変わる「品川」 高輪口に駅前広場 高架の京急は地上に やがてリニアとメトロ南北線が乗り入れる【取材ノートからNo8】

品川駅高輪口全景。正面がJR駅、右側が京急駅。タクシーが客待ちする駅前広場はいかにも手狭です(筆者撮影)

少し前の話ですが、緊急事態宣言で通勤者が減ったとか、宣言の効果が薄れて通勤者が増えてきたとか――。そんなニュースのバックには、品川駅の映像がよく流れていたような気がします。西側にあるJRや京急の改札から東側の港南口には幅広い通路が伸びていて、テレビカメラを置いてもじゃまにならない。通路を行き交う人は、多くが駅近隣のオフィスに向かうビジネスマン・ウーマンということで選ばれたのでしょう。

そんなこんなをきっかけに、品川駅が気になり始めました。当初予定より遅れそうですが、やがてはリニア中央新幹線がやってくる。東京メトロ南北線も乗り入れることになりそうです。山手線田町―品川間では、JR東日本の大規模開発が進行中で、駅は大きく変わろうとしています。取材ノートを読み返しながら。品川駅や近隣の古い話、新しい話を集めました。

ブルトレが出発を待っていた巨大車両基地

鉄道ファンには、田町―品川間を走る山手線や京浜東北線の車窓から目をこらした経験をお持ちの方も多いでしょう。同区間には巨大な車両基地があって、いろんな列車が停車していました。例えば、夜行列車のブルートレインもここで出発を待っていたのです。

車両基地の開設は1930年。当初の名前は「田町電車区」でした。国鉄からJR東日本になって、2004年には「田町車両センター」に。現在は「東京総合車両センター田町派出所」というそうです。面積は東京ドーム3個分弱の約13ヘクタールもあって、とにかく広い。

車両基地は鉄道会社には必要な施設ですが、何も都心一等地に置く必要はない。都心の土地は稼げるわけですから。車両基地を集約したりどこかに移して、跡地にいろんなビルを建てるのがJR東日本の品川再開発です。

JR東日本は2018年に「品川開発プロジェクト」の概要を発表。玄関口の新駅「高輪ゲートウェイ」は2020年3月、田町―品川間に開業しました。品川再開発をめぐっては、研究者が「世界的にも極めて重要な近代文化遺産」と評価する鉄道遺構の「高輪築堤」が見つかり、コロナ禍もあって開発計画の再検討もうわさされますが、当初計画では街開きは2024年の予定です。

港南口vs高輪口 高輪口が巻き返す

話を品川駅に戻して、駅の東西を比較すれば、昔は裏口だった東側の港南口がにぎわいを増しています。しかし、東高西低だった品川駅で今、西側の高輪口の巻き返し(?)が始まっています。

高輪口は駅前を国道15号線が走っていて、駅前広場のスペースをほとんど取れません。国道を管理するのは国土交通省。国交省道路局は国道上に人工地盤を形成してにぎわい広場やバス・タクシーの交通ターミナル、防災ステーションなどを整備する「次世代交通ターミナル構想」を2018年に発表しています。

品川駅高輪口の国道15号線上に造られる次世代交通ターミナル=イメージ=。植栽などで自然あふれる公共空間を形成します(画像:国土交通省)

開発コンセプトは、「世界の人々が集い交わる未来型の駅前広場」。広場には一般高速バスやツアー高速バスのほか、実用化に向けて研究開発が進む自動運転の次世代モビリティのターミナルも設けます。鉄道とバスやタクシーの交通結節機能では2016年4月、国(関東地方整備局整)が事業主体になって新宿駅新南口直結で開業した交通ターミナル「バスタ新宿」がお手本です。防災機能では、自然災害時の救援物資の配送機能を広場内に置き、仕分け・配送拠点とするそうです。

品川駅はJRも京急も線路は地上 駅舎は高架上に

京急品川駅。駅上は駅ビルの「ウィング高輪」。上層部を京急線が走ります(筆者撮影)

品川駅をご利用の方、思い出してみてください。「品川降りたことないよ」という方は、写真でご想像下さい。鉄道は高輪口側から高架の京急に続き、地上を走るJR在来線4線、さらに東海道新幹線が走ります。JR在来線は高輪口側から山手線、京浜東北線、東海道線、横須賀線が並びます。2015年の上野東京ライン開通で、常磐線特急や快速の多くは品川駅が始発になりました。

高輪口には〝ネコのひたい〟ほどの駅前広場がありますが、とにかく狭い。現状、乗り入れられるのはタクシーだけで、路線バスは数カ所に分かれて国道15号線を発着します。

橋上にあるJRの改札口を出て高輪口に抜ける場合、そのままだと同一平面の京急ホームが邪魔して出られません。そこで駅改良では、高架上の京急ホームを地上に下ろし、地上の駅舎を2階に上げて、京急とJRを同一平面にそろえます。完成後はJRも京急も、2階改札口からアップダウンなしで、国交省が整備する次世代交通ターミナルに抜けられるようになります。

京急は、品川の次駅の北品川への線路構造も大きく変えます。現在は品川を発車した京急線は、JR線をトラス橋でまたぎ、大きな踏切を超えて北品川に入りますが、東京都が進める泉岳寺―新馬場間の連続立体交差事業で、北品川駅は高架に上がります。

品川―北品川間の品川第一踏切は、京急が路面電車だったころの名残をとどめるフォトスポット。ファンには寂しく感じる方がいらっしゃるかもしれません。

地下鉄もくる?都心部・品川地下鉄線構想

東京メトロ南北線 白金高輪駅(地上部)。現在の構想では、当駅から品川地下鉄線が分岐するイメージです。地下鉄駅なので当然かもしれませんが駅前広場はありません

本サイトでも何回も書かせていただきましたが、品川まで地下鉄を延伸させる計画もあります。都心部・品川地下鉄線構想。地下鉄新線は、東京メトロ南北線・都営地下鉄三田線の白金高輪から分岐して、品川に至ります。検討ルートは2案あり、都営地下鉄高輪台駅の北側を通るか、南側かの違いです。

都は「品川はリニア中央新幹線や羽田空港への広域的な交通結節点。品川駅を都心とつなぐことで、都心部の発展に寄与できる。品川駅周辺の開発効果を広域に広げる可能性も大きく、地下鉄線構想を早期に具体化すべき」と訴えます。

2021年7月の運輸政策審議会の答申では、品川地下鉄線は事業主体の選定や費用負担の調整を早急に進め、早期の事業化を図るべきとされました。

高層ビルに住宅、教育施設、オフィス、ホテルが入る

本章では、JR東日本の「品川開発プロジェクト」に、さわりだけですが触れましょう。JRと都市再生機構(UR)の共同開発で、高輪ゲートウェイ駅と街区が〝エキマチ一体〟になって都市基盤を形成、国際ビジネス交流拠点にふさわしい多様な都市機能を備えます。全体開発面積は前に書きましたが13ヘクタールで、1期分は9.5ヘクタール。そこに4棟の高層ビルを建設します。

最も高いビルは地上45階、地下3階建てで、延べ床面積約14万9000平方メートル。ビルの中身は住宅、教育施設、オフィスなど。ほかにリニアに直結し、羽田へのアクセスも良好な地の利を生かし、ホテル、国際会議場も造られます。

N’EX車内でテレワーク 駅ビルにはユーチューバー向けスタジオ

「成田エクスプレス」に使用されるE259電車(写真:鉄道チャンネル)

ラストは品川駅をめぐる最新の話題を2席。JR東日本東京支社は2021年10月25~29日、品川駅8番線臨時ホームに停めた特急「成田エクスプレス(N’EX)」(6両編成)の車内を仕事空間として活用する「N’EXでテレワーク!」の実証実験を実施しました。シェアオフィスのニーズが高い品川に130席分のテレワークスペースを用意して、ニーズを探るトライアルです。

京急にも、ユニークなニュースが見付かりました。京急百貨店は2021年10月6日、品川駅ビルの商業施設「ウィング高輪」に動画配信スタジオ「STUDIO JUNO(スタジオジュノー)」をオープンしました。運営は横浜市の写真スタジオ・ジュノー。スペースは約35平方メートルで、カメラや照明、マイク、音響ミキサー、パソコンなど動画配信設備がレンタルできます。「品川駅でユーチューバーになろう」がキャッチフレーズ。

品川駅ビル「ウィング高輪」にお目見えしたユーチューバー向けスタジオ(画像:京急百貨店)

リニアや地下鉄と話題豊富な品川が、注目エリアであるのは確か。「東京都心の南の玄関口」は、これからも新しい文化の発信基地として話題を届けてくれそうです。

記事:上里夏生

© 株式会社エキスプレス