【衆院選2021】スキャンダルはどこに?静かに投票日を迎える京都3区(オフィス・シュンキ)

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31日の投開票を迎える「衆議院議員総選挙」。ここ数年、スキャンダルや政党の戦略などで全国的にも注目を集め続けたのが、京都府の京都3区です。今回も、選挙間近になって、「日本維新の会」の候補差し替え、「日本共産党」の不出馬宣言と続きました。

この選挙区での立候補者は、届け出順に「日本維新の会」(以下、「維新」)の井上博明氏、「自由民主党」(以下、「自民党」の木村弥生氏、「立憲民主党」(以下、「立憲」)の泉ケンタ氏、の3人。泉氏と木村氏が前職、井上氏は新人です。泉氏は党の政務調査会長を務めるですが、京都府の出身ではありません。木村氏もそうで、京都府に昔から縁があった方とは違います。井上氏だけは選挙区の乙訓(おとくに)と呼ばれる地域の出身です。

公示日となった19日。私は3氏の出陣式に出向いてみました。

京都府向日市で行われた維新の井上候補の出陣式には、地元の支持者と地元地方議員だけが参列。「出馬の要請を受けたのが遅く立候補の届け出に時間がかかりました」と、自らの意思で出馬に至ったのでないことを隠さず話す井上候補。「せいじか、というよりも、せいじや、みたいな人ばかりが政治を動かしている」と京都3区の他の候補の批判を出陣式で展開されていました。

京都市伏見区の目抜き通りである伏見商店街と目と鼻の先といってもいい場所で行われた自民党の木村候補の出陣式には地元の国会議員、地方議員と推薦政党である公明党の地元議員が参列していました。そして、第一声。看護・医療専門の議員としてのこれまでの活動をアピールした後、「小選挙区は『木村弥生』、そして比例区は『公明党』とお書きください」と木村候補は言い放ちました。確かに、公明党との連立政権ではありますが、所属する政党を比例区の投票先としなかったのは驚かされました。

京都府長岡京市にあるスーパー前で行われた立憲の泉候補の出陣式には中小路健吾・長岡京市長、地元の無所属の府議会議員らが参列。第一声で泉氏は「今までであれば、選挙期間中ずっと選挙区で活動が出来た。しかし、今回は京都3区を離れなければいけない」と党の要職に就く立場として、地元で選挙戦を展開できないことの不安も訴えました。

3候補の出陣式で、共通して私が感じたこと。それは、熱気の少なさでした。コロナ禍の中で行われる初めての「衆議院総選挙」を象徴したのか、というように静かだったのです。支援者があふれかえる、という光景もありませんでした。

このことに関して、3陣営とも声をそろえるようにしていわれたのは「人を集めることはできないので、ほとんど(出陣式を)周知してません」ということでした。しかし例えば、この京都3区とは関係ない、県としてはお隣の兵庫3区のJR垂水駅前。25日に行われた維新の吉村洋文副代表(大阪府知事)の応援演説をのぞいた私は駅前ロータリーを埋め尽くす千人に達しようか、という人の波に圧倒されました。コロナ禍でも、熱気があるところにはあるのです。

自分の意思での出馬でないことを話す候補、自党でない党に比例票投票を呼び掛ける候補、選挙期間中地元にほぼいないことを表明する候補。「不思議なものを見たな」というのが京都3区の各候補の出陣式での素直なところでした。そして、ここ数年、この選挙前まで続く、この区の「政治」以前の騒動の影響がほとんど感じられない選挙が展開されていることにも驚かされました。

この選挙区が「政策」以外で知られることになった元代議士2人のことに触れてみます。
この選挙区が、全国的に知れ渡ったのは、2016年1月に、2014年暮れの総選挙で、接戦の末、泉氏に勝利した自民党の宮崎謙介代議士(当時)が週刊誌の不倫報道などから世間の非難に晒される存在となった時からでした。「ゲス不倫」といわれ、連日のようにテレビを中心にメディアに宮崎氏の不倫問題が取り上げられ、ついに議員辞職に追い込まれたのは、いまだに多くの国民の記憶に刻まれている事実です。

宮崎代議士辞職による補選が同年4月に行われましたが、ここで「おおさか維新の会」(現「日本維新の会」)が地方進出の足掛かりに、と候補者擁立を決定。選ばれたのが、京都に縁のない愛媛県西条市出身の森夏枝氏でした。この補選で、森氏は泉氏に惨敗を喫します。しかし、そのまま京都にとどまった森氏は2017年10月の総選挙で、維新の近畿ブロック比例単独1位として登場。小選挙区は前回と同じ京都3区でしたが、これはまたも惨敗。供託金没収ラインすれすれの有効得票数の10パーセントに辛うじて届くことで比例選出の代議士となりました。そして4年を経て、「党費の肩代わり」や身内の維新府議に対する「怪文書作成』などが明らかになり、メディアを騒がせたのは周知の通りです。

2人の影響で、ここ数年、政策以前のことで、注目されることとなった同選挙区。いざ、選挙戦となると、各候補が政策でやりあうことで、そういった選挙区のイメージを変えていく図を想像し選挙区取材にあたったのですが、各党の大物政治家も入っているにも関わらず、出陣式以後、静かな選挙戦がずっと続いているように思えます。そして、おそらく31日の投開票も、何事もなかったかのように波乱なく終わるのが想像できるところに、今の「選挙」のなにか大きな課題が潜んでいるように思えるのも確かなのです。

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