なぜ大谷翔平はいつもニコニコしているのか? “幸福感”の理由をマンダラ考案者が分析

エンゼルス・大谷翔平【写真:Getty Images】

スポーツを続けるモチベーションを“外発的”から“内発的”に

米大リーグで歴史的な活躍を見せるエンゼルス・大谷翔平投手の成長過程に欠かせなかったのが“原田メソッド”だ。「ドラフト1位で8球団から指名を受ける」という目標と、そこに至るために必要な要素を9×9=81個のマスに細かく書き出した“マンダラ”として有名になったツールを開発したのが、原田教育研究所を主宰する原田隆史氏。大谷に続く選手を生みだすために、日本のスポーツ界、とくに少年少女を取り巻く環境の変化を願う。

少年少女の育成世代でまず改革すべきものは、親をはじめとした周囲の大人だ。とくに指導者の意識改革は急務だと言い、原田氏は警鐘を鳴らす。

「まず体罰、暴力、恫喝を禁止することですよ。外発的なモチベーションでは、スポーツも続くわけがないんです。ダメだった時の罰則を、恫喝とか無視とか暴力とかに訴えることがまだまだある。これを内発的な『好きだからやる』とか『仲間がいるからやる』という動機づけにすることができれば、日本の野球も変わっていくんじゃないですか?」

東京五輪を見て、若年層の競技に対する考え方が変わってきているのをまざまざと感じたという。スケートボード競技では失敗を「いいチャレンジ」と称え、敗れた選手をメダリストが担ぎ上げて喜んでいた。競技は敵と一戦交えるものではなく、仲間と楽しむものだという思いがあふれていた。「野球にはそういう意識がまだまだ足りない。だから伸びしろ十分ですよ」と指摘する。

目標達成を後押しする“原田メソッド”を取り入れているチームや選手はスポーツ界にも多い。Jリーグの浦和レッズ、陸上の多田修平選手、「チアダン」のタイトルで映画、ドラマ化もされた福井商業高のチアリーディングチーム、ラグビーの清宮克幸監督や五郎丸歩選手……と、次々に名前が上がる。成功している選手に共通するのは、自ら主体的に動けること。そういう選手を増やすためにも、スポーツの目的を転換する必要がある。

原田教育研究所を主宰する原田隆史氏【写真:荒川祐史】

いつもニコニコ、大谷翔平の笑顔を生む“絆”の存在

スポーツの目的を変えるとはどういうことか。これまでのように、試合に臨むにあたって「敵をやっつけよう」という考え方でいると、脳内では興奮状態を作るドーパミンが分泌され交感神経系が働く。「日本のスポーツ選手の引退が早いのは、ドーパミン優位でいすぎるからですよ」。勝ち続けた選手もあるとき燃え尽き、自律神経失調症やうつ病に陥るケースが多いという。

一方で「好きだから、仲間によろこんでもらいたいからやりたい」という考え方だと、精神を安定させるオキシトシン、セロトニンが分泌され副交感神経系が働く。興奮とリラックスをうまく混ぜていくので、並外れた集中力を発揮できる“ゾーン”に入って結果も出る。さらに、成功体験から幸福感がでてくるのだと言う。いつもニコニコして、楽しそうにプレーしている大谷の姿とダブらないだろうか。

「さらに絆というか、多くの方に助けてもらうことを考え出すと、セロトニンが分泌されます。大谷翔平がチームを作ってハードにやっているのは、脳神経学から言っても正しいのです」

大谷は高校時代に計16枚のマンダラを書いた。その最後の1枚は、メソッドを考案した原田氏もうなるほどの完成度を誇る。それぞれの目標に対して、栄養面は母・加代子さん、技術面は花巻東高の佐々木洋監督などと、達成に導く責任者を明記していたのだ。意図したことではないのかもしれないが、成功へのチームと、皆が幸福になるシステムを作り上げていた。

長時間練習の弊害「人間には防御本能があるので…」

さらに日本のスポーツ界は練習量が多すぎ、いざ本番で100%の力を出すことを難しくしていると言う。「人間には防御本能があるので、7割で行こうとする。手抜きをするんですよ」と指摘する。特に女性はこの傾向が強く「女子のスポーツチームが、長時間練習で強くなったことはないと思いますよ」。原田氏は陸上部を指導していたころ、練習を90分までに限っていた。他の学校では連日3時間。毎日「長くやる」のではなく「100%を出す」ように目的を変えていかないと、試合ですべてを出せるわけがない。

変わらなければならない部分は多い。そして、先に変われば優位に立てるのが今だ。原田氏の考え方には、スポーツ界を進化させるためのヒントが詰まっている。

○原田隆史(はらだ・たかし)1960年8月13日、大阪市阿倍野区生まれ。奈良教育大を卒業後、大阪市内の中学校に体育教師として赴任、松虫中陸上部では生徒を13回の日本一に導く。教職を辞した後の2003年に原田教育研究所を設立。ユニクロを始めとした国内500社、約10万人の社員教育に関わる。不登校児がネットで学ぶ「クラスジャパン学園」校長、ビジネス・ブレークスルー大学教授、通信制「N高等学校」評議員などを務め、現在も教育の第一線に立つ。

◇◇◇◇◇◇◇
【現在無料配信中】「200勝左腕が32年間けがをしなかったボールの投げ方」
「TURNING POINT」公式LINE
https://lin.ee/dPKzOXj

育成年代の野球現場に関わる人々へ向けた動画配信サービス「TURNING POINT(ターニングポイント)」が今秋スタート。元プロ選手、アマチュア指導者、トレーナーなど、野球を熟知した一流のアドバイザーがプレーヤーの技術や成長をサポートする指導・育成に特化した動画を配信。成功や技術だけではない多種多様なノウハウ」を発信していきます。公式LINEにて友だち登録を受付中です。LINE登録した方だけの特典映像やお得な情報を配信します。ぜひご登録ください。(Full-Count編集部)

© 株式会社Creative2