<社説>21衆院選 暮らし・経済 ばらまきより展望示せ

 今衆院選の重要な争点の一つは暮らし・経済である。各党は金額が異なるものの、コロナ禍からの回復へ向け、国民への現金給付を公約に掲げている。ただその財源は国債発行、つまり借金で賄う。 借金をどのように返済するのか明らかにしなければ、将来世代につけを回すことになる。ばらまきを競うのでなく、将来を見据えた議論こそが求められている。

 国債などの残高を合計した国の借金は、2020年度末で1216兆円に上る。国民1人当たり約987万円だ。借金を前提にした給付であれば国民への説明は必須だ。

 一方、財務省の法人企業統計などによると、企業が蓄えた内部留保は12年度の304兆円から19年度には475兆円となり約1.56倍だ。

 同じ期間の1人当たり国民所得は279万円から318万円となった。1.03倍の微増にとどまっている。

 この30年、非正規労働者は男性が2.5倍、女性は1.4倍増えた。20年度の労働力調査では「正規の仕事がないため」非正規で働く人が全国で230万人もいる。

 企業は利益を上げているのに給与は上がらず、不安定な雇用を強いられる国民が多数いるのが、この国の実態だ。

 小泉・竹中改革で喧伝(けんでん)された「規制緩和で企業収益が上がれば、国民にも分配される」というトリクルダウンは安倍政権下でも起きなかった。

 今必要なのは企業頼みでなく政治主導による国民への再配分であり、実現できる政党である。自公は賃上げに積極的な企業や生活困窮者向けの支援などを前面に打ち出す。野党は消費税の減税・廃止、大企業に現行以上の税負担を求めるなど手法は異なる。より説得力のある主張はどちらか見極める必要がある。

 同時に未来を担う子どもたちへ学ぶ機会を公平に提供できるかも関心が高い。教育は未来への投資だからだ。

 経済開発協力機構(OECD)調査で、国内総生産に占める日本の教育への公的支出は2.9%で加盟国平均の4.1%と差が大きい。公的負担が少ない分、奨学金などの名目で日本の学生が卒業時に負う負債は290万円に上る。

 親の経済格差によって学ぶ機会が奪われてはならない。学生が社会に出る時点で多額の借金を負う仕組みも改善が必要だ。希望する誰もが高等教育を受けられるよう教育無償化を進める必要がある。

 国の調査で全国の子どもの7人に1人は貧困状態で、沖縄は3人に1人である。経済的な貧困は教育格差を招く可能性もある。こうした負の連鎖を断ち切るべきだ。

 非正規労働や貧困状態にある子どもの増加は、これまでの政治の結果だ。変化はないと国民が諦めれば、苦しい状況は固定化する。どの候補者が、私たちの暮らし・経済を好転させられるのか。残りわずかな選挙戦だが、それぞれが語る理念に耳を傾けたい。

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