武田双雲の日本文化入門〜第7回 書道の魂!筆の特徴

書道家・現代アーティスト 武田双雲とは

武田双雲(たけだ そううん)さんは熊本県出身、1975年生まれの書道家で、現代アーティスト。企業勤めを経て2001年に書道家として独立。以後、多数のドラマや映画のタイトル文字の書を手掛けています。近年は、米国をはじめ世界各地で書道ワークショップや個展を開き、書道の素晴らしさを伝えています。

本連載では、双雲さんに、書道を通じて日本文化の真髄を語っていただきます。

【連載第7回】「文房四宝」最後のひとつ、筆

本連載の第5回目第6回目で、書道の「文房四宝」である紙、墨、硯について紹介しました。さて、今回はいよいよ最後の宝物である筆について語っていきたいと思います。

書道家にとって筆は、侍における刀のような存在。最も重要だといっても過言ではありません。

筆の穂は、真ん中から少し膨らんでおり、墨を吸うと、先が細くなります。こうした独特の形状で、かつ柔らかい毛でできているからこそ、たった一本で、様々な表現ができるのです。

例えば、筆が柔らかい分、紙に押し込んで縮んだ筆を浮かせる瞬間に弾力が生まれます。これを活かすと、柔らかさと力強さを併せ持つ線を生み出せます。

さらに、縦横、上下の動きだけでなく、指先を動かして筆の軸を回転させたり、手首を微妙に動かしたりすることによって、多様な個性を表現することも可能です。

もっとも、多彩な表現ができる分、筆で書くことには難しさもあります。そして、その難しさこそ、書道の最大の魅力でもあるのです。

なお、美しい線を書くにはリズム感も大事です。リズムが良くない音楽は聞きづらいのと同じで、書道の線もリズム感がないと見ていて気持ちの良いものではなくなります。

書道家が表現したいことを実現できるよう、筆職人さんたちは創意工夫をしながら一生懸命、筆を作ってくれています。

私はこれまで、何度か筆工房に訪れ、筆づくりの一部を体験させてもらったことがあります。その際、一本一本がとても丁寧に作られていることに感動しました。

筆づくりは、細かく分けると20以上の工程があります。ここで順番に追ってみましょう。

まず、穂の部分は、動物の毛からつくります。よく使われる毛は、羊毛(山羊)、馬です。羊毛は柔らかく弾力があり、馬の毛は硬めといった特徴があります。

これらの毛は灰で揉み込み、余分な油分を取り除いて、墨を含ませやすくしたり、まっすぐにしたりします。さらに、いらない毛を除去したり、寸切りと言われるカッティング作業を行ったりして、穂先を整えていきます。その際、穂の先端や真ん中、根本、さらに外側と内側で、毛の種類をそれぞれ分ける場合もあります。

こうしてできた穂を、糊や糸を使って固め、最後に筆管と合体させれば、筆の出来上がりです。

筆職人は、書道家がワクワクする書を表現できるよう、繊細に気配りしながら筆をつくっています。以前、江戸筆職人の亀井さんという方にオーダーメイドの筆を注文したのですが、私の個性や手癖を深く観察したうえで彼が出してきた1本は、驚くべき使い心地の良さでした。

例えば、線を書いていて最後に「払い」を行う時。筆がスーッと自然に収縮していくような、今まで体験したことがない感覚があったのです。

筆は、書道家にとって本当に大事な道具。私は、筆職人に対して感謝の気持ちでいっぱいです。

今回の書~「筆職人」

筆職人さんたちのすばらしい技術力と、書道家に対する心意気に感謝を込めて書きました。

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