間半で自然に囲まれた鹿島臨海鉄道の大洗駅に着く。駅の隣にある、「うみまちテラス」が「ヒトガタの村」の体験受付で、ここで料金を支払い、マップと専用端末(スマホ)、イヤホンを貸り、このサウンドアトラクションを楽しむ仕組みだ。

「うみまちテラス」スタッフの方々が「ヒトガタの村」ポスターやチラシ作成に加えて紹介動画をYoTubeにアップしたとのこと。その甲斐あってか、夏休み期間はにぎわっていたそうだ。今回の体験は制作時に意図したことを客が感じられるようになっているか、専用端末で映像がどのように表示されるかを確認することが大きかったのだが、大洗では専用端末等を貸し借りする場所からすでにホラーの世界観をつくりだしており、それによってこれから体験するアトラクションも大いに期待が持てたのはとても大事なことだと感じた。

ボイシネウォークは基本的にイヤホンから聞こえる指示にしたがって体験者が場所を移動し、ときに映像も見ながら物語が進む仕組みになっている。スタートしてすぐは車通りの多い道だったので「ヒトガタの村」の村を感じる事が難しかったが、だんだんと住宅街に入っていくとストーリーに引き込まれていった。

前半は単純なセリフの繰り返しのように思えるが、演じた俳優たちが良かったのか効果音なども含めて物語の雰囲気にのみこまれていく。それがあぜ道のような場所になると、臨場感が増していき、あまり手入れのされていない雑木林の中にある神社や廃校周辺ではまさにホラーを体験していると実感できた。

指示に従って坂を上ったり下ったり、住宅街に入ったり幹線道路脇を歩いたりと結構歩いていることに気付く。体験者はうまい具合にうみまちテラスを中心に街を周回しているのだ。物語は最後の川沿いでクライマックスをむかえる。クライマックス辺りになると、良い天気だったこともあって汗をかき、ずいぶん歩いたことに気付く。

このアトラクションは物語に沿って歩くことによって健康促進の効果も狙っているのだ。自然に囲まれたのどかな雰囲気でのボイシネウォークは充分に楽しめた。

映像の問題点としては、スマホサイズの画面に表示させるので細かい部分はわかりづらいのと、何より今回のような晴天の時は明るい映像でないと何が映っているのかがわからず影に入って確認したことが何度かあった。映像は一度しか再生されないので明るさはとても大事だが、今回のようなホラーの場合、音で聞かせるストーリーではあるが、映像はどうしても暗くなりがちなので、さらなる工夫が必要になってくるだろう。

この携帯端末用の動画制作は、インターネットでの動画配信が始まった頃の動画制作とよく似ている。通信速度の制限から小さい画面表示しかできないため、多くのアップ画面が必要なことと、複数存在する圧縮するファイルの信頼性があまりないことなど、様々な類似性がある。

筆者が現在、脚本演出を担当した作品もグリーンバック撮影と実写撮影が同じシーンに入っている事で最終の書き出しに試行錯誤が必要だった。

映画やテレビ、ネット用の動画撮影に加えてスマホなどの携帯端末専用の動画制作が今後、大幅に増えていくだろうと思えた大洗町での体験だった。

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