韓国を揺るがす北京の影響力|クライブ・ハミルトン 禁断の書として世界各国で出版停止が相次いだ衝撃作。ベストセラー『目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画』と『見えない手 中国共産党は世界をどう作り変えるか』を徹底的に分かり易く解説した『「目に見えぬ侵略」「見えない手」副読本』(すべて飛鳥新社刊)が、韓国語で11月中旬に発売!ハミルトン教授による韓国語版の序文を掲載する!

韓国語版『「目に見えぬ侵略」「見えない手」副読本』

中華人民共和国(以下、中国と表記)湖北省武漢市で発生したコロナウイルスが世界をパンデミックの衝撃の中に押し込め、国際的戦略地形が変化している。本文を書いている現在も今後事態が鎮静するまで一~二年かかるのか否、五年掛かるのか予測が難しい状況である。だが昨年一年余の間、パンデミックを経験し我々は中国共産党(Chinese Communist Party :CCP)(以下、中共)と表記。の本質と行動について大変重要な洞察を得た。

我々が脅威を感じれば中国は逆に過敏に反応し、批判を鎮めるためなら躊躇(ためら)わず脅迫に出る事を知った。特に、コロナウイルスのみならず自国の利益に関わる全ての世界的な叙事を統制しようとする北京の意志を、より確実に悟る事となった。中共は国際秩序を変えて世界を自らの思いのままにすると決定した。本書で説明するが、中共は今、高度な体系を用い他国に向けた影響力を広めている。支持者を包摂し批判する者たちの口には轡(くつわ)をはめ、機関を転覆する方法を用いる。目標は中共に対する反発を弱体化させる事だ。

周知の如く、中共指導部は偏執症的だ。中国の四方に潜む「敵対勢力」に向け、果てしない理念闘争を展開するより他ないと信じている。西欧の軍事大国は歴史が―時には戦争で途切れる事もあるが―長い平和の物語で成り立っていると理解する。しかし、中共が統治する中国は自ら永遠に終わらない戦争を繰り広げていると考える。大部分は政治的であれ、理念的であれ、政治と理念が混合した形態の戦争だが、これは動的戦争、言い換えれば銃を用いたり、ミサイルを発射したりする戦争を避けるための「別の手段による戦争」であるだけだ。

北京が国際的に最も注力し推進する戦略目標は対米同盟解体であり、北京がインド太平洋地域で狙う主要国家が豪州と日本、韓国だ。北京は韓国と米国の関係を引き離すため多様な手段を動員している。韓米同盟を弱化させない限り韓国を支配出来ないという事実を知っている。北京が使用する主要武器は交易と投資である。北京は「経済策略」正確に言えば「経済脅迫」の名手である。中国に対する経済的依存を利用し、他国の政治的譲歩を引き出す。

北京はTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備と関連し、反韓民族主義者らによる暴力的行動を促し、ロッテ百貨店を中国から追い出す等、韓国に激烈な反応を示した。他国がこの状況を見て覚醒すべきだったのだが、不幸にもそうはならなかった。2020年、北京が豪州の中国輸出を禁止する一連の貿易規制を断行すると、多くの豪州人が驚いた理由もこのためだった。北京の不当な貿易規制は、中共の影響力に対抗策を講じた豪州政府に対する不満を示す意図があった。

北京が政治的戦争に用いる武器は交易と投資だけではない。既に、韓国の財界には北京の満足を唯一の目標とし活動する強力な利益集団が席巻している。北京はまた、韓国の学界と政界、文化界、メディア界の指導層全般に渡り北京擁護者と融和論者らを確保している。中共は、影響力行使者はもちろん諜報工作員らも動員し、大規模ネットワークを構築。彼らの目標は韓国機関の独立性を棄損する事により、地域覇権を狙う北京に抵抗する韓国の力を弱体化させる事だ。

中国は現在、各国の対中技術的依存を利用し海外で政治的影響力を強めている。北京がHuaweiを押し出し、5Gネットワークの構築を全世界の多くの国で強力に推進する理由はこのためだ。今やHuaweiと関連した多くのサイバースパイ活動事例が世界で報告されているが、西欧の戦略家らがより強く心配するのは紛争が発生した場合、北京がHuaweiの装備を利用し交通網と電力網、金融網はもちろん通信網まで全て遮断し、相手国を麻痺させる事だ。こうした状況は可能性に過ぎないが、武力衝突が切迫すればほぼ確実に起きるだろう。

韓国政府は5GネットワークにHuawei機器を使用する問題と関連し、中国と米国の「仲裁者」になりたいという意志を吐露しているが、危険な選択だ。韓国が北京の国際的ゲームに介入した瞬間、将棋の駒の「歩」の様に使い捨てられるのが明白なためだ。もし西欧がHuaweiを排除すれば、当然三星(サムスン)が最大の受益者となることも忘れてはならない。

また、韓国は歴史戦で中国を味方につけ中国の宣伝に巻き込まれないよう注意すべきだ。韓国は固有の歴史と文化を誇る国だ。しかし最近、中共が韓国の映画とTV産業に微妙な影響力を行使する状況が憂慮される。ハリウッドがそうである様に、北京は中国人投資家と巨大な中国市場を餌に韓国から伝えられる話を検閲し、中国に対する世界の認識を変えるために行うプロパガンダに合わせて歴史を歪曲する。

北京の無分別な嫌がらせと微妙な強圧に悩まされた韓国で最近、中国に向けた肯定的な情緒が現れている。豪州も同様であった。だが、豪州と韓国両国間には差異点がある。豪州政府は北京の嫌がらせに立ち向かったが、韓国の政治指導層は端から中国を恐れ、米国との間で「戦略的曖昧性」という軟弱な態度を維持した。もし、韓国政府が中国と緊密な関係を維持しつつ、韓国の独立も守れると思うのであれば、これは危険な賭けである。オバマ政権で中国政策の責任を担った著名な進歩主義者らは現在、初めて中共の真の本質と野望が何であるかに気付いた。韓国も目を開くべきだ。中国の真の本質と野望に気付かなければ韓国も危険である。だが現在、韓国政府には北京と通じながら民主主義と人権を擁護しようという意志を見出せない。

中国から亡命した人々は時々、中共が統治する中国を民主主義がない北韓にあてこすり「西韓(West Korea)」と呼ぶ事がある。中共は安心して暮らす全ての権利を威嚇する。チベット人とウイグル人、法輪功修練者、香港民主化活動家を始めとする多くの人々が中共の抑圧に苦しみながら、果てしない恐怖の中で生きている。政府と大学、企業経営者は、北京の怒りを買って経済的報復を受けるのではないかと恐れている。こうした恐れは伝染性が強く致命的だ。その対価として、経済的安定を確保できるといっても、それは絶対に治癒できない苦しみである。

クライブ・ハミルトン
2021年
(翻訳/黄哲秀)(ハミルトン教授および版元のセジョン書籍の許可を得て掲載)

クライブ・ハミルトン

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